第12話

 火曜日は通夜、水曜日に葬儀、告別式らしい。

 俺は両親と、由紀の両親に許可をもらい、水曜日まで由紀の家に泊まることになった。

 由紀のお母さんが布団を用意してくれた。   

 由紀の柩が見える場所に布団を敷いてもらって、そこで寝た。

 もちろん、火曜日は登校日だったので、学校には行った。

 由紀の自殺の原因を知ってるのはお互いの両親、俺、先生、警察だけだ。イジメが原因だった場合は公表する警察も、由紀の件はイジメでないことや、由紀の両親から公表を控えるようにお願いされたこともあって、公表しない方向に動いてくれた。

 だから他の生徒は誰も原因を知らない。

 

 教室に入ると、由紀の机の上には花瓶に入った花が置かれていた。

 クラスメイト達は、口々に、

「元気出してね」

「元気出せよ」

 と言ってくる。

 二宮さんや戸川、古角も声をかけてきた。

「みんなだって悲しいんだ、俺だけが辛いわけじゃない。由紀は俺に頑張って欲しいと思ってるはず……だから俺、頑張るって決めたんだ」

 って言ったら、

 二宮さんは泣き出してしまうし、戸川と古角は俺の手を握って、

「みんなでがんばろう」

 と言ってくる。

 そう、とりあえず、頑張るしかない。

 チャイムが鳴って、先生がやって来る。

「明日、西山さんの葬儀、告別式があります。10時にバスを手配しているので、一限目の授業が終わったら教室で待機ね。今日はお通夜なんだけど、行く、行かないの判断はみんなに任せるわ」

 そう言ってホームルームは終わった。

 終わったあと、先生に廊下へ呼ばれた。

「中川くんは、明日は休んでいいわよ。少しでも長く、西山さんのそばにいてあげなさい」

 言われて、

「ありがとうございます」

 というと、

「私にはそれくらいしか出来ないからね」

 と言った。

 いい担任を持ったと思った。

 この日は最後まで授業を受けて、それから一旦自分の家に帰って、お風呂と、着替えを済ませてから由紀の家に向かった。 


 由紀の家に行くと、由紀のお母さんが俺を呼び止めて、こう言った。

「尚哉くん、犯人探しなんて絶対しないでね。今は受験のことを考えてね。仮に、犯人が分かったとして、尚哉くんが復讐して、警察に捕まるようなことになって、由紀が喜ぶと思う?」

 確かにそうだ、由紀が喜ぶはずがない。

「それにね、性犯罪の厳罰化の動きがあるけど、まだ親告罪なのよ。尚哉くんなら分かるでしょ?」

 俺に問いかけてきた。

「はい、分かります。要するに、被害者が訴えないと成立しない罪……ですよね?」

 そう言うと、

「そう、被害者がもういないのだから罪には問えないってことになるわ」

 悔しいがこれが日本の法律なのだ。

 尚哉は、

「お母さん、心配しないで下さい。僕は必ず警察官になります。こんな犯罪を少しでも減らしたい。だから軽はずみなことはしません」

 涙をポロポロこぼしながら由紀の母は頷いた。

 夕方頃から学校の生徒ちが次々尚香にやってきた。

 夜9時ごろ、来る人もいなくなり、落ち着いた頃に、由紀の両親に呼ばれた。

「なんでしょうか?」

 俺が尋ねると、お父さんが、

「頼みがあるんだ、由紀がいなくなれば、本当なら、もう尚哉くんはここに来る必要がなくなる。あっ、もちろん尚香には来ることがあるだろうが、それ以外では……ね」

 何がいいたいのだろうと黙って頷きながら聞いていると、

「一人っ子でなければ、まだ励みになる子供がいれば私達も頑張れるんだが……私たちには由紀が全てだった。何も頑張れるものがないんだよ」

 言いたいことが分かった気がした。

「俺、お母さんの料理、まだまだ食べたい。それに、お父さんとも色々話がしたい」

 俺がそう言うと、二人は俺の手を取って、

「ありがとう、ありがとう」

 と言った。

 

 翌日、葬儀、告別式が行われ、家族、親戚、大勢のクラスメイトや、友人に見送られて、由紀は灰になり天へ昇っていった。


 俺はその後、学校へ行き出したが、あまり積極的に話すことをしない、物静かな人間になっていった。


続く

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