第139話 モルモット

クラスメイトを王の間から退出させた後、高村を王の間に連れてこさせる。


「お前以外は全員奴隷となることに決めたね」


「殺したいならさっさと殺せばいいだろうが!」


「もちろん処刑するけど、お前のせいで何人が苦しんで、何人が死んだかを考えると、簡単に処刑したのでは犠牲になった人が浮かばれない」

僕は高村の首を落として、それで終わりにするつもりはない。


「脅しているつもりだろうが、俺はあの首輪が同意なしでは効果を持たないことを知っている。そうやって俺に隷属の首輪を付けさせようとしているんだろうが、お前の下につくなんて屈辱を俺は受け入れない」

高村が見当外れのことを言う。


「奴隷として生かしてやる選択の機会はお前が自ら捨てたよね?お前にはこの世界の医療の発展の為の実験台になってもらう。勝手に薬を打って反応を見るだけだからお前は今みたいに寝てればそれでいいよ」

高村には罪を償う為に、苦しめた人以上に誰かを救う為の礎になってもらう。

奴隷として騎士団に預けたクラスメイトには死ぬかもしれないことをやらせるわけだけど、高村には死んでも構わないという前提でやらせる。


自分の未来を悟ったのか、高村が急に自分の舌を噛み切ろうとする。


「勝手に死なせないよ」

僕はそう言って、取り出した杖で高村の千切れかけた舌を治して、口の中に布を突っ込み同じことが出来ないようにする。


「これ以上特に話すこともないから研究棟の方に連れてって。舌を噛み切って死なないように常に布を…………いや、それだと面倒を見る人が大変だね。全部の歯を抜いちゃっていいや」

