告白→交際開始
俺は待ち合わせの12時より少し早めに神社に向かった。
西山さんはまだ来ていないようだ。
ここの神社は土地がやたら広い。
祭りの時なんかは出店が右や左に100店ほど並ぶのだ。
小さな……と言っても、鯉が2、30匹は自由に泳ぎ回れるほどの池があって、その池の周りにはどんぐりの木が何本か植えてある。
俺は鯉を見ながら、どんな話をしようかと考えていた。
振られるなんてことは勿論想定していない。
ただ、俺のことを知りもしないのに顔だけで好きになったのなら、やっぱり付き合うことは出来ないかな?とも思った。
ここに呼び出したのは、付き合いたいからで、その気持ちに嘘はないのだけれど、付き合った後で振られるなんてまっぴらごめんだ。
田中明美に、間接的に"可愛い"と言っただけで、学年の大半を無視された経験がそれを拒んでいるのだ。
そんなことを考えていたら、西山さんがやってきた。
「ごめんなさい。待たせたかな~」
そう言われたが、まだ待ち合わせ時間前だ。
「俺が早過ぎたんだよ」
ベージュのセーターにチェックのロングスカート、踵から20cmくらいの、これもベージュのブーツを履いている。
「西山さんって、なに着ても似合いそうだよね」
西山さんは凄く恥ずかしそうに、少し俯きながら、
「ありがとう」
と言った。
「あっ、で、話ってなにかな~?」
そう言われて、
「俺、今まで、女の子を好きになったことがないんだ。だ、だからといって、男が好きってわけでもなくて……」
何言ってんだよ、俺……
西山さんが、クスッと笑った。
「だから、2年の時も、西山さんが俺のクラスでお弁当食べてても、教室の窓側と、ドア側ってこともあって、顔も知らなかったし、加藤さんから西山さんの気持ち聞いた時も、付き合うとか言えなくて……」
そこで一旦止めた。すると西山さんが、
「中川くんが私のこと知らないのは分かってたことだし、それは仕方ないよ」
「うん」
そう言って俺は続けた。
「でも、同じクラスになって、西山さんの顔を見た時、瞬間的に、どう言ったらいいのかな~、この子を他の男に取られたくないって思ったんだ。これって好きってことなのかな~」
尋ねるように言った。
「多分、す、好きって感情だと……思う」
真っ赤になりながら西山さんが言った。
「なら……俺、西山さんと付き合いたい。でも、西山さんが俺のどこを好きになったかとか、どれくらい分かってるか全然分かんなくて、それが不安で、だから聞きたいんだ」
西山さんは、そう聞かれることを想定していたんだろう、静かに話し出した。
「私は、小学生の時に中川くんに助けてもらったの。だから、好きになったの。顔だけじゃないよ。」
そんなこと、あったっけ?俺が首を傾げていると、
「川で遊んでたら川の中でこけちゃって、溺れそうにはなるし、服は上から下までびしょ濡れになっちゃって……」
そこまで言ってから、俺が相槌を打った。
「大丈夫?って尋ねたら、返事もせずに胸を隠してさ。隠すくらい恥ずかしかたら、ちゃんとブラをつけろよって、ジャージを着せて一緒に家まで行って、お母さんに説教した……」
何様なんだよ俺。
そう思ってると、西山さんが話始めた。
「子供の胸が大きくなり始めてるのに、ブラジャーを付けさせないのはおかしいです。男はいやらしいから、いつも女の子の胸見てるんですよ。写真撮るやつまでいるんですよって。お母さんがあの子は女の子を大事にする子だって関心してた」
好きになった子の母親に過去とはいえ、なんで失礼なことを……
なんて頭を抱えてると、
「ご家族は、ご両親に、お兄さんと、妹さんの五人家族、好きな食べ物は酢豚に、ハンバーグ、ピザにカツ丼と、エビフライ。嫌いな食べ物は納豆。世の中に納豆しか食べる物が無くなったら死を選ぶくらい嫌い。あとは大体食べれるかな?女の子に凄く優しくて、よくモテる。中学になってから私が知ってるだけで、8人に告白されてる。得意な科目は国語、苦手は英語と数学、スポーツはしてないけど、野球が好き。好きな選手は大谷翔平選手、まだまだ知ってるけど、全部話そうか?」
悪戯っぽく笑った。
真っ赤になって、口籠ったり。
かと思えば、止めどなく話し始める。
女って不思議だな~って感心した。
「西山さんが俺のことを好きになった理由も、俺のことをストーカーしてたこともよく分かった」
っていったら拗ねたように、
「わたし、ス、ストーカーじゃないもん」
って、また赤くなって、軽く石を蹴った。
「はは、分かってるよ。俺も、もっと西山さんのこと知りたい。俺と付き合ってほしい」
はっきり言った。
「本当に、私でいい?」
「西山さんじゃなきゃ嫌だ」
「ありがとう、じゃ、今日から、彼氏彼女だね」
そう言うと、少し黙ったあと、
「じゃあ、私のこと、由紀って呼んでほしいな。彼氏彼女で名字で呼ぶの変だもん。だから私も悠斗くんって呼ぶから」
確かに彼氏彼女なら名前で呼び合うのが自然だろう。
ということで今日から二人は付き合うことになった。
続く
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