雨の日は御用心

 5月に入ったある日、この日は朝から土砂降りの雨だった。

 しかも、風が強く、傘もあまり役に立ちそうにないのが普通に分かる感じだった。

 朝食を食べていると母さんが、

「風も強いわね~学校、大丈夫?」

 と聞いてきた。

 母さんは車の免許は持っているが、俗に言うペーパードライバーってやつで、車は父さんが使ってる一台だけなのだ。

「大丈夫だよ。レインコート着ていくから」

 そう言うと、

「ごめんね~」

 と、手を合わせた。

「こんな天気、年に何回かあるんだし、その度に謝ることないって」

 俺がそう言うと、

「でも、なんか悪くって~」

 と言う。

 母さんは看護師をしていて、朝居ないことが多い。

 俺がお弁当でなくパンを買ってたのもそのためなんだけど、まぁそっちは由紀が作ってくれてるからいいとして、天気の悪い日に送れないこと、お弁当を作れないことは申し訳ないと思っているようだ。

「気にしすぎだよ」

 そう言って俺は学校へ行く準備を始める。

 おそらく、学校に着く頃には靴と靴下はびしょ濡れだろうから、靴下の予備と袋を入れてっと……

 準備万端だな。

 そう思ってるとLINEがきた。

 由紀からだった。

 自分も、加藤さんも車で送ってもらうから、お弁当は学校で渡す……という内容だった。

 まぁ、そうなるだろうな。

 連絡ありがとう。じゃそのまま学校に行くね。

 そう返信して外に出た。

 外に出ると思ったより風が強かった。

 台風ほどではないが、傘は役に立たないだろう。

 かえって危ないかも知れない。

 レインコートでしのいで行くことにした。

 靴下はやっぱりびしょびしょになったが、まぁ仕方ない。

 下駄箱のところで濡れた靴下を脱ぎ、タオルで拭いて上履きを履く。

 トイレに寄って、予備の靴下を履いてから教室に向かった。

 

 教室に入ると由紀が、

「カバンを机に置いて」

 と小声でいう。

 カバンを置くと、こっそりお弁当を入れて、

「お弁当出すまでカバン立てないでね」

 と言った。

「うん、ありがとう」

 そう言って、カバンを立てないようにして自分の席に向かった。


 昼頃には雨も幾分弱くなり、風はほとんど吹いていない状態になった。

 スマホで確認したら、それでも夕方までは雨マークだった。

 帰りも雨か、仕方ないな。

 

 下校時間になり、由紀と下駄箱に向かう。

 まだ、乾いていない靴に履き替え、帰ろうと玄関を出たら田中さんが、立っていた。

 由紀がいなかったら、多分声をかけてた。

「帰らないのか?ってね」

 だけど、由紀が横にいるし、余計なことはしないでおこうと、そのまま素通りした。

 これは俺が勝手に思っている由紀の性格だが、かなりやきもち焼きだと思う。

 嫉妬深いというのかも知れない。

 多分これは間違いない。

 だから、心配になることはしたくないのだ。

 門のところで由紀と分かれて……帰り出して5分も経たない間に、後ろから傘もさしていない田中さんが走ってきた。

「朝、送ってもらって、車に傘忘れたの。お願い、入れて帰って」

 っておい、もう入ってきてるし。

「まさか、あれ、待ち伏せしてたのか?」

 俺が言うと、隠す風でもなく、

「そうだよ」

 って言う。

「あのさ、前にも言ったけど、俺は西山由紀と付き合ってるの。だから田中さんを好きにはなれないし、由……西山さんに誤解されることもしたくないんだけど」

 困ったように俺が言うと、田中さんは不思議そうな顔をする。

「傘を忘れたクラスメイトを送ってあげた……それだけだよ。別に手を繋いだり、キスをしたりするわけじゃないし」

 確かに、

「そりゃそうだけど、問題は田中さんが俺を待ち伏せしてたってとこだよね」

 俺がそう言うと、

「まぁ否定はしないんだけど、じゃぁこの雨の中、私を追い払って帰れる?高橋くんには出来ないでしょ?」

 意地悪っぽく笑う。

 さらに、

「見てよ、濡れてブラだって透けてるんだよ。危ないでしょ?」

 わざわざ胸を強調するな(汗)

「分かったら、身体をこっち向けないでくれる?今日だけだからな、次もし、濡れてブラが透けてても、ノーブラだって、走って逃げるんだからな」

 そう言うと、ケラケラ笑いながら、

「高橋くん、私も年頃の女の子だよ。流石にブラはつけるよ~」

 って、ものの例えで言ったんだけど、結構笑われた。

 俺の家まででいいって言われたけど、そういうわけにもいかず、結局家まで送って行った。

 

 今度から雨の日は傘を2本用意しようと心に誓う俺だった。


続く



 



 

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