第7話 野球小僧-7

 「なんだってぇ?」山本

 昼休みの喧騒の中で、山本は窓際の席でぼんやり校庭を、いや、校庭を含めた風景を眺めていた。小林と池田が近づいても気づかなかった。もちろん、そばに亮とサンディがいたことも。池田の話し掛けにようやく山本は振り返った。長い髪の隙間から覗いた無機的な瞳が、4人を一瞬で見回した、ことを亮は気づいた。


 池田が顔色を伺うような様子で山本に話し掛けた。要領よく単刀直入に、入会を勧誘した。山本は聞いているような聞いていないような様子で池田の話すことを一通り聞いたあと、訊き返した。

「なんだってぇ?」山本

「だから、野球の同好会を作ったんで、入ってほしいんだ」池田

「なんで、俺が?」山本

「だって、うまいじゃないか、リトルリーグに入っていたんだし」池田

「だけどサ…」山本

「あと、一人足んないんだよ」池田

山本は池田から視線を外し、小林からサンディ、そして亮へ向けた。

「そいつも、メンバーか?」山本

亮を見つめたまま山本は問いかけた。亮は緊張しながら愛想笑いを浮かべて頷いた。

「そうだよ。サンディはすごくうまいんだ」池田

池田は山本がサンディを指しているのだと思い、説明を加えた。

「えぇ、女もいるの?」山本

「そうだけど…」池田

「なんだ…?」山本

そう言いながら山本は笑みを浮かべた。

「なんなんだ、そりゃぁ…」山本

「だから、同好会……」池田

「何がしたいんだよ?」山本

「だから、野球……」池田

「ソウデス、ワタシたちとヤキュウしませんか?」サンディ

突然サンディが話し掛けた。

「ワタシ、日本でヤキュウがしたいのです。プロになりたいのです。ワタシと一緒にヤキュウしましょう」サンディ


 山本だけでなく、池田も小林も、近くにいた生徒たちも、サンディの言葉に呆気にとられた。ただ、亮だけはわくわくした気分で、ニコニコ微笑んでいるサンディを見つめた。

「いいよ、わかった。入ってもいいよ」山本

「ホント?」池田

「だけどな、プロになりたいっていうんなら、まずは野球部をたたきのめさなきゃな」山本

「おい、山本…」池田

「なんだよ、池田。おかしいか?同好会でも、なんでも、とにかく試合をしなきゃ。一番、手っとり早いのは、野球部じゃないか」山本

「でも、勝つために野球をするってのは、同好会とは違うぞ」池田

「まぁ、いいじゃないか。俺は、プロを目指すわけじゃないけど、野球部をやっつけるつもりでやるからな。いいな」山本

「どうしてそんなこと言うんだよ」小林

小林は焦れたように問い掛けた。

「あの野郎、俺が入部したいって言ったら、ダメだって言ったんだ」山本

「どうして?」小林

「俺がリトルでもめてたこと知ってて、それでダメだって。リトルの監督と仲がいいらしいんだ」山本

「そうだったのか」小林

「まぁ、いいや。あいつら見てろよ、やっつけてやるからな」山本

「イイデス。あの監督をやっつけましょう」サンディ

「おい、サンディ」池田

「いいね、いいね。よし、OKだ」山本

意気上がる山本に呼応するようにサンディがガッツポーズを取った。呆れる池田と小林の横で亮はますます気持ちが昂っていた。


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