第31話 野球小僧-31

 『さて、非常に好天に恵まれて汗ばむような陽気となっておりますが、これから緑ヶ丘学園の野球部と、おなじく緑ヶ丘学園の野球同好会であります愛球会との練習試合が行われようとしております。本日の放送は、解説は、中学高校と野球部に所属しておりました緑川由起子先生、実況は放送部の室和子で、お送りいたします。緑川先生よろしくお願いいたします』

『おじょうずね』

『そうじゃなくて』

『あ、はいはい。よろしくお願いします』

『えーと、愛球会についてなんですが、野球部の方針に合わない有志によって構成された同好会なんですが、先生はご存じでしたか?』

『はい。一応、聞いてます』

『それで、今回練習試合ということになったわけですが、このいきさつにも色々とあったようですが』

『あたしが喋るの?』

『御存じですか?』

『あたしが、聞いた話では、同好会の練習場として野球部グラウンドを貸して欲しいということで、同好会と言えども真剣に野球を取り組んでいるんだというところを見てもらうために、練習試合を申し込んだということですが』

『ご説明ありがとうございます』

『ずるいわね』

『まぁ、堅いことは言わないでください。それで今回の練習試合ということになったわけです。野球部としても、同じ学校に練習相手がいるのは好都合ということで、受けてたったわけですが、実のところ、こうして2チームあるというのは、もったいないように思うんですが』

『そうですね、力が分散してしまうと、公式戦で勝ち抜いていくこともできないかもしれませんね』

『今回のような練習試合でいい選手を選抜して、公式戦には選抜チームで出場するということはできませんでしょうか』

『そのあたりは監督の判断ということになるでしょうから、外部の人間が口を出すことはできないでしょう』

『そうですね。それでは、各チームのオーダーを発表します。ジャンケンで勝った愛球会が後攻を選びました。これはどうしてでしょう』

『たぶん、守備について、まず全員の体を動かして緊張を解くためだと思いますけど』

『そうですか。なるほど。えー、先攻の野球部のオーダーです。1番ライト光明寺一郎、2番サード弟の光明寺二郎、3番ショート緑川直人、4番センター五十嵐風人、5番キャプテンでありますキャッチャー東弘治、6番レフト崎森勇人、7番セカンド野村和幸、8番ファースト西川早人、9番ピッチャー江川純、となっています。

 一方、愛球会のオーダーは、1番ライト山本和彦、2番レフト中沢裕貴、3番センター小林純、4番ピッチャーサンディ=フォンカーザー、5番キャッチャー池田利治、6番ファースト高松晴輝、キャプテンです。7番サード木村俊和、8番ショート林寿彦、9番セカンド大木亮、となっております。

 これを見ますと、野球部は3年生が4人、2年生が5人。愛球会は、3年生がいなくて、2年生が3人、1年生が6人となっていますが、どうでしょう、体力的な差があるように思いますが』

『そうですね、中学生ぐらいですと、1年の体力の差はかなりあると思います。ただ、力が強ければホームランが打てるというわけでもないですから、一方的にはならないと思います』

『確かに、愛球会には、小林、池田、山本というリトルリーグ出身の選手が3人いますから、レベルとしては、それほど落ちないように思えますね』

『野球部にはいないの』

『野球部は、五十嵐君だけですね』

『あと、サンディもかなり上手だと聞いていますが』

『子供のころから野球、ベースボールをしていたということで、実力は文句なしと言うことです。先生も野球部だったんですが、いかがです、楽しみじゃないですか?』

『女の子だからと特別扱いしたいとは思いません。それよりは、あたしが中学の時は、こうしたいい環境で野球をしていたわけではないので、楽しんでプレーしてもらえばいいと思います』

『やっぱり、戦争直後で、物がなかったんですね』

『あたしをいくつだと思ってるの。まだ27歳よ』

『えー、わたくしのちょうど倍の年齢の緑川先生とこれから実況をさせていただきます』

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