一目惚れ

 4月7日、今日から3年生だ。うちの中学は1学年10クラスあるようなマンモス校だから、始業式は校庭ですることになってる。

 雨の日はどうするんだって話なんだけど、俺のいる間に、今のところ『雨の日』がなかったのでどうしてるかは知らないし、さして興味もないのだけれど、多分、自分のクラスを確認して、マイクであれこれやるんだろうと思ってる。

 なんにせよ、校長先生の話はやたら長いし、新任教師の話もあったりで、新しいクラスメイトは誰になるんだろうと、ハラハラドキドキしてる俺には、不必要に長い話は迷惑千万だったのである。

 やっと始業式が終わり、校庭に張り出されたクラス表を目掛けて一目さんに走り出す。

 1年生はまだ入学してないから、東の壁が2年生、西の壁が3年生だった。右から1組2組って感じで、僕は人の比較的少ない10組側から見ていった。

 自分のクラスを見つけるのに、大して時間は掛からなかった。

 俺のクラスは8組だったのだ。男女別に25人くらいの名前が書いてあるクラス表を男子から順番に見て行った。

 もともと親友と呼べるほど仲のいい奴っていないのだけど、比較的仲のいい、古角や戸川がいたし、あいつとは一緒のクラスになりたくないって奴もいなかったのでまぁ良かったかなって安心した。

 ついでに女子も見ておこうと思ってあいうえお順の名前を確認していくとそこにはなんと、川北ルナ、田中明美、そして西山由紀の名前があるではないか~(汗)

 え~、何で3人とも同じクラスなんだよ~。

 俺としては、3人とも違うクラスになってほしかったのに。

 まぁ、同じクラスになってしまったものは仕方ない。そんなことよりまずは席取りだ。

 学年が変わった最初の席は、くじ引きで決めてるって学校もあるのだろうけど、うちの学校は始業式後に座ってる席がそのまま最初の席になる。

 で、窓側を確保すれば、新幹線と海が、他人に邪魔されることなく見れるって訳なんだよな。

 校舎は3階建てになっていて、一階には職員室や、保健室があったり、テスト問題を作ったりする先生の作業部屋、あとは校長室なんてのもあったりする。2階は図書室や音楽室に理科の実験室、家庭科室、があり、3階に3年生の教室があるのだ。

 そう、3年生になった楽しみのひとつがここから眺める絶景そう思ってるのは俺だけかも知れないがを堪能することなのだ。

 そんなわけで、誰よりも早くに教室に入った俺は一番前の窓側の席に座って外を眺めていた。そのあと入ってきた古角は俺の後ろに座り、二人で窓の外を見ながら雑談していた。

 少ししてから女子が話をしながら入ってきたんだけど、気にもならずに雑談を続けていたんだ。ところが、その女子二人がどんどん近づいてくる気配が……まさか横に座ったりしないよな?って思ってたら案の定、横に座ったんだ。

 窓の方を向いて雑談してたから、顔は見てないんだけど、直感で、あっ、西山由紀って子だなって思った。

 何故そう思ったかって? 

 田中明美が僕の横に来るわけないし、川北ルナは声が分かる。ガラガラの教室で、わざわざ男子の横に座る理由があるのはその男子に気がある女子ってことになる。

 ならば横に来たのは西山由紀なのである。

 顔を拝んでやろうと振り向いた俺は、俗に言う、『ど真ん中ストライク』の彼女の顔に一瞬でそっぽを向いてしまった。

 ただ顔が『ど真ん中……』だったからだけではない。彼女が屈託のない笑顔で俺を見つめていたからである。

 その後、ゾロゾロと人は増えていき、新しいクラスメイト全員が教室に入ったころに、丁度担任教師が入って来た。

 どうやら女性のようだ。『ようだ』というのも、俺は顔が上げられずに先生の顔を見ていない。顔を赤くして下を向いてるから見えてないってのが正しい。

 先生が「挨拶をするから、みんな起立してね。はい、起立、礼」……なんてしてる間もずっと下を向いてた。

 顔が赤くなってるのがわかるから、あげられないのだ。

 今まで、人気のある可愛い子だって、あっさり振ってきたのである。

 なのに、その俺が何ということか。

 この子は魔法使いに違いない。

 信じてもいない魔法使いを出してしまう俺だった。

 しかし、ここまでの美少女が、なんで俺みたいなのを好きになったんだろう?

 意味わからん。

 

 担任の名前は田代ひろみ、年齢は26歳らしい。、

「じゃあ、今から自己紹介をしてもらって、そのあと紙に今年頑張ること、抱負を書いて提出してもらうからね」

 こういう場合、大抵は一番前の右端か左端から始まるよね。

 で、案の定、俺が指名されたわけだ。

「中川悠斗です。頭悪いですけど、希望高に行けるようにがんばります」って言った。でも、限界だった。

「先生、体調悪いから保健室行きたいです」って……

「中川くん大丈夫?ほんとだ、顔が真っ赤だよね。行ってきなさい」

 西山さんが、声をかけてきた。

「中川くん、大丈夫?一緒に行こか?」   

 って、

 は?いやいや、君から逃げたいから保健室行くのについて来てどうすんだよ。

「大丈夫、一人で行けるから」って……

 初めて西山さんと話した言葉……

 

 みんなの自己紹介聞かないで逃げてしまって、みんなに申し訳ないな。

 そんなことを考えながら、とりあえず保健室に行って、熱計って(間違いなく平熱なんだけど)、

 保健の先生は、

「熱はないみたいだけど、なんなのかな~、まぁ、とりあえずベッドでしばらく休んでなさい」

 って。

 ごめんなさい。仮病なんです。

 って心の中で手を合わせて、ベッドで寝てた。

 ベッドで目を瞑ったまま、色々考えてた。

 あんな可愛い子が、性格もよく知らないだろう、俺みたいな男子をなんで好きになったんだろう?俺と同じで、一目惚れ…みたいな感じなのかな~。

 でも、そんなんで付き合ったって絶対すぐに愛想尽かされてポイってされそうだし。

 彼女のお弁当美味しかったな~。って、あっ、お弁当続けるんだった。

 彼女の前でどうやって食べればいいんだよ~、マジで頭痛くなってきた。


 彼女のこと、色々考えてたら、カーテンが開いて、

「下校しだしたみたいだけど、どうする?もう少し寝てる?」って聞かれたので、

「あと30分くらいいさせて下さい」って言ったら、

「分かった、じゃあ、30分したら教えてあげるね」

「はい」

 ってなことで30分経ってから保健室を出て、

 職員室に寄って田代先生に挨拶してから教室に向かった。

 

 誰も居ないと思っていた教室には、まだ何人かの男女が残っていた。

 その中には、西山さんと、川北の姿があった。

 マジで頭痛くなりそう。

 

「まだ居たんだ。みんな帰ってると思ってたよ。」

 って僕が言ったら、真っ先に声をかけてきたのは西山さんだった。

「大丈夫?治ったの?」

 そう聞いてきたので、

「あっ、大丈夫、大丈夫」

「なら良かった。顔が赤かったから熱があるんじゃないかって心配だったんだよ」

「心配させてごめん、もう平気だから……俺、帰るね、また明日」

 早くこの場から立ち去りたい~(汗)

 俺はカバンを掴むとそくささと教室を後にした。

 教室では川北ルナが後ろから西山由紀を睨みつけていた。


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る