第10話 野球小僧-10

 亮は清明女学院の近くのバス停でサンディと待ち合わせをしていた。同じクラスなので、普段からよく話をしていて、サンディも何かと亮に話し掛けてくれていた。サンディは日本語が得意だったが、時々言葉に詰まることがあって、その時は英語まじりに話すのだったが、亮にはわりとたやすくその意を酌むことができた。英会話ができるわけではないけれど、サンディの言いたいことを察することができるので、サンディもとかく亮に話し掛けるのだった。もちろん、女の子どうしの方が話しやすいから、サンディも女の子のグループでよく話している。室も割と察するのが早いほうなので、よくサンディと一緒にいた。今日は、不慣れなサンディをむろが案内してバスでやってくるはずだった。

 何台目かのバスでサンディと室が降りてきた。

「おあよう」

室が眠そうな声で言った。

「オハヨウ、リョウ」

サンディの方が日本語が上手だなと亮は思った。

「あたくし、ダメなのよ、朝は。日曜は寝倒してるのに…、こんな早く起きたの久しぶりよ…」

「でも、もう9時だし、普段学校行ってること思ったら、ずっと遅いじゃない」

「なんのなんの、日曜は日曜時間になってるの、あたくしは」

「サンディは元気だね」

「ハイ、今日はゲームですから、早く起きてウォームアォプしてました」

相変わらず快活なサンディに亮は呆気にとられていた。


 室が突然元気な声で問いかけた。

「あ、そうじゃ、亮君」

「なに?」

「津田さんって知ってる」

「ミホちゃん?知ってるよ」

「おやぁ~、なれなれしいね」

「違うよ、ミホちゃんとは、幼稚園から小学校、ずっと一緒だったから」

「しかも、同じ中学校、ってかぁ」

室が詮索の目を向けたことに戸惑いながら、慌てて亮は言った。

「でも、中学に入ってからは、ほとんど顔を合わしてないんだ」

「ほんとかな~?」

「本当だよ。それよりどうしてミホちゃんのこと知ってるの?」

「あたくしは、去年同じクラスだったからね」

「そうなの」

「なかなか可愛い娘だからね、ネ、亮君」

寝ぼけたような目で亮の感情を盗み見ようとする室を遮るように亮は言った。

「ミホちゃんがどうしたの?」

「あぁ、昨日、久しぶりに会って、あんたが同好会…愛球会、だったね。愛球会の試合に出るって言ったら、応援に行きたいけどあの子も試合があるから、残念だって」

「テニス部も今日試合なんだぁ」

「そう。よく知ってるね、テニス部なんて。アヤシイな」

「そのくらい知ってるよ。去年も話くらいはしたから」

「話だけかぁ?」

「話だけだよ。ちょっとすれ違ったときに」

「ホントかぁ?」

「もういいから行こうよ」

「みんなはどうするって?」

「自転車を裏口に止めて、表の守衛さんに断ってから入るから、裏口に集まるって言ってたよ」

「ついに女の花園へ潜入か」

「何なんだよ、それは。ここは小等部もあるし、小学校は男女共学だよ」

「なんじゃ。でも、女子高生のお姉さまがいると思うと、興奮しない?」

「しないよ。そんなの興味ないから」

「ミホちゃんがいいってかぁ?」

「もう、いい加減にしてよ」

「ごめんごめん。でも、おかげでようやく目が覚めてきた」

「人をオモチャにして…」

「亮君はちびっこいからね」

「ほっといてよ」

いつの間にか亮は随分リラックスしていた。

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