第137話 召喚術

桜先生との話を終えた後、僕は書庫に行き委員長に話しかける。


「進捗はどんな感じ?」


「私達がどうやって召喚されたのか大体わかったわよ。国王の私室にあった隠し部屋に、召喚術以外にも禁忌とされた魔法や、過去に王国が起こした隠さないといけない悪事が書かれた書物や帳簿とかが隠されていたわ」


「見つけてくれてありがとう。城の書庫を前に探したけど、召喚に関するものは見つからなかったから困ってたんだ。僕の探し方が悪いのかと思ってたけど、見られたらまずいものは別のところに隠してあったんだね」


「見つけるのは結構苦労したけど、一歩前進ね。ただ、一つ気になることがあるのよ。どうして私達が選ばれたのかってこと」


「たまたまじゃないの?」


「影宮君は覚えてない?あのシキって神様は先生がクジを引くときに、巻き込まれた立場だから2枚引いていいって言ってたわ」


「確かに言ってた」


「つまり、私達は何かしら選ばれる要因があって選ばれたと考えられるわ」

召喚される対象となる基準があるなら、これは明確にしないといけない。


「見つけた書物には何も書かれていなかったの?」


「目的にあった人物が召喚されるとは書いてあっただけで、後は召喚の儀のやり方が書かれていただけよ。召喚された者は特別な力を得るとも書かれていたわね。もちろん、魔王を殺せば元の世界に帰還出来るなんて書かれていなかったわ」


「座標の指定が出来るとか……?」


「召喚する規模については書かれていたわね。規模が大きければ大きいほど対価となる代償も大きくなるわ。座標の指定が出来るとは書かれていなかったけど、出来たとしてこの世界から元の世界の詳細を知ることは出来るのかな」

委員長の言う通りだ。そもそもの話、召喚主が召喚元のことを知る方法がなければ、例え相手を選ぶ方法があったとしても、選びようがない。


「その代償っていうのは?」


「供物のことね。今回私達を呼ぶ為に使われたのは奴隷の命だったわ。これは他のものでも問題なくて、食べ物なんかでもいいみたいよ。こういう言い方は好きではないけど、命とそれ以外のものを天秤にかけた時、命を代償とした方が効率がいいみたいね。調べた内容をざっくりとだけど一から説明するわ。多分その方が影宮君も理解しやすいと思うから」


委員長から召喚の儀について教えてもらう。

本人はざっくりと言っていたけど、かなり細かいところまで教えてくれた。


「魔王が使える召喚ってスキルと同じかな?あっちは任意の対象を選んでいるみたいだけど……」


「私は別のものだと思うわ。召喚の儀は世界を分けている壁をこじ開けることが出来るみたいだけど……」


「魔王でも壁を壊して他の世界に繋げることは出来ないって言ってたよね?そんなことが本当に出来ると思う?」


「それなんだけど、少し思うところがあるのよ。魔王の召喚は自身の魔力を使っているから、他のスキルと根本の部分は変わらないと私は思うの。だけど、私達が呼ばれた召喚術は奴隷の命を代償としていた。さっき供物と言ったように、神に頼んでいるだけであって、召喚術自体に他の世界から誰かを連れてくる力はないのではないかと私は考えるわ」


「あのシキって神様が王国からの依頼を受けて僕達を連れてきたってことだね」


「他の神かもしれないけど、そういうこと。神が何かの基準で選んでいるのであれば、私達が選ばれたことにも説明はつくわ。なんで私達なのかはわからないけどね」


「魔王から僕以外の人も帰る方法をこの前教えてもらったんだけど、魔王も同じようなことを言っていたよ。僕達は鍵の掛かった大きな部屋に閉じ込められていて、その鍵を持っているのは部屋の外にいる何者かだけなんじゃないかって」


「え……ちょっと待って。帰る方法がわかったの?」


「魔王の想定であって、本当に帰れるかはわからないけどね。それで、その何者かと連絡をする手段が召喚術ってことかな」


僕は委員長に魔王から教えてもらった帰り方を説明する。


「確かに影宮君にそんなことが出来るなら帰れるかもしれないわね。でも失敗したら……」


「僕だけ帰ることになると思う。もしかしたら関係ない人を巻き込むかもしれない。それから、多分全員は無理だと思う。もう少しやり方を考えれば増えるかもしれないけど、今のままだと2、3人くらいしか帰れないと思う」


「……他の人には言わない方がいいわ。絶対パニックになる」


「少なくとも確定するまでは話すつもりはないよ。桜先生には話そうとは思っているけど」


「……とても無責任なことをこれから言うわね。影宮君のやりたいようにやればいいと私は思うよ。影宮君がいなかったら、私達はまだ王国にいいように使われているままだったと思う。元の世界に帰れなくても、自由になれただけで本当はみんな影宮君に感謝しないといけないの。だから、影宮君が全員一緒に帰る方法を見つけるまでこの世界に残る必要はないわ」


「…………ありがとう。少し気持ちが楽になった気がするよ」


「影宮君がここから抜け出した時に私達が決めたように、期限は決めた方がいいと思うわよ。さっきの話もそうだし、この世界が良くなるのを最後まで見届けていたら、多分その頃にはかなりの年月が経過しているはず。影宮君が王になり税が軽減されて、食べ物が配られただけで既に生活は改善されてきているわ。それだけ以前が酷かったという話だけど、ある程度基盤が出来たら誰かに任せて影宮君は離れてもいいと思う。それでも、もう少し、もう少しってズルズルとなりそうだから、期限は設けるべきよ」


「そうだね。………………3年後に僕は元の世界に帰ることにする。それまでに、やらないといけないことをなんとか終わらせることにするよ」

僕は考えて期限は3年とした。

これは、国の基盤を構築する期間であり、1人でも多く元の世界に帰すための力を得る期間。


それから、僕が気持ちを整理する期間だ。

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