6

 僕は灰の子、肌は黒く顔は見えない。僕と皆は、くらい洞窟で暮らしていた。


「おはよう、皆」

「おはよう」


 僕の声に皆はコクリと頷いて返してくれる、何も見えないはずの顔は、何処かにこやかに微笑んでいる様に見えた。


 外からは雨の音が激しくしていた。


「雨……」


 雨は嫌いだった

いつも外で遊んでくれる友達もその日は中に居た。


 僕は仕方なく洞窟の探索でもしていようと、友達を誘いに立ち上がった。

 いつも4人で遊んでいたが、今日は1人遊ばないらしい。


「体調が悪いんだって」


 僕らは思い思いに、木の棒や鍋の蓋なんかを持って、大人たちの狩りの真似をして遊びながら洞窟の奥へと進んで行った。

 とは言ったものの、洞窟はそこまで広くも無く、すべての部屋は大人たちが探索しつくしていた。


 なので僕達は色んな部屋で石を削ったり、叩いたりして遊んでいた。


「岩が動いた」


 友達の一人が皆をその岩まで連れて行ってくれた。


 いつも大きな岩があったその場所には、ポッカリと穴が空いていて風が吹きぬける音がしていた。僕らは顔を合わせて頷き、足を踏み入れた。


 机に椅子、食器にマグカップ、開かれたままの本が灰を被っていた。

 中は誰かが居たその時のままで、時が止まったかのように生活感が感じられた。


「すげぇ!」


 僕達は部屋に入るなり、散り散りになって中を物色し始めた。僕が机の上に置いてあった本を取ると何が床に落ちた。

 拾い上げるとそれは、動く絵だった。僕が右に傾けば絵も右に傾き、左に傾けば左に傾けき。僕がそれが己を映す何かだとわかるまで、そう時間は掛からなかった。


 そこに映っていたのは、僕らの顔では無かった。

 黒い顔には、見たことの無い凹凸があった、黒い丸が動く白いの何かが2つに、ポカリと空いた穴には白い何かが並んでいた。

 それはまるで、いつも大人が狩ってくる動物の様な……

 急に家族を遠く感じた、恐怖した、食べられてしまうのではないか。


 僕はそこから逃げる様に走った。


「待って!」


 追いかけてくる友達は、さながら獲物を追いかける捕食者の様。僕はもう友達を友達と見えなくなっていた。


「ガァァ」


 僕がはしっていると目の前に誰かが聞いたこともない奇声を上げて飛びかかって来た。それは、今日体調不良で寝込んでいたはずの友達だった。


 僕は驚いた拍子に足を挫き横に倒れる、と同時にさっきまで僕のいた場所で何かが掠める音がした。それを見て僕は確信した。

 やっぱり僕は……


 僕はその場から逃げようと立ち上がるも、挫いた足から激痛が走って立ち上がる事が出来なかった。すでに友達……だった子は両腕を振り上げていた。

 このままじゃ食べられてしまう、そう思い、その場から離れようと必死に体を引きずる。

 すると、騒ぎを聞きつけて来た大人たちがその子を取り押さえた。


「この子……」

「あぁもうダメだ」


 すると大人たちはその子を囲む


ゴキッ


 その音とともにさっきまで聞こえていた唸り声も聞こえなくなった。


「大丈夫?」


 大人の一人が僕を抱きかかえようとしてきたが、僕は必死に抵抗をした。


「やめて!触らないで!」

「ど、どうしたの」

「僕は皆と違うんだ、皆、僕のことを動物みたいに食べるんだ!」


 僕の口から出た言葉は恐怖と興奮によって、ぐちゃぐちゃになっていた。


「まさか」


 そう言うと大人は僕の顔を撫でるように触った。ザラリとした感触がした。

 すると突然に大人は慌てだし、さっきとは比べ物にならないほどの強さで腕を掴んできた。


「いたい!」


 僕は痛みからその力に抗うことも出来ずにズルズルと何処かへ連れて行かれた。後ろでは子供二人が僕を見ていた。哀れ気に悲し気に、そして異端視しているように見えた……


 そう思えた。


 僕は狭い空間に入れられた、さっきの部屋よりは小さいし、トイレよりは大きいそんな空間。ポカリと空いた出入り口は閉めるものなど無く、出ようとすれば出られるけど、直ぐに大人に捕まる。


 しばらくすると大人数人が入ってきて僕を取り囲んで一人が手をのばす。またザラリとした感触がした。

 一人は頷くと、他の大人が僕を羽交い締めにした、一人は僕の目の前に何かを出した。それは赤黒くて酷い悪臭がしていた。


 僕は何をされるかが分かって力いっぱいに動いて拒否をしたが、僕を掴む大人の手はピクリとも動くことはなかった。

 大人の手は止まることなく、それを僕の口へと運んだ。


「うっ、んぐっ、が」


 ドロドロで血生臭い、体がそれを全力で拒否をして胃酸が上がってくる。


ベチャッ


 口から溢れた胃酸が地面に落ちる音がした。もう口の中は生臭さと苦い様な酸っぱいさで、めちゃくちゃにかき乱されていた。ただ、それでは終わらなかった一人はまた、胃酸の残った口の中へそれを流し込んだ。

 私は吐いた、また流し込まれる、それは私が飲み込めるまで続いた。その時には胃は枯れ、胃酸で溶けた喉からはカスカスの空気の抜ける音がしていた。

 それは一日、二日、一週間、一ヶ月と繰り返された。

 段々と僕は変わっていった、肌は白く、腹と背はくっついた様に痩せ、胃酸と栄養を求める腹は大きな音をさせていた。


 今夜は雨か降っていた。いつもより鮮明に聞こえる雨は僕の足音をかき消し、いつもより冴えた視界は真っ暗な洞窟の道を教えてくれた。


 僕は暗い暗いに逃げた。

 

 もう灰ではない。


 遠く遠く逃げた、普段運動なんてしていなかった体はフラフラと

雨でドロドロになった地面に僕の裸足はもつれもつれ。

それでも、走った怖くて、辛くて。


 ただ何より『恨めしくて』


 ついには倒れて起き上がれなくても、それでも必死に遠く遠くへ。

 次第に意識はも遠く遠く。


「大丈夫?」


 目が覚めるとそこには真っ白な肌に輝く様な銀色の髪の君が居た。まるで天使のような君は僕に手を差し伸ばしていた。


 ただ、その赤い目は怖くもあり、まるで悪魔のように魅惑的だった。


Prologue2 end

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