第13話

 初七日も終わり、クラスメイトや先生は由紀を失った悲しみも和らいできたようだ。

 クラスには笑い声が戻り、何事もなかった日常を取り戻しつつある。

 尚哉にしても、いつまでも悲しんでばかりはいられない。

 由紀と約束した高校に入学しなければならないのだ。

 二宮や戸川、古角とはまた集まって勉強しようと言う話まで出てきている。

 そうすることが、由紀への弔いだと思っている。

「じゃあ、次の日曜日、カラオケハウスに行って勉強しようか」

 戸川が提案した。

「賛成、高橋くんもいいでしょ?」

 二宮が聞いてきた。

「いいけど、まだカラオケは無理かな」

 苦笑いした。

「別に歌わなくたっていいよ。俺たちだってそんな気分じゃないし。勉強だけすればいいさ」

 そう古角が言ったので、

「分かった。じゃあ俺も行くよ」

 そう言って、勉強会を再開することになった。

 

 家に帰ると母さんがいて、

「今日は?由紀ちゃんに会いに行く日だったわよね?」

 俺が、

「そうだよ」

 と言うと、

「日曜日は家族で会いに行くって伝えといてね」

 と言った。

 もちろん、由紀はもういないのだから、会いに行くとか、伝えるって、第三者的にはおかしな会話だが、家族3人でこうしようと決めたのだ。

 「じゃあ行ってくるね」

 両親との約束で、日が暮れるまでには帰宅することになっている。

 だから、夜の訪れが早くなった最近は、5限目で終わる日を選んで行くようにしている。

 まぁ、男なのだから、多少遅くなっても大丈夫だとは思うのだが、由紀をなくし、その上、俺まで失ったらうちの両親だけでなく、由紀の両親まで、また悲しませることになる。

 それだけは出来ないと思った。


 由紀の家に行くと、お母さんが出迎えてくれた。

「いらっしゃい、尚哉くん、今日はご飯食べていけるの?」

 聞かれたので、

「良ければ、食べて帰ります」

 と、言った。

 由紀のお母さんはちゃんと、俺の好きな物を分かっていて、好きな物を選んで作ってくれる。

 家に入ると、仏壇の前に行き、尚香をする。

 しばらく由紀に話しかけるのだ。

 起こった出来事や、勉強について、テストの点数や、友達との会話の内容など、何でも話しかけた。

 うちの両親が日曜日に来ることも勿論伝えた。

  

 ご飯をご馳走になり、またしばらくお母さんと話をする。

 お母さんはまだ無理しているようではあるが、少しずつ、笑顔が戻りつつある。

 いいことだ、俺も早く元気にならないといけない。

「ご飯、ありがとうございました」

 俺がそう言うと、

「気を使っちゃダメだって……私たちがお願いしてるんだから。由紀も、尚哉くんに会えて喜んでるわよ」

「はい、でも、ご馳走になってお礼言わないのもどうかなぁって」

 お母さんは横に首を振る。

「私たちは尚哉くんを実の息子だと思ってるの。実の息子がご飯食べて、ありがとうございますなんて変でしょ?」

 実の息子、そう思ってくれるのはありがたいことだ。

「分かりました。じゃあ今度から、ご馳走さまで止めますね」

 俺はそう言って、帰ろうとした。

 するとお母さんが呼び止めて、

「尚哉くん、これをもらってちょうだい」

 渡されたのは、ネックレス。

 デートの時に、

「これ、凄く綺麗」

 と言って、買った物だった。

「でも、由紀の思い出の品でしょ?」

 俺は言ったのだが、

「私たちには由紀の思い出はいっぱいあるわ。そのネックレス、出来れば付けてあげてくれれば、由紀は絶対喜ぶわ」

 気持ちがとても嬉しかった。

「ありが……」

 いいかけてやめた。

「じゃあ、これ、由紀の形見ということで、大事にします」

 お母さんは大きく頷いた。

「じゃあ、日曜日、家族で来ますね」

 手を振ってわかれた。


 その頃、警察では由紀を襲った犯人の特定を済ませていた。

 吉田警部補は腕組みをして、考えている。

 つまり、犯人が特定されたことを、両親に伝えるかどうかだ。

 吉田はため息をついた。

 警察は由紀が自殺した翌日の夕方には、実はほぼ犯人の特定を済ませていた。

 警察にとってはさして難しい事件ではなかった。

 由紀が土曜日と限定していたため、その二、三日前の、通話やメール、LINEのやりとりを調べれば、犯人の特定など容易い物だった。

 ただ、証拠集めに少し時間がかかっただけである。

 ただしだ、犯人を逮捕することは出来そうにない。

 そこには法律の壁が存在するのだ。

 未成年に対しての法律の甘さが、憎いと吉田は思った。

 被害者の女の子と、付き合っていた彼氏は、これからどんどん愛を育むはずだっただろうに、自分の欲望のために踏みにじる行為を許せなかった。

 しかし、この犯人が今後、何人もの女性に同じようなことをすれば起訴出来るかも知れないがそれとて、容易いことではない。

 親告罪の壁を崩さなければならないからだ。

 犯人を起訴出来ないのに、両親に犯人を伝えればどうなるのか?"復讐"にはしる可能性を否定できない。

 警察官の立場で、その可能性を分かっていて教えるわけにはいかないのである。

 教えるにしても、今はまだ無理だ。

 吉田はまた、ため息をついた。



続く

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