ファーストキス

 5月のある日曜日、今日は由紀の家で勉強をすることになっている。

 由紀も同じS高に合格するには数学の成績が思わしくないからだ。

 11時に家を出て、由紀の家に向かった。

 家に着いてチャイムを鳴らすと、お母さんが出てきた。

「こんにちは」

 あいさつしてからお邪魔して、由紀の部屋に向かう。 

 2階にある由紀の部屋に着くと、軽くノックをする。

 しかし、返事がない。

 おかしいな〜、LINE送ったら直ぐに既読になって、

「待ってるね」

 って、返事が来たのに。

 もう一度ノックして、

「由紀?起きてる?」

 と尋ねたが、やはり返事がない。

 下からお母さんが、

「入っちゃっていいわよ。着替え中ならラッキーね」

 って笑ってる。

 ゆっくりドアを開けると、由紀はベッドで寝ているようだ。

 二度寝したのかな?

 なんて思いながら、起こすのも可哀想だし、しばらく寝かせておくことにした。

 しかし、パジャマはボタンが一つ外れてるし、掛け布団は胸の下で止まってる。

 両手は掛け布団から出てて、上から押さえてる感じで、左足が布団から出てる。

 寝相が悪いんだな〜なんて思いながら、掛け布団を首の辺りまでかけてあげて、出ていた左足もそっと掛け布団の中に納めた。

 しばらく、由紀の可愛い寝顔を見ていたが、とりあえず勉強しに来たんだからと、数学の参考書を出して、ノートに書き出した。

 するといきなり枕が飛んできて、振り向くと由紀がそっぽ向いて寝たふりしてる。

 いやいや、この部屋には俺と由紀だけなんだから、枕を投げたのは間違いなく由紀だ。

 正直、信じられなかった。

 由紀ってこんなことするんだってことがだ。

 え?このあと俺はどうしたらいいんだろうか?

「このやろ〜」

 って、襲うふりでもするのか?それとも、

「何すんだよ〜」

 って怒ったふりでもするのか?

 考え込んでいると、由紀が、

「悠斗くんのバカ、人が油断してあげてるんだからキスしたらいいじゃない」

 って拗ねた顔で言ってきた。

「寝込みを襲うような真似するわけないじゃん、って、キスしてよかったの?」

 俺がそう言うと、

「私、今そう言ったよ」

 って、今度は顔を赤くして、もじもじしながら言った。

 いや、可愛すぎるんだけど……

俺はベッドに腰掛けてる、由紀の両肩に手を置き、

「じゃぁ、キス、するよ」

 と言った。

 由紀は黙って頷き、

 俺はゆっくり唇を重ねる。

 1秒、2秒、3秒……多分10秒くらい経ってから、由紀の方から唇を離し、

「いつまでしてるのよ」

 と、意地悪っぽく言った。

 俺は我に返って、

「あっ、ゴメン、なんか時間が止まってた」

 って言うと、

「なにそれ」

 って、笑ってた。

 それから、

「確かなものが、一つ出来たね」

 と、言った。

 俺は

「うん」

 とだけ頷いて、由紀のおでこにキスをした。

「パジャマのままはダメだよね。着替えるからこっち向いちゃダメだよ」

 そう言って、由紀は着替え始めた。

 後ろを向く気は全くなかったが、着替え終わってから、

「後ろ、向いても良かったのに」

 と、言った。

「いや、そういうのはさきに言ってもらわないとね」

 俺は着替え終わったばかりの由紀を抱きしめて、顎に手を当てて、少し上を向かせて、

「意地悪したバツだよ」

 と言って、もう一度唇にキスした。

 由紀は真っ赤になりながら、目を閉じた。

「勉強しないとね。悠斗くん落ちたら大変だから」

 と、言ってテーブルに座った。

 

 しばらくすると、お母さんがコーヒーとケーキを持ってきてくれた。

 

 勉強も一通り終わって、帰り支度をしていると由紀が、

「今日は悠斗くんがすごく大人に見えたよ」

 と言った。

「いつもは?子供っぽいかなぁ」

 って言うと、

「いつもは普通に中学3年生で、今日は大人だった。なんかドキドキしたよ」

 ってまた赤くなってる。

「ありがとう」

 そう言って、部屋を出た。

 お母さんが夕飯の支度をしていて、

「悠斗くん、帰るの?夕飯食べて帰れば?」

 と言ってくれたんだけど、

「夕飯の用意してくれてるので、今日は帰ります。また今度ご馳走になりますね」

 と言って、由紀の家を後にした。

 

 意識してないと、顔がにやけてしまいそうな感じがした午後の帰り道だった。


続く

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僕の初恋 お弁当物語 @gamacchi

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