第138話 選択
委員長と話して帰還までの期限を3年としてから数日後、僕は桜先生のところを訪れていた。
「高村達をどうするか決めました。それから、委員長と話をして決めたことがあるので、相談に乗ってください」
「はい」
真剣な顔で返事をした桜先生に、まずは魔王から教えてもらった帰還方法のことを話し、遅くても3年後までに僕は帰還することにしたことを伝える。
「わかりました。確かにその方法であればミアちゃんと別れなくて済むかもしれませんね」
このままでは大多数のクラスメイトを置いていくことになることに、桜先生は何も言わなかった。
その優しさが嬉しくもあり、辛い。
「まだミアに話していないので、ミアにとっては異世界になる地球に行くことを断られるかもしれないけど……」
ただでさえミアにとって地球は未知の世界で不安が大きいだろうに、両親以外から僕は存在を忘れられていることで、僕の戸籍もなくなっているかもしれないし、当然ミアの戸籍はない。何をするにも向こうでの生活は苦労が多いと思う。
「ミアちゃんを見ている限りでは喜びそうだけど、断られた時のことは断られた時に考えた方がいいわよ」
「はい。それで牢に入れているクラスメイトのことですが、処刑されるか奴隷となるか本人に選ばせようと思います。王国、帝国どちらの法で裁いても処刑になることをしていますし、高村達に関しては、日本の法で考えても年齢を考慮しなければ死刑になっていてもおかしくないことをしたと思います」
「……そうね」
桜先生は暗い顔をする。
「高村に唆されただけで、死刑になるほどのことをしていない人に関しては、何年か奴隷として働いたあとに反省の色が見られるなら、悪さを出来ないようにした上で自由にしてもいいと思ってます。篠塚君から王国が敗戦する前の状況は一通り聞いているので、それを基準に分けようとは思っていますが、貴族にやったように話を聞いて最終的に決めようと思ってます」
「その話には私も混ぜてもらいますが、いいですよね?」
「お願いします。それじゃあ、これから高村達に会いに行こうと思います」
僕はあれから高村には会っていない。
両腕と右足を失くした高村がほとんど身動きの出来ないまま、無理矢理生かされているとの話を聞いている。
10戦終えた後、僕が偽装を解いて元国王と話している時には既に高村は捕虜として連れてかれた後だったので、高村とはあいつが僕を処刑しようとした時から会っていないようなものだ。
桜先生と地下牢へと移動して、高村が入れられている牢の前に立つ。
「久しぶりだね。少しは反省したかな?」
「影宮!てめぇ、ぶち殺してやる!」
高村がこちらを睨みながら吠える。
左足以外を切り落とされ、牢に放置されていたというのに、まだ吠える元気があるようだ。
「反省の色はなしか……。お前は奴隷として働かせることにした。3日後までに隷属の首輪を付けなければ処刑する。死ぬか奴隷となるか考えろ」
僕は高村の顔の前に隷属の首輪を投げ入れる。
「誰がてめぇの言うことなんて聞くか!殺したいなら殺せよ!」
「話は聞こえていたよね?死ぬか、それとも奴隷となるか決めて、死にたくない人は隷属の首輪をつけるように。首輪を付けた人からは話を聞いて、いつまで奴隷として働かせるか決める」
高村のことは無視して、他の牢に入れたクラスメイトの所にも隷属の首輪を投げ入れていく。
「影宮、俺は高村に命令されて無理矢理やらされただけなんだ。なあ、助けてくれよ」
中野君が言うけど、それを今聞く気はない。
「本当にそうなら悪いようにはしないから首輪を付ければいいよ。今日は話をするために来たわけじゃないからね。また3日後に来るから、その時までに首輪をつけておいてよ」
僕は罵声を浴びながら地下牢を出る。
「大丈夫ですか?」
桜先生に心配される。
「大丈夫です。ああなることはわかってたので」
ミハイル様の所に転移して川霧達にも同じ話をしてから、3日待つ。
予想通りではあるけど、高村以外の全員が首輪を付けていた。
