クール便の彗星

河原日羽

クール便の彗星

 クール便を開けると、中に彗星が入っていた。彗星はきらきらと尾をはためかせながら、勢いよく発砲スチロールの箱を飛び出してきた。部屋が花火を散らしたような青白い光で満たされた。

 「とれたて、新鮮な彗星をつめこみました」と箱の中に紙片が同封されていた。なるほど、彗星は部屋を縦横無尽に駆け回っており、たしかに新鮮そうだ。紙片にはいくつか彗星について書いてあるようだったが、彗星が激しく点滅するせいで目がちかちかして読めない。

 しかし、しばらくすると彗星は急に速度を落とし始めた。うすぼんやりと明滅を繰り返し、奇妙な円を描くように飛んでいる。マグカップの周りをまわってみたり、電子レンジ、蛍光灯、TVも試してみたが、お気に召さないようだ。あげくのあてに私の周りを切なく2,3回転して、完全に止まってしまった。彗星は戸惑っているらしい。

 私はあわてて、同封の紙片をぼんやりとした彗星の灯りに近づけた。

 「観賞用彗星。太陽系で採取。太陽の周りで大きな軌道を描いて公転する、とても素早い彗星です」

 そこまで読んで、私ははたと気が付いた。もしかして、彗星は自身が公転する中心の太陽を探しているのではないか。

 今にも消えかかりそうな彗星の光に、私は急いで窓を開けた。あっ、という間もなく、彗星は外へ向かって飛び出した。

 少し寂しい気持ちになりながら、私は改めて、紙片を最後まで読んでみた。

 「注意。太陽ランプを同封いたしますが、初期状態では太陽そのものを公転の中心としています。活きのいいうちに外へ離さないこと。公転の中心を見つけたところを軌道開始点として、おおよそ1分程度で元の場所へ戻ってしまいます。衝突に―」

 ご注意。

 部屋が、青白い花火を散らしたような光で満たされた。

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クール便の彗星 河原日羽 @kawarahiwa

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