第32話 野球小僧-32

 打席にイチローが入った。サンディはいつものようにバックに振り返り、掛け声をかけた。亮は緊張したまま、応えた。ただ、バッターを見ていた、他は見えなかった。


『さて、左打席に駿足のイチロー君が入りました』

『彼のバッティングにはムラがありますから、とりあえず足に警戒したいですね』

『ピッチャー、サンディ、第1球を投げました。ストライク、インコースにストレートです。いかがですか、今のボールは?』

『速いですね。女の子というより、中学生としても速いと思います』

『そうするとサンディを打つのはなかなか難しいと言うことですか?』

『まぁ、コントロールの問題もありますし、スタミナのほうもわかりませんから、少し様子を見ていくのがいいと思います』

『第2球、投げた。ストライク!今度はアウトコース、高めにストライクです』

『イチロー君も戸惑っているようですね』

『マウンドのサンディには余裕が見えます。振りかぶって、第3球目を投げた。ファウル。イチロー君、アウトコースよりのボールを振って、かろうじて当てたというところです』

『イチロー君は元々ピッチャーだったんですが、足を生かすためにバッターに転向して、スイッチヒッターになったばかりで、まだ振りが鈍いですね』

『そうですか。ネット裏では、内縁の妻のあやちゃんが応援しています』

『どうして、そんなことまで知ってるの』

『中川君が色々と情報をくれたもので』

『録音してるんだから、余計なことは言わなくてもいいわ』

『と、言ってるあいだに4球目、空振り、三振!速球の前に敢えなく三振です』

『サンディのスピードに慣れるのに一巡かかるかもしれませんね』


「速いよ、結構」イチロー

「だったら、短く持って当てていけ」東

「そぉんな、せこいこと、このイチロー様にできますかって」イチロー

「一郎」監督

「なんすか」イチロー

「塁に出て、足でかき回せ」監督

「ヘイヘイ」イチロー


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