第136話 王代理

前祝いが終わり、帝国との戦も終わらせて元皇帝を放逐した後、僕は帝都の城へと来ていた。


「よく集まってくれました。先日の戦では誰も血を流さずに終戦となったこと嬉しく思います」

終戦後、帝国の貴族を城に集めて話を始める。


当然ではあるけど、僕は歓迎されていないようだ。


「あなた達にはまずこちらの誓約書にサインして頂きます。内容は僕に嘘を吐かないこと。サインしたくない人、僕の配下になりたくない人は前に出てきてください。ただし、サインしない方には私財を没収、又は僕の所有する領土から10日以内に出て行ってもらいます」

横暴だと文句が飛ぶが、それは無視して王国貴族にも行ったように、帝国の元貴族にも同じことをやらせる。


王国よりも多くはなかったけど、サインを拒む者はいた。

流石に元王国、元帝国両方の領土に居られなくなるという選択肢は取らずに、私財を全て置いて平民に落ちる決断をしていた。


私腹を肥やしていた貴族が堅実に働いて生活するのは難しいだろうが、碌なことをしていなかったのだろうから手を緩めたりはしない。


王国で追放を選んだ貴族と同様、周りに危害を加えないように誓約書にサインさせた後に城から退出させる。


その後残った貴族一人一人と話をして、E判定とならなかった人達に話を始める。


「このあと皆さんにはそれぞれの領地に戻ってもらうわけですが、王国に比べてまともな人が多かった元帝国の領土の舵取りは代理人にお願いしようと思っています。皆さんはこちらのファルナさんの言うことを、王である僕の言葉として聞くように」

僕の言ったことに何人かが当惑の色を見せる。

獣人でファルナという名前の人物を知っている者も多いはずだ。


ダメ元で魔王に交渉してみたら、二つ返事で了承を得られた。

賛成というよりは、ファルナ様の意志を尊重すると言う意味での了承ではあったけど。


「御発現失礼します。そちらの獣人の女性はどなたでしょうか?」

先程の振り分けでA評価を付けたマグネイト家のスレイドさんが確認する。元伯爵だ。


「知っている方もいるようですが、以前帝国が滅ぼした獣人の国の女王だった人です。“獣人の”にはなりますが、以前国のトップに立っていた実績もありますので、安心して任せることが出来ます」

帝国だけが獣人の国を壊滅に追いやったわけではないけど、この場ではこのように話す。


僕の発言を聞いて、場がザワつく。


「王の御前です。静粛にしなさい」

ファルナさんが口を開いたことで、場に静寂が訪れる。


「思うところもあるかと思いますが、帝国の1番の問題は種族差別だと思います。獣人だからという理由で国を一つ滅ぼしたように、今でも獣人を下に見て、奴隷のように扱っている人が少なからず残っています。昔に何があったのかは知りませんが、魔王が帝国を滅ぼそうとしたのもその辺りに理由があるのではないかと僕は思っています。ファルナさんは国を滅ぼされてなお、復讐ではなく獣人差別をなくす為に動いていました。人と協力してです。何か反論のある人は前に出てきてください」


スレイドさんが一歩前に出る。


「反論ではありませんが、帝国の内情をある程度把握している方を補佐に付けた方がよろしいかと具申いたします」


「後ほどその役割を担う人は選ぶ予定でいましたが、あなたに任せます。他に異論のある方はいますか?…………いませんね。それでは、後は任せました」

僕はファルナさんに後は任せて城を出る。


ファルナさんには僕が帝国を今後どうしたいかは話してあるけど、基本的には任せている。

その方がうまく回るだろうからだ。


ファルナさんに帝国のことを任せたわけだけど、ファルナさんは魔王の部下のままだ。


魔王の気分次第で地上が血の海になることに変わりはないが、何か魔王に考えがあれば、ファルナさんを通してやることが出来るから、穏便なやり方になってくれるだろうという期待もあってファルナさんを指名した。


城を出た僕は王国の方の城に転移する。


帝国との戦の根回しをする為に王国の方が疎かになっていたから、これからは本腰を入れようと思う。


本腰を入れるといっても、王としての仕事はブライアさんに任せており、僕の思う方向に舵取りされているか確認しているだけなので、やることはクラスメイトの方の対応だ。


100日という期限を付けたことがよくなかったのか、まだ半数近くが部屋に引きこもっているそうだ。


「クラスのみんなの様子はどんな感じですか?」

桜先生のところに行き、経過を聞く。


「あまりよくないです。やはりこの世界で生きていく覚悟が出来ないようです。部屋から出て仕事を始めた子もとりあえずといった様子で、仕事として成り立っているのは武藤さんだけね。頑張っている子はいるけどね」


「それはまずいね。頑張っている人は別としても、部屋に引きこもっているのに他の働いている人よりもいい暮らしをさせていたら反感を買う。100日というのは自分に何が出来るのか考えて、働いてお金を稼ぐまでの時間のつもりだったんだけどなぁ」


「影宮君が言っても逆効果だと思うから、もう少し任せてもらえるかな」


「もちろんです。お願いします。閉じ込めている方はどんな感じですか?」


「生かさず、殺さずのままよ。正直、何が正解かはわからないわ」


「反省している様子はありますか?」


「反省しているというよりは、死にたくないって感じよ。まだ学生ということと、急な環境変化を考えれば当然かもしれないわ」


「以前の王国、帝国、どちらの法で裁いても処刑は免れないので、このままというのはよくないですね。処刑する、奴隷として働かせる、許す、どれが正解かはわかりませんが、早めに決めることにします」


「影宮君が背負わなくてもいいのよ?」


「一生背負うつもりはないので大丈夫です。ただ、これまで特別扱いしてきたのは僕なので、その責任をとらないといけないと思っているだけです」


「決断したら、行動に移す前に先生に相談してください。少しは気持ちが楽になると思います」


「ありがとうございます」

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