第143話 飛竜②

「そうだな。これ以上は危険だと思うところまでは進むか。ただ、さっきも言った通り俺達は1体を相手にするので精一杯だ。ほとんど任せることになってしまうが大丈夫か?」


「大丈夫です。引き際はわかってます」

進むことに決めてくれたゲイグさんに答え、すぐに動けるように僕は馬車に乗らずに移動を再開する。



「お前、本当にBランクなのか?」

出会ったワイバーンを倒しながら馬車と並走して走っていると、ゲイグさんに聞かれる。


「Bランクですよ。ただ、昇格試験はずっと受けていないので、それ以上の実力はあると思ってます」

本当のことを言う最後のチャンスだったかなと思いながらも、嘘を吐き通すことにする。



そのまま渓谷まで進むと、ワイバーンが街の近くまで来ていた原因がわかった。


「あれは、ウインドドラゴンですね。ワイバーンはウインドドラゴンに縄張りを奪われて街の方まで来ていたんですね」

渓谷には隠れる様子もなく、ワイバーンが小鳥に見えるほどに大きなドラゴンが鎮座していた。


ファイアドラゴンを倒した時に『龍殺し』の称号を得たけど、その後にエンシェントドラゴンを倒した時には称号を新しく獲得することはなかった。

ダンジョンの中と外という違いはあるけど、多分ウインドドラゴンを倒しても新しく称号は獲得できないかな……。


「お前の言うとおり確認しに来てよかったな。原因も判明したから怒らせる前に帰るぞ」


「帰って討伐隊を組むんですか?」


「龍種は賢いから人里の近くにはやって来ない。圧倒的な力があっても数で来られたら痛い目を見ると理解しているからだ。こちらから手を出さない限りは放置して問題ないはずだ。ただ、ワイバーンが今後も街の近くに逃げてくるだろうから、そのための人員は確保しないといけないな。他の街から来てくれればいいが……、これも領主不在のまま放置している国王のせいだ」

これに関しては反論出来ないが、領主がいなくなったということは、悪徳領主だったということだ。

それよりはマシではないかと思う。


それに今は放置はしていない。ブライアさん主導の元教育中だ。


「前の領主がいたらどうにかなったんですか?」


「悪い噂しか聞かない貴族だったが、他の街から兵士や冒険者を呼ぶことはしただろう。自分の街だからな。ただ、その分税が高くなっただろうから、どちらが良いかはなんともいえないな」


「そうですか。あのドラゴンをこの場で倒せば全て解決ですよね?」


「倒せるわけがないだろ。それに、仮に倒せたとしても龍種は仲間意識が高い。だから、他の個体が報復の為に暴れ回るだろう。そっとしておいて、ここから離れるのを待つのが最善だ」


「それは知りませんでした」

倒せるとしても倒さない方がいいなら放置するしかない。


ウインドドラゴンはこちらに気付いているようだけど、ゲイグさんの言うとおりこちらが怒らせなければ襲う気はなさそうだし、このまま街に戻る。


「貴族に少し伝手があるので、この街に兵士を派遣するように僕からも頼んでおきますね」

戻りながらゲイグさんに話す。


「それは助かる。ただ、お前らがいれば問題はなさそうだな」


「僕達は王都に行く途中に寄っただけなので、すぐに出発します」


「そうか。拠点をあの街に移すわけじゃなかったのか。今回は助かった。また近くにくることがあれば声を掛けてくれ。俺達はずっとあの街にいるからよ」


「ありがとうございます。そうさせてもらいますね」


「お前ら本当にBランクなのか?」

急にボルオスさんに聞かれる。


「最初にギルド証を見せましたよね?」

今更本当のことは言えないので、そのまま嘘を貫く。


「高ランクの冒険者が目立たないように低いランクに偽造しているのはよくあることだ」

それは知らなかった。ドラキンみたいに力を見せびらかしたい人ばかりではないってことか。


「そうなんですね」


「どこかで名前を聞いたことがある気がしてずっと引っかかっていたんだが、帝国で活動していたと言っていただろ?確か、帝国のギルドに拠点を置いている高ランク冒険者の名前にハイトとミアという名前が追加されていたはずだ」

以前はミハイル様とギルマスに協力してもらって、他の街に僕の情報が流れないようにしてもらっていたけど、今は情報がオープンになっている。

ボルオスさんは冒険者のリストを見たのだろう。


「別にこいつらのランクがなんでもいいだろう」

ゲイグさんがボルオスさんに言う。


「いや、よくない。ランクがというよりも、もし思っている通りならそいつはSランクで、さっきお前が悪く言っていた王だ」


「は……?何言ってるんだ。国王がこんなところで冒険者なんてやってるわけないだろ。なあ?」


「国王なら城にいるんじゃないですか?」


『もう隠さなくてもいいんじゃない?』

僕が嘘を突き通そうとしていると、ミアから念話が届く。


『僕は気にしてないんだけど、混乱を防ぐために以前の法はまだそのままになってるからね。不敬罪も残ってるわけだから、知らないままの方がいいんだよ。この人だけ許したってことが広まると、王の気分次第で罰せられるってことになっちゃうから』

ミアに念話で返す。

元々は依頼を奪う形にならないようにSランクであることは隠してBランクということにしただけだけど、今更本当のことは言えない。


「それに、僕が噂の王なら昨日絡んできた時点でゲイグさんの首ははねられてますよ」


「……それもそうか。変なことを言って悪かったな」

ボルオスさんは納得したようだけど、これで納得されるのはなんだか悲しいな。



僕が王だということは秘密にしたまま街に戻り、ゲイボルグの方達とは解散する。


王城へと転移して、ブライアさんにワイバーンの件を伝え、ブライアさんが動くのは少しだけ待ってもらうようにする。

他の街もそうとは限らないけど、領主不在になっているところで問題が起きた場合に、近くの領地を運営している領主が動いてくれるのか確認したいからだ。

動かないようなら、ブライアさんに動いてもらう。


転移でミアのところに戻った後、護衛をしてもらっているミハイル様の兵士に話をして、僕の護衛はここまでにして、ワイバーンの対応をしてもらう。

冒険者でいうとAランクくらいの精鋭をミハイル様は付けてくれていたので、ワイバーン相手でも問題ないはずだ。

ミハイル様には念話で許可をもらった。


これで、近隣の領主が動かなくても無駄な死人は出ないだろう。


出発は明日にしたことを御者の方に伝えた後、宿に入る。


「ワイバーンと戦って疲れたから、お兄ちゃんと一緒の部屋がいいなぁ」

昨日は移動で疲れたからと言っており、僕は断って部屋は分けた。

ミアは宿に泊まるときは必ず僕と一緒の部屋にしたがる。

城から逃げ出した頃はお金がなかったこともあり同じ部屋にしていたけど、お金に余裕がでてからは部屋は別々だ。

それでもミアは恒例行事のように適当な理由を付けて言ってくる。


「…………そうだね。たまには一緒の部屋で寝ようか」

僕は自分の気持ちを確かめるためにも、久しぶりにミアと同じ部屋で寝ることにする。

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