鑑定で隷属状態になっているのを確認してから、高村以外を牢から出して王の間に連れて行く。
「この世界に来てからおこなった悪事を経緯も含めて全てこの紙に書いてください」
連れてきたクラスメイトに紙とペンを渡して、自身の行動を振り返ってもらう。
隷属の首輪により隠すことは出来ない。
しばらく待ってから紙を回収し、一度王の間からクラスメイトを退出させてから桜先生と一緒に内容を確認していく。
「きれいに分かれましたね」
高村や元国王から身を守るために嫌々悪事に手を貸したという人と、高村に唆されたという経緯はあったとしても自己の利益のために悪事に手を染めた人とでちょうど半々くらいに分かれた。
「こっちに関しては、1年くらい奴隷として反省させた後自由にしてもいいと思いますけど、先生はどう思いますか?一応、国王と皇帝にやったように悪さが出来ないように誓約書にサインさせるつもりではいますけど……」
「そうね……。私としてはすぐに自由にしてあげてもいいと思いますけど、周りからの体裁も考えれば妥当な所かもしれません」
確かにすぐに自由にしてもいいと思うけど、この世界の人が同じことをした場合処刑される可能性が高いことを考えると、無罪放免というわけにはいかない。
「問題はこっちですけど、岡野達のように嬉々として人を殺していたような人は、死ぬまで奴隷でいいと思います。迷惑をかけた分、少しでもこの世界の為に役立ってもらう為に、他の人がやりたがらない仕事をやらせて罪滅ぼしをさせるのがいいと思います」
「これは、私にも擁護出来ません」
桜先生が俯いたまま答える。
「残りは3年後、僕が元の世界に帰る前に確認して、十分反省しているようであれば自由にする。不十分なら3年ずつ追加して確認していき、反省したところで自由にするということでどうですか?本当に反省したかは隷属状態なら聞くだけでわかるので、僕が帰った後は誰か信用出来る人に任せていいかなと思います」
「……そうしましょうか。川霧君達もですが、杉岡君は腕を無くしてますよね?奴隷として働かせるというのは、何をやらせるつもりですか?」
「義手を用意します。この世界の義手は魔導具になっているので、本物のようにとはいかなくてもある程度自由には動くみたいです。正直に言えば、ミアなら治せると思います。でも、そんなことをミアにやらせるつもりはありませんし、僕としても治してやる気はありません。罪の軽い人には武藤さんがやっている農業改革のための畑を耕したりしてもらおうと思ってます。他はこの世界の犯罪奴隷と同じように鉱山に行ってもらうか、魔物を討伐させるか、危険を伴うこともやらせようと思います」
「わかりました。私から口を出すことはありませんが、影宮君はこれで後悔しませんか?」
「決めたことが妥当なのかは分かりませんけど、決めるなら早くした方がいいのは間違ってなかったと思うので、後悔はしないと思います。それから、捕まえていた半数くらいは正当防衛みたいなものでしたので、もっと早く動いていればよかったとも思ってます」
「私がもっとちゃんと出来ていれば影宮君にこんな思いをさせなくて済んだはずなのに……ごめんなさい」
桜先生が頭を下げた。
「桜先生が謝ることなんてないです。先生がいなければもっと酷いことになっていたと僕は思います」
奴隷としたクラスメイトをどうするか決まったので、退出させていたクラスメイトを王の間に呼び戻し3つのグループに分けるが、分けた理由は伝えない。
罵声と暴言は隷属の首輪の力で黙らせて、奴隷の刑期を1年としたグループは武藤さんのところに連れて行き、城の近くに畑を耕させ、残りはとりあえず騎士団預かりとして、とりあえず3年としたグループには雑用をやらせ、死ぬまで奴隷としたグループには命の危険があることもやらせていいことにした。
後は唯一処刑を選んだ高村だな。
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