第8話 野球小僧-8
土曜の午後、ついに9人が公園のグラウンドに揃った。最後にやって来た山本を見て、高松が切り出した。
「サンディ、これでメンバーがそろった。ということで、今日はバッティングを見せてもらって、オーダーを決めよう」高松
「高松さん、そんなに急がなくても」池田
「いやいや、実は知り合いに頼んで練習試合を入れたんだ。それで、来週5イニングで試合してもらうことになったんで、とにかくオーダーを決めたいんだ」高松
「そうなんだ」池田
「ヤリィ」山本
喜ぶ山本を見て小林は言った。
「まだ無理だよ。みんなろくに練習してないし」小林
「でも」と池田は切り出した。「俺たちは試合をしたくて集まったんだからいいじゃない。試合しようぜ。ダメだったらそこから始めりゃあいいんだ」池田
「イイデス!やりましょう」サンディ
小林は不承不承という感じで引き下がった。
「高松さん」と池田が呼びかけた。「ひとつ提案なんだけど、同好会の名前を決めようよ」池田
「名前?」高松
「名前なんているか?」中沢
「でも、せっかく好きな連中が集まってるんだから、『同好会』じゃあ、面白くないじゃないか」池田
「それもそうだけど…」中沢
「何でもいいじゃない、緑ヶ丘ジャイアンツなんてのでも」池田
「嫌だ!絶対ジャイアンツは嫌だ!」中沢
「タイガースにしよう。緑ヶ丘タイガース」高松
「バーカ、負けるまくるぞ、そんなの。いっそのことヤンキースとか」山本
「イマイチ。プロ野球とは関係のない名前にしようよ。アウトローとか」木村
「俺たちは悪者か?」高松
「単純に野球愛好会とか」小林
「ダッセー!」山本
「ダメ?じゃあ、愛球会なんてのは」小林
「悪くはないけど」高松
「ドウイウ意味ですか?」サンディ
「えぇっと、love ball clubかな?」中沢
「そんなわけないだろ!」池田
「じゃあ、なんて言うんだよ」中沢
「それは……」池田
「We love baseball !ってとこかな」亮
「いいな、それ。それをキャッチフレーズにしよう」高松
「イイデス、すごく、楽しそうです」サンディ
「じゃあ、『緑ヶ丘学園愛球会』。We love baseball !、を合言葉に」高松
「…クッセェ~」山本
「うるさい!」高松
歓喜のなか、ようやく野球をやろうという気分が沸いてきた。
「じゃあ、みんな自分のポジションにちらばって。と、それじゃあ足りないな。じゃあ、ショートをなしにして、林から適当にフリーバッティングしていこう。小林、軽く投げてくれよ。サンディ、今日は外野に行って」高松
「ハイ」サンディ
「あのぉ、僕から打つんですか?」林
頼りなげに言う林に高松は、いまさら何を言ってるんだという顔で、
「嫌なのか?」と言った。
「いいえ、そうじゃないんですけど…」林
「元野球部じゃないか。ここは自由にやりたいやつが集まったんだ。遠慮するな」高松
「はい…」林
「ようし、みんな、準備しろ!」高松
ウォーミングアップも終わって、バッティング練習が始まった。林から木村、高松、と内野のメンバーが進み、亮に順番が回ってきた。
「ちっこいから投げにくいな」と呟きながらも小林はストライクを投げ込んできた。大木はあまりの速さに驚いた。テレビで見ているとそんなに速くは思えなかったプロの球よりも遅いはずの小林の球は、空気を切り裂きながらうねって飛んでくる。真っ直ぐじゃないんだ、と思いながら、亮は腰が引けてしまった。2球目も、恐い。手加減してくれたはずの3球目も、打とうと思った瞬間にはミットに収まっている。あらあらと思うあいだに、亮の番は終わってしまった。
「次、サンディ!大木は、外野へ行って」高松
促されるままにサンディに代わってレフトに回った。すれ違うときにサンディはガッツポーズをしてくれたが、亮は何もできずポジションにつくと、ため息をついた。あんなに憧れていた野球が、辛く思えてきた。
「おーい、行ったぞ!」高松
声に驚いて顔を上げると、セカンドベース付近にいた高松が、亮ではなくセンターの中沢を指している。はっとして見ると、中沢は背走して、その頭の上をボールが越えていった。振り返るとサンディはバッターボックスでガッツポーズをとっている。
「ドウデス?」サンディ
小林は応えるように、
「じゃあ、本気で行くよ」と言った。
今度はゆっくりとためのあるフォームから、腕をしならせて投げ込んだ。ボールはズバッとミットに収まった。しかし、サンディは笑みを浮かべたまま、小林を見ただけだった。小林はサンディが驚かないことに、逆に驚かされ、それでも同じように速球を投げ込んだ。と、ボールは快音を発して、今度は亮の上を越えた。亮が慌てて追いかけて、土手のところに止まったボールを拾ったとき、また次のボールが飛んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます