第9話 野球小僧-9
結局、亮と中沢は、サンディのバッティングの間じゅう、外野の一番後ろの土手のところで球拾いをしていただけだった。
中沢、山本、池田と野球経験者の三人が快音を発した打球を飛ばし、小林が高松の投げる球を打ち終わると、みんながバックネット前に集められた。サンディに賛辞が投げかけられるなか、亮は輪の後ろにたたずんでいた。
「俺より、ちっこいのにすげえな」山本
「一軍でも充分クリーンアップでいけるよ」池田
「サンディのすごさに圧倒されちゃったな」と高松は言いながら、
「じゃあ、オーダーを決めようか」高松
みんなが口々に意見を言っている中で、高松は話し出した。
「1番は、山本。どうだ?」高松
「いいよ、俺は」山本
「じゃあ、決まり。2番は中沢、3番小林で、4番-サンディ」高松
またサンディはガッツポーズを取りながらアピールしていた。亮はそんなポーズが取れるサンディが羨ましかった。
「5番、池田、6番、俺。左は俺と山本だけだから、このくらい離しておいたほうがいいだろう。7番、木村、8番林で、9番大木」高松
予想どおり、亮は9番になった。誰かもう一人でも入会すれば、自分が補欠になるだろうと思うと、やる気がなくなってきた。
「高松さん、キャプテンお願いしますよ」池田
池田の一言で、みんなの賛成の声の中、高松は照れながら、
「まぁ、一応、2年だからな」と言って、引き受けた。
「キャプテン、来週の試合はどことやるんですか?」中沢
「清明だ」高松
「セイメイ……って、あれ?」池田
「キャプテン、セイメイって、清明女学院じゃないんですか?」小林
「そうだ」高松
「女子校でしょ?」中沢
「そうだ」高松
「そんな、女なんかとやるのか?」山本
ブーイングの上がるなか、サンディが言った。
「女の子でも、ヤキュウはできます!」サンディ
みんなが少し静まるのにあわせて、高松は言った。
「清明は、女子校だけど、ちゃんと野球部があるし、あそこの高校は全国大会にも出てるくらいで、中等部も強いんだ。俺の隣の家の子が、あそこの野球部で、頼んだらいいって言ってくれたんだ」高松
「でも、女子校か…」中沢
「中沢、気持ちはわかるけど、正規の野球部じゃないチームが、練習試合を申し込むのは難しいんだ。特に、うちの学校の名前を出すと。わかるだろ。野球部とケンカして作った同好会を相手にしてくれるとこなんて、そうそうあるわけじゃないから」
「やっぱり、野球部を叩きのめさなきゃな」山本
「山本、そればっかだな」池田
「いいじゃんいいじゃん。女子校でも結構。けちょんけちょんにやっつけてやって、泣かしてやろうぜ」山本
「女の子がいつも泣くわけではありません」サンディ
「はいはい、サンディ、わかりました。でも、勝とうぜ」山本
「おう」池田
「よーし、試合だ」中沢
亮は不安になっていた。みんなボールが恐くないんだろうか。このあいだ受けたノックの時、ボールは硬く、そして小さくて、自分を避けているかのように転がっていた。今日見たボールは風を切りながら飛んでくる。いくらバットを振ってもかすりもしない。今までのお遊びのバッティング練習とは何から何まで違っていた。こんな状態で試合をしても大丈夫なんだろうか。輪の中から外れた状態で亮はぼんやりと考えていた。
―――ボクは、どうしてここにいるんだろう。
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