第144話 告白

「え……?いいの?」

僕が相部屋を許可したことにミアが一瞬ポカンとした後、間違いじゃないか聞いてくる。


「毎回言ってくれるのにいつも断っていたから、たまにはね」


部屋を2部屋から2人部屋1部屋に変えてもらい、部屋に入る。


お金がなくてミアに甘えて一緒の部屋で寝ていた時は、かわいいミアを変な目で見ないようにしながらも内心はドキドキしていた。


今はドキドキしていない。

御者が近くにいるとはいえ、馬車の中でもミアとは2人きりだし、そもそもミアが近くにいるというのが僕の生活で当たり前になっている。


部屋に2人きりになったからといって何かが変わるわけではないとわかっているから、ドキドキしないのだろう。


だから、特になにかあるわけでもなく夜は過ぎていった。


それからは王都に着くまでの間、ミアと相部屋で宿に泊まる。


「お兄ちゃん、何か考え事?」

今日もミアと同じ部屋をとり、寝る準備をしているとミアに聞かれる。

確かに考え事はしていて、手が止まっていたかもしれない。


「もうすぐ王都に着くね。時間が掛かったけど、気持ちの整理がついたから明日話すよ。今はどう話そうか考えていたんだ」

ミアと出会ったばかりのことを思い出しながら、ゆっくりと自分の心と向き合っていたら自然と答えは出た。


「……うん」

ミアは何故か悲しそうな顔をしながら返事をした。


翌日、馬を休ませるために止まったところで、御者と護衛からは少し離れてミアに話をする。


「ずっと話せずにいたことなんたけど、前にミアにも言われた通り、多分僕は元の世界に帰れると思うんだ」


「うん……」

ミアが小さく頷く。


「それで、あと3年くらいしたら帰ることに決めたんだ。それまでにこの世界でやらないといけないことは終わらせようと思ってる」


「……やっぱりそうだよね」

ミアが俯き、暗い顔で返事をする。


「僕は……ミアが好きで離れたくないから、ミアも一緒に僕達の世界にきて欲しい…………だめかな?」

本当はもっと順序立てて話をするつもりで考えていたけど、ミアの顔を見ていたら結論が先に口から出ていた。


「……私も一緒に?」


「うん。ミアには知らない世界で暮らすことでたくさん苦労させると思う。僕は向こうの世界でいないことになってるから、普通の幸せは得られないかもしれない。それに、やろうとしていることが絶対成功するわけじゃないから危険かもしれない。それでも一緒に来てくれたら僕は嬉しい。本当は僕が元の世界に帰ることを諦めればいいんだけど、どうしても諦めることが出来なくてごめん」


「お兄ちゃんが元の世界に帰るのを諦めてないことはわかってたから、いつか会えなくなると思ってて、ずっと苦しかった。でも、お兄ちゃんがそう言ってくれて嬉しい」

ミアの返事を聞いて、少し心がほっとする。

内心、断られるかもしれないとドキドキしていた。


「ありがとう……僕が気持ちを隠してたせいで苦しい思いをさせてごめん。自分だけ帰れる可能性があることは結構前から気付いていたんだけど、少し前までミアと一緒にっていうのは無理だと思っていたんだ。だから、両親と再会することと、ミアと一緒にいることのどちらか一つだけを選ぶということがどうしても出来なかったんだ」


「それだけ大事に思ってくれてたんだってわかって私は嬉しいよ。だから魔王城を探すフリをしていたの?」


「うん。元の世界に帰るために魔王を探していたわけだから、もし魔王が帰還方法を知っていたら答えを出さないといけなくなるよね。だから、探しているフリをしながらズルズルと悩んでたんだよ」


「そうだったんだ。お兄ちゃんのことだから悪いことを隠しているわけではないと思っていたけど、ずっと気になってたよ」


「それでね、ミアと一緒に帰れる可能性を魔王に帝国との戦が終わる頃に教えてもらったんだけど、その時にすぐにミアに話せなかった理由がもう一つあって……」


「まだ何か隠してることがあるの?」

ミアとしてはさっきの話が本題と思っているかもしれないけど、僕としてはここからの方が重要だ。


「さっきミアに好きだと言ったけど、あれは妹としてじゃなくて1人の女の子として好きなんだ」


「……え?だってお兄ちゃんの好きなタイプって、私と全然違うよね?」


「見た目のタイプは確かに前にミアが言っていた通りなんだけど、見た目だけが重要ってわけじゃないし……ミアはタイプとか関係なく可愛いよ」

言っていてすごく恥ずかしい。


ミアの顔が赤くなっている。多分僕の顔も赤くなっていると思う。


「ミアにずっと言えなかったのは、この気持ちがミアを妹としてみているからなのか、それとも恋人に向けるものなのかが自分でもわからなかったからなんだ。今の生活を捨てて一緒に来て欲しいというなら、ちゃんと自分の気持ちをミアに言いたかった」


「うん……。ありがとう」

ミアはまだ戸惑っている。

ミアとの信頼関係には固いものがあると思っているけど、ミアは僕のことをそういう目では見ていなかったと思う。

前に桜先生がミアに聞いた時は嬉しいみたいなことを言っていたけど、あれはミアが僕とそうなりたいという意味ではないと思っている。


「すぐに返事はしなくていいから。それから、断ったとしても、ミアが一緒に来てくれるなら僕は嬉しい」

ミアにもちゃんと考えて欲しいから、返事は急かさない。

ただ、愛の告白をしておきながら、断ったとしても離れたくないというのは女々しいと言ってから気付いた。


「……うん。そうする。お兄ちゃんはなんで私のことを、その……好きになったの?」

ミアが恥ずかしそうにしながら聞く。


「面と向かって言うのは恥ずかしいけど、ミアが僕の心の支えになってくれたからかな。無邪気で元気なミアに僕はたくさん元気をもらった。多分1人で城から逃げていたら、僕は今みたいに笑ってないと思う。正直に言うと、多分僕は帝国に入る頃にはもうミアに恋してた。でも、あの頃は誰かを好きになるような余裕はなかったから、勝手に気持ちをセーブしてたんだと思うんだ。それで、それが恋だと気付かないままミアとは深い信頼関係が出来てしまった。自分の気持ちがずっとわからなかったけど、ミアへの気持ちはフィルやルカ達に向けるものとはやっぱり違うから、僕はミアが好きなんだなってやっと気付いたよ」


「急なことでうまく言葉に出来ないんだけど、お兄ちゃんの気持ちを聞いてすごく嬉しかった。だから、今までのお兄ちゃんへの気持ちがどういう好きなのかはわからないけど、私はお兄ちゃんとそういう関係になりたいんだなって感じてるんだと思う」


「僕も嬉しいよ。何かが大きく変わるわけではないと思うけど、改めてこれからもよろしくね」

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