第135話 前祝い
プロテ男爵を牢に閉じ込めた後、残りの領主の元にもまわって、脅迫まがいな方法をとりつつ交渉を終える。
「無事、開戦前に終わったね」
僕はクルトに言う。
「完全にハイトの方が悪役だったね。脅した相手以外にも話は伝わるだろうし、反感を買ったかもしれないよ」
「今の最優先は間近に迫った戦だから、その後のことはその時に考えるよ。それに、貴族からしたら悪い印象かもしれないけど、徴兵されずに済んだ平民の人には良い印象を与えたんじゃないかなと勝手に思ってるよ」
「流石にその考えは甘すぎると思うよ。戦には行かずに済んで喜んでいるかもしれないけど、侵略されるわけだからね。ハイトのことをよく知っているわけでもないし、不安しか無いと思う。歓迎されるには長い時間が掛かると思うよ」
「そっか。まあ、自己満足としておくよ。付き合ってくれてありがとうね。僕は先にミハイル様の所に行ってくるから、クルトはゆっくり戻ってきて」
「おつかれさま。フィルちゃんに2日後に戻るって伝えといて」
「……伝えておいたよ。それじゃあまた」
フィルに念話で伝えてからクルトと別れて、ミハイル様の屋敷へと転移する。
「っ!!心臓に悪いから、急に目の前に現れるのはやめてくれ」
転移してすぐ、ミハイル様から苦言を言われる。
「次から先に念話を飛ばすことにします」
フィルに念話を飛ばしたことで、ミハイル様に念話を飛ばすのを忘れていた。
「ああ、そうしてくれ」
「姫野さんの様子はどうですか?」
本題の前に、任せっきりになっている姫野さんのことを聞くことにする。
「たまに情緒不安定になる時があるが、以前に比べれば大分よくなっている」
ふとした瞬間に殺した時のことを考えてしまうのだろう。
だけど、快復に向かっているようで安心する。
「すみませんが、引き続きお願いします」
「ああ、任せてもらって構わない」
「それで今日来た本題です。確約が取れていない人もいますが、領民を徴兵しないように話は終えました。もし徴兵していたとしても、戦さ場に行く道中でこの街を通るはずです。もし来られることがあれば教えてください」
「それはもちろん構わない。だが、よほどのバカでなければ来ないだろう」
「僕もそう思ってはいますが、念のためです」
「警備の強化はしておくことにしようか」
「お願いします。それともう一つ話がありまして、現皇帝の後に帝国をまとめられる人を探しています。僕としてはミハイル様がやってくれると安心なんですけど、誰か心当たりはないですか?」
「帝国の領土も吸収して、ハイトくんが王になるのではないのか?」
「生活レベルもですけど、王国と帝国では暮らし方に違いがありすぎると思うんです。王国に関してはまともな貴族がいないと思っていましたので僕が王になりましたが、帝国に関しては誰かに任せてもいいと思ってます。ただ、実務のトップを任せるだけで、その上に僕がいる形にはします。宰相に王の仕事をやらせるようなもので、王は僕です」
「心当たりはいくつかあるけど、この状況でその役目をやりたい人はいないんじゃないかな?ハイトくんが両方やるのは出来ないのかい?」
「王国の方だけでも僕の手には余ります。実際に、今は方針を決めて、元々貴族だった人に仕事を丸投げした状態です」
「急に王の仕事が出来る訳がないから、それは仕方ないだろう」
「そういうわけで、帝国の方も誰かに任せたいんです。王国よりは帝国のほうがまともな国なので、僕自身は王国に主軸を置き、帝国の方は任せた人に一任して、何か重大なことをやる時は実行に起こす前に一言連絡してもらうのがいいんじゃないかなと思ってます。もちろんそれは実務の話で、国自体は一つにまとめます。まずは、王国と帝国での生活レベルの格差を無くすつもりです」
「何人かに声は掛けておくが、あまり期待はしないでくれ」
「ミハイル様が受けてくれてもいいですからね」
「私には荷が重い。この街だけで手一杯だ」
「そうですか。ただ、誰かしらは決めないといけないので、誰も見つからなければ、僕の独断で決めることになります。ミハイル様の他に適任と思える人がいればいいですけど、いなければお願いします」
「……その時は覚悟を決めないといけないな」
「それではよろしくお願いします」
ミハイル様に頼み事をした後、フィルの所に転移する。
「お疲れ様。フィル達のおかげで、無駄な犠牲を出さずに戦を終えることが出来そうだよ。少し早いけど、みんなが戻ってきたらお祝いでもしようか」
ひと段落ついたので、そのお祝いでもしようかとフィルに提案する。
「少し気が早すぎませんか?」
「後は待つだけだけど、戦が終わってからの方がいいかな?魔王が裏切ったりしない限り、結果は変わらないと思うけど……」
僕の知る限りで、僕が戦って負ける可能性があるのは、魔王とミアくらいだ。
魔王がやらせたことだし、ミアが僕を裏切るとは思えないし、思いたくない。
あとはシキとかいう神だけど、このタイミングで手を出してくることは流石にないと思いたい。
「ハイトさんがやりたいなら準備を進めますけど、ミアちゃん抜きでいいんですか?まだ王城ですよね?ミアちゃんが悲しