第11話 野球小僧-11
坂の下に差しかかると上から声が掛かった。
「おはよう!」
「おはよう!」
亮たちも元気良く返事した。坂を駆け上がって上がって合流した。
「ごめんね、遅くなって」
「まだ時間はあるから。それにあと山本と、新田が来てないから」高松
「新田?って新聞部の?」室
「そう」高松
「取材?」室
「そう」高松
「まめじゃな、あそこは。でもさすがに中川君は来ないんだね」室
「中川は別に用があるらしいよ」高松
「待ってる?来るまで」池田
「もう、行こうか。準備もしたいし」高松
ぞろぞろと壁沿いに正門に回り、そこから入った。守衛さんの支持通りグラウンドに行くと、一人の女の子が寄って来て、高松に話をした。高松は言われるままに、サンディを更衣室に行くように促し、男連中はグラウンドの隅で着替え始めた。
「何かドキドキしない?」中沢
「なんで?」木村
「女の子たちに見られてるみたいで」中沢
「いいじゃないの、気にしない気にしない」木村
「俺なら見せてやるよ」池田
「おまえは裸で試合やれ」高松
うだうだと喋りながら着替えていると、山本と新田が到着した。
「遅いぞ!」高松
「ワリィワリィ。すぐ着替えるから」山本
全員が着替え終わり、ウォーミングアップをしているとサンディも合流した。亮は、着慣れない少し大きめの新しいユニフォームに固められたように、ぎこちなく動き回りながらボールを追った。そして練習も終わり、ゲームが始まった。
「さあさあ、行こうぜ行こうぜ」高松
「山本、かっ飛ばせ!」池田
1番の山本が左打席に入った。清明のピッチャーは長身の3年生だった。思ったより速い球を投げ込んできた。1球目を山本は平然と見逃した。身内から野次が飛ぶなか、2球目が投げられ、山本は軽くはじき返した。ボールは右中間を破った。悠々と3塁に到達した山本に、また野次が飛んでいた。亮はその雰囲気に呑まれながらも、次第に溶け込んでいる自分を実感していた。
2番の中沢は、バントのふりをしながら、フォアボールを選び、ノーアウト1、3塁。
3番の小林は慎重にボールを見ながら、2エンド1からセンター返しで山本を返して先制。
そして、4番サンディ登場。ピッチャーの女の子はサンディを前にして少し緊張が緩んだようだった。女だということで安心したのかもしれないな、と見ていると、サンディの顔がいつになく真剣なのに驚いた。亮は普段の快活なサンディしか見ていなかったので、思わず見入ってしまった。サンディは外角への速球を平然と見逃した。その落ち着いた様子は、亮を惹きつけていった。いつの間にかいま自分がどこにいるのか、亮は意識できないでいた。ここがグラウンドであることも忘れて、映画やドラマの肉薄した場面に見入っているような、そんな気分でサンディを見つめていた。
2球目が投げられた。今度も速球。サンディの身体がしなやかに回転し、内角のボールは軽々と外野へ舞い上がった。レフトとセンターが、仰ぎ見ながらボールを追い掛けている間に、中沢、小林とホームへ生還し、サンディも3塁前でちらりと外野を見た後、一気にホームへ突っ切った。ボールがレフトの手に握られたとき、サンディはガッツポーズでホームを駆け抜けた。歓声の中、握手の歓迎を受けるサンディはいつもの笑顔だった。その輝く表情に亮は魅せられ、熱く、自分の全身が熱くなるのを感じた。
「続け、続け」
声援に送り出されて、池田が打席に入った。亮は、そっとバットを握って自分の出番を待った。
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