僕の言ったことにずっと強気な姿勢を見せていた高村が体をもだえさせる。


「ゔー!ゔー!」


「うるさいから連れてって。くれぐれもそいつの言うことに耳を貸さないように」


高村が控えていた騎士の1人に引きずられていく。


ー 称号[過去との決別]を獲得しました ー

無機質な声が聞こえる。

称号を獲得出来たのは嬉しい誤算だ。

魔物をどれだけ倒してもこれ以上レベルは上がらないので、ステータスの上がる称号の獲得はどんなものでも嬉しい。

魔王からステータスを上げるように言われているが、レベルを上げる以外にステータスが上がる方法を称号以外に僕は知らない。


これで捕まえていたクラスメイトの対処が終わったので、王の間から出て元国王の部屋に行く。


「もう終わったのね。スッキリした?」

隠し部屋に行くと委員長が書物を読んでおり、こちらに気付いて話しかけてくる。


「スッキリなんてしないよ。召喚術について調べに来たんだ。出来るだけ多くの人を地球に返す為のヒントがあるならここだと思うから」


「やっぱりそうよね。変なこと聞いてごめんなさい。召喚術について書かれている書物はそこにまとめてあるわよ」


「ありがとう」

しばらく調べたけど、委員長から聞いていた以上のことを僕が見つけ出すことは出来なかったので、委員長を残して隠し部屋を出る。


調べごとは委員長に任せた方が良さそうなので、僕は自分がやらなければいけないことをやりにいく。


やらないといけないこととは、御布令を見て来た人の対応だ。


王国を支配下に置いてすぐに出した御布令を見て、50人程の人が既に城に集まっていたが、他のことを優先していた以外にも理由があり、城の中でずっと待たせていた。


ブライアさんに声を掛けて、再び王の間に行く。


御布令で集めたのは、まず国を良くする為に人の上に立ちたい人。つまり、貴族となっていなくなった領主の穴を埋めてくれる人だ。


それから、各分野で優れた技術、知識を持っている人。

こちらに関しては情報を集めてもらい、こちらから力を貸してほしいと頼んで城まで足を運んでもらった。


御布令にも記載しておいた通り、まずは今の貴族にもやらせたように僕に嘘を吐けないように誓約書にサインさせる。


まずは領主候補の人から質問をしていく。

内容は以前貴族にやったものとほとんど同じだ。

その上で以前と同じ評価でC以上の人の中からブライアさんが使える人材かどうかを判断する。


流石に嘘をつけなくされて、最悪の場合は処刑されることまで書いておいたので、貴族になりたいだけの欲まみれの人はいなかった。


これまでの経歴や、自分の領地をどのように運営していきたいかを話してもらい、全員聞いたところで、次のグループに変わってもらう。


こちらも同じように嘘をつけなくした上で話を聞いていく。

来てもらったのは主に、錬金術師と魔導具職人、それから薬師だ。

他にも鉱物、植物に詳しい人や、農業や地理に詳しい人にも来てもらった。


こちらは基本的に出来るだけ要望を聞いて、出来ることなら城で働いてもらうつもりでいる。


基本的には人としても優れた人ばかりだったけど、1人だけ異彩を放っている目の下に大きな隈をつくった女性がいる。


一言で説明するなら、マッドサイエンティストだ。

違うのは、科学者ではなく錬金術師だということ。


この人のことは以前から知っていた。

錬金術師さんと雑談をしている時に天才がいるという話を聞いて、それがこのオニキスさんのことだった。

人格に問題があるとも聞いている。


「オニキスさんのお噂は僕の耳にも入ってます。新しいポーションをいくつも開発したそうですね。錬金術だけでなく魔導具も作れるとか」

まずは軽い口調で話を始める。


「ああ」

オニキスさんがつまらなそうに答える。


「貴様!王に向かって失礼だろう!」

控えていた騎士がオニキスさんに槍を向ける。


「僕は気にしてないから大丈夫だよ」

オニキスさんが不機嫌な理由はわかっている。

無理矢理城に呼び出して、そのまま城で放置されていたからだ。

その間、自身の研究が出来ずにいる。


「オニキスさんには量産出来る治癒薬を作ってもらいたいです。安く販売出来、長期の保管が出来るものの開発をお願いします。研究室は用意しますので、合間に自身の研究にも使ってくれて構いません」


「それをすることに私になんのメリットがあるのか提示してもらいたいね。どれだけの研究室を用意してくれるのかしらないけど、時間を割くほどのメリットがあるとは思えないね」

オニキスさんは否定的だ。

王である僕に対してこの態度の時点で変人度が窺える。


周りの騎士が再度身構えるのを制止した後、僕はオニキスさんの問いに答える。


「メリットというか、オニキスさんが研究を続ける為には僕に従うしか道は残されていません。新しいポーションを作り出したのは素晴らしいと思いますが、その為に何人の人を犠牲にしましたか?前の国王は国民よりも私腹を満たすことを優先していたので、出来たポーションを献上すれば罪を見逃されていたみたいですけど、僕はそんなに甘くありませんよ。オニキスさんに残された道は、言われた仕事をやりながら合間に自分の研究をやるか、過去の罪を償う為に処刑されるかしかないです。処刑されてもおかしくないことをやってますよね?

………答えないならそういうことだとしますよ?」

オニキスさんにも当然誓約書にはサインさせている。

認めることが出来ないオニキスさんは無言のまま答える様子がないので、逃げ道は封じて答えさせる。


城に招く人の中にこの人の候補が上がった時点でこの人のことは調べてあり、素直に従うことは考えにくかったので、この人に関しては元々無理矢理でもこの世界の為に働かせるつもりだった。

処刑するにはもったいない技術と頭脳を持っているのは間違いないのだから。


ただ、以前の王が罪を許しているという事実もあるので、奴隷とするのではなく、自由な時間も与えるという処置にはした。


「……わかりました。言われた物を作らせてもらいます。しかし、新たにポーションを作る為には人体実験は必要なことです。試してみなければどのような効果があるのか確かめることは出来ません」

オニキスさんに先程までの余裕はない。

僕が前の王のような人物ではないとわかってくれたようだ。


ただ、オニキスさんの言うこともわからなくはない。日本にも治験という仕事があることは知っている。


「オニキスさんの言うことも理解しているつもりではいます。結果として多くの人が助かったのも事実です。でも、なんの罪のない人を実験台にするのは擁護出来ません。なので、処刑する予定の罪人を引き渡します。ポンポンと渡せるものではないので、簡単に死なせないようにしてください」


「わかりました。ご理解ありがとうございます」

オニキスさんはホッとした様子だ。


他の人との話も終えた後、僕は予定通り高村をオニキスさんの実験台として引き渡した。

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