第141話 気持ちの整理

ミハイル様と話をした後姫野さんにも話をして、他のクラスメイトのことを説明した上で姫野さんがこれからどうするか確認したところ、今はこのまま自分の出来ることをやりたいということだったので、姫野さんは引き続きミハイル様に任せて、二日後、王都に向けてミアと出発する。


ミアと2人きりと言っても、僕達が乗っている馬車の御者もいるし、護衛が乗った馬車が前後に走っている。


護衛は要らないと思ったけど、そういうわけにはいかないようなので、ミハイル様が直接雇っている兵士と、女性の冒険者パーティに護衛をお願いした。


よく考えたら、護衛を断った場合には、僕が何かで呼ばれて転移した時にミアと御者2人だけになってしまい気まずい空気のまま待っててもらうことになるので、これでよかったかもしれない。


「お兄ちゃんと2人で移動するのもなんだか久しぶりな気がするね」


「そうだね。少し前まではずっと忙しかったから、王都までの間は息抜きにもなりそう」


しばらくの間、ミアと談笑しながら進む。


「言いたくなければ言わなくていいんだけど、何か隠してることがある?」

突然、ミアに聞かれる。


「急にどうしたの?」

僕は動揺しながらも聞き返す。


「前から何か様子がおかしかったけど、今日は特にだから。前に魔王城を探していた時と同じ感じがするよ」

自分ではいつもと特に変わらないと思うんだけど、何か顔に出ていたりしたのだろうか。


「……そうだね。王都に着く前には心を決めて話をしようと思ってたから、顔に出てたかもしれないね」


「それは……お兄ちゃんが元の世界に帰れること?」

ミアが言ったことに、僕の心臓がドクンッ!と跳ね上がる。


「何で知ってるの?誰かに聞いた?」

知っている人には口止めしておいたはずだけど……。


「お兄ちゃんのスキルや称号を私は知ってるんだよ?結構前にお兄ちゃんは元の世界に帰れるんじゃないかなって気付いたけど、教えたら帰っちゃうかなって思ってずっと言えなかった」

ミアも僕と似たことで悩み、秘密を抱えていたみたいだ。


「帰れることには僕も前から気付いていたよ。魔王にも帰れるはずだって言われたから、帰ろうと思えば本当に帰れると思う。今言えないでいることもこのことに近いことなんだけど、少し待ってほしい。王都に着くまでには気持ちの整理をしてちゃんと話すから」

今言ってしまえば楽になると思う。

でも、大事なことだからこそ、ちゃんと悩み考えて話したい。


「うん。わかった」

エルフの里から出てきた時もミアは僕が言うまで待つと言ってくれた。

ちゃんと自分と向き合わないといけない。


変な空気にならないようにお互いが気を使いながら、さっきの話がなかったかのような談笑をしながら進んでいく。


「そろそろ前も暗くなってきますのでどこかで休みたいと思いますがよろしいでしょうか?」

御者の男性に聞かれる。


「はい。馬にも負担が掛かりますので、無理のないペースで進みましょう」

御者の男性は僕が王だということは知らされていない。

ミハイル様から丁重に扱うように言われているだけだ。

変な気を使われても困るので正直助かる。


近くの街に入り宿をとった後、冒険者ギルドに入る。

既に王国側に入ってはいるけど、ここでも冒険者が様子見となっており、依頼が滞っている可能性があるからだ。


「可愛い子連れてるじゃねぇか。俺にも貸してくれよ」

ギルドに入った所で3人で飲んでいた冒険者の1人に絡まれるが、無視して依頼が貼られているボードへと進む。

酒臭いし酔っているようだ。


「びびってるのか!?キャハハハ」

直接手を出してこないなら無視でいいか。

しかし、冒険者ギルドと商業ギルドは国とは別組織なこともあって何も介入していなかったけど、これが普通なら少し考えた方がいいな。


「結構溜まってる。Bランクの魔物の目撃情報ありとか、放置してていいのかな?」

街に入られる前に対処できる人がいるなら問題ないけど……。


「無視してんじゃねえぞ!……おっとっとっと、痛っ」

絡んできていたうちの1人が僕の腕を掴むが、無視して受付の方に歩き出すと、抵抗できずに引っ張られて転倒した。

やはり大分酒が回っているようだ。


「ここはいつもこんな感じなんですか?ギルドとして対処しないんですか?」

明らかにこちらの騒ぎに気付いている受付の女性に訊ねる。


「度が過ぎなければ冒険者同士の争いにギルドは干渉しません。剣を抜いたり、魔法を発動していれば介入して止めていました」

僕が喧嘩を買っていれば止めに来たということだろうか?……本当かな?


「そうですか」

ミアを渡せと言ったことには怒っているけど、ミアには手を触れてもいないので、そこまで男達には怒っていない。

彼らは酔っ払って自制が出来ていないだけだ。


「見たことのない顔ですが、他の街で活動している冒険者の方ですか?」


「はい。帝都の方で活動してました」


「それだと驚かれるのは仕方ないかもしれません。以前帝都から来られた冒険者の方も、あちらのギルド支部はこちらに比べて治安がいいと言っていました。先程のレベルであればここでは日常茶飯事なので、あちらのギルドで働いている方が羨ましいです」

この方がわざわざこんな嘘を言う理由もないだろうし、実際そうなのだろう。

さっきのが日常茶飯事だとすると、僕が無視しなくても男達が殴ってくることはなかったな。

ただただ、酔っている所に女連れで僕が入ってきたから絡んできただけ。


「大変そうですね。依頼が溜まっているようですが大丈夫ですか?」


「正直捌き切れていませんが、優先度の高い依頼だけはなんとかなっています。あの人達も今はただの酔っ払いに見えますが、昼間は旨味の少ない依頼を受けてくれました。悪い人ではないので、許してあげてください」

酒癖が悪いだけでいい人達らしい。

先程のことがなかったかのように席に戻り酒を飲んでいる。

鑑定した結果では、BかCランクの冒険者だろう。


「別に怒ってはいません。Bランクの魔物の目撃情報があるようですが、受けてくれる人はいるのですか?」

街の近くでワイバーンらしき影が目撃された。

ワイバーンならBランクだけど、個体によってはAランクだ。


「明日、彼らが受けてくれることになってます。彼らはBランクパーティですが、個体によっては荷が重いかもしれません。それでも他に受けてくれる方はいませんので頼るしかないのが現状です」

いい人達というより、お人好しという方がしっくりくるかもしれない。


街に危険があるかもしれないのだから、本来ならここの領主が他の街から人を呼ぶなりして対処しないといけないはずだけど、もしかしたら領主不在になっているところかもしれないな。


そこまで急いではいないし、出発は遅らせよう。

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