第142話 飛竜

御者と護衛の方達に出発を遅らせることにしたことを伝え、翌日、絡んできた冒険者パーティに声を掛ける。


「おはようございます。お酒は抜けましたか?」


「誰だお前?どこかで見たような気もするが……」

昨日絡んできた男、ゲイグさんに聞き返される。

飲んでいた時の記憶は残らないタイプなのかな。

僕と同じだ。


「昨日飲んでいる時にお前が絡んだやつだ」

パーティメンバーのボルオスさんがゲイグさんに教える。


「……それは悪かったな。覚えていないが、迷惑をかけたのなら謝るぜ」

ゲイグさんが頭の後ろに片手を置きながら謝る。


「殴られたりはしていないので気にしないでください。僕はハイトといいます。こっちはミアです」


「俺はゲイグだ。こいつがボルオスで、こっちがグライドた。ゲイボルグって名前でパーティを組んでる」


「ギルドで聞きましたけど、ワイバーンの討伐に行くんですよね?Bランクパーティだと聞きましたけど、少し危なくないですか?」


「わかっているが、他に受けるやつがいないから仕方ない」


「Aランクの冒険者はいないんですか?相手が不確かな場合、一つ上のランクの冒険者が依頼を受けるのが多いと聞いたことがあります」

今回はワイバーンらしき影を見たというだけで、どの程度のサイズのワイバーンかもわからないし、変異種の可能性もある。


「街の依頼を受けるよりもダンジョンに潜った方が稼げるし、レベルも上がるからな。ある程度強くなると皆この街から去っていくよ。Aランクどころか、Bランクも俺たちともう1パーティだけだ。そいつらもいつまで残ってくれるかわからないな」

獲物が向こうからやってくるダンジョンの方が稼げるのは当然か……。

ある程度強くなれば魔物に囲まれても対処出来るし。


「ゲイボルグの皆さんはどうしてこの街に残っているんですか?昨日も旨みの少ない依頼を受けたと聞きましたよ」


「そりゃあこの街が好きだからに決まってるだろ!中途半端な力を手に入れて調子に乗ってヘマをした俺達に、この街の人は手を差し伸べてくれた。俺はこの街の奴らのためなら無償でも依頼を受けるつもりだ」

ゲイグさんが熱く語る。

ボルオスさんとグライドさんは「うん、うん」と頷いている。


「いいところなんですね」


「ああ。だから危害を加えるワイバーンはどうにかしないといけない。それから、ハイトとかいう新しい王もだ。そういえばお前も同じ名前だな」

なぜか敵対されている。心当たりは何もないけど……。


「新しい王様になにかされたんですか?」


「帝国との戦の最中に騙し討ちのように横から領土を奪っていくような奴だ。まともな奴のわけがない。今は良い王を演じようと必死みたいだが、いつ気分が変わるかわからない。実際、王を退治しにいくなんてことは出来ないが、その時に後悔しないように準備は必要だ」

これがこの世界に暮らす人にとっての僕に対する正直な気持ちということだろうか。

そう思うと少し悲しいけど、すぐに受け入れられないことはわかっていたことだ。


「演技ではなく、本当に良い王かもしれませんよ」

それでも、自分で自分をフォローしておく。


「だといいんだがな」

思いがけずいい話が聞けた。演技だとしても良い王と思われているということは、徐々に演技じゃなくて本当に良い王なのか?と思ってもらえるかもしれないということだ。


「ワイバーン討伐ですが僕達も同行してもいいですか?実は昨日受けようとしたら、既にあなた達が受けているという話を聞きました。個体によってはAランク相当の魔物ですので人数は多い方がいいと思います。報酬はこちらが3割でどうでしょうか?先に受けていたのはそちらですし、人数もこちらの方が少ないので」


「その若さでワイバーンと戦えるのか?」


「はい。Bランクの魔物は以前に1人で倒したことがあります」

初めて倒した魔物がBランク相当の巨大なボアだったなと思い出しながら答える。


「ギルド証を見せてくれ」


「どうぞ」

僕はBランクに偽装したギルド証をゲイグさんに見せる。


「その若さでBランクとは大したものだな。少し相談させてくれ」


ゲイグさん達が僕達から離れて話し合いをした後戻ってくる。


「一つ条件がある。それを飲むのなら臨時でパーティを組もう。こちらとしても、人は多い方がいい」


「条件とはなんですか?」


「リーダーは俺だ。指示には従ってもらう。お前らの実力がどの程度なのかは知らないが、会ったばかりでうまく連携なんて取れないだろうからな」


「わかりました。ただ、ゲイボルグの方達で撤退の判断をした時、僕達なら勝てると思った場合は、僕達は残りますので先に逃げてもらって構いません」


「わかった。お前らが足を引っ張るようならそこでパーティは解散だ。いいな?」


「もちろんです」


ゲイボルグの方達と街から渓谷がある方へと馬車で向かう。


元々渓谷にはワイバーンが生息しているが、今回目撃されたのは街の近くだ。

本来ワイバーンは縄張りから出てこないので、渓谷から出てこないのであれば放置で構わないが、街の近くまで飛んで来ているなら討伐しないといけない。


「いますね。僕が見えるだけで3体です」

目撃情報があった場所よりも手前でワイバーンを見つける。


「何かおかしい。引き返して作戦を立て直す。いいな?」

ゲイグさんが撤退の指示を出す。

ワイバーンは1体でBランクだ。3体もいればBランクパーティでは厳しい。


「僕達が2匹相手にするので、もう少し先を確認しに行きませんか?場合によっては手遅れになる可能性があります」

村や街が魔物によって滅ぼされるなんてことはこの世界では残念だけどよくあることらしい。

そうなる前に領主や冒険者が対処するわけだけど、今はそれが機能していない。


「やれるのか?」


「問題ないです」


「……わかった。お前らを信じる」


1番近いワイバーンの近くまで移動して、僕とミアは馬車を降りて他のワイバーンの方に走っていく。


ゲイグさん達が問題なく倒せるか確認しつつ、自分の標的のワイバーンに土魔法(微)で遠距離から石弾を当たるまで放ち倒す。


ミアの方を見ると既に倒し終わっていた。


あまり警戒されたくないので、アイテムボックスにワイバーンは仕舞わず、そのままにして馬車に戻る。


ゲイグさん達も少し苦戦しながらも討伐を終えていた。

ワイバーン1体なら問題なく依頼達成出来ていたということだ。


「怪我を治しますね」

ミアがボルオスさんの怪我を治す。


「ありがとな。あれだけ強いのに治癒も出来るなんて、すごいな嬢ちゃんは」


「お兄ちゃんが私が戦えるように鍛えてくれました」

ミアが僕の方をチラッと見て言うが、経験値分配という便利なシステムを使っただけだ。ミアが身を守れるようにしたかっただけで、鍛えたという記憶はない。


「兄妹だったのか。てっきり恋人か結婚してるもんだと思っていた」

ボルオスさんがそんなことを言う。

……周りからはそういう風に見えるのか。


「頼れるお兄ちゃんです」

褒められたはずなのに、なんだかもやもやする。


「どうしますか?渓谷まで行ってワイバーンが縄張りから出てきた理由を調査した方がいいと思いますが……」

もやもやした気持ちは一旦気にしないようにして、ゲイグさんに確認する。


「正直なところ、何体までなら相手に出来る?俺達はさっきのサイズを3人がかりでしか無理だ。自分の身を守るので精一杯だから、俺達はいないものとして、2人で解決出来ないなら引き返した方がいい」

ゲイグさんに聞かれるが、ゲイグさん的には撤退したいということだろう。


「今あの街に領主はいますか?」

答える前に、気になっていたことを聞く。

引き返した場合に、対処されるのかどうかを確認するためだ。


「領主はいない。隣の領主が代理となっているが、すぐに動いてくれるかといえば微妙だな」

やっぱり不在か……。


「それなら、行けるところまでは行きませんか?僕とミアはワイバーンにやられることはないと思います。飛んでいるので倒せず逃げられるかも知れませんが、ゲガを負っても先程のように治せます。応援を呼ぶにもどのくらいの戦力が必要かわからないといけませんし……」

Sランクだということをバラそうか迷ったけど、王に不信感を持っているみたいだし、今更さっきは騙していたとは言いにくい。


ゲイグさん達が撤退するなら、僕達だけで見にいくしかないな。

後処理も考えるとゲイグさん達が一緒の方が楽なんだけど……。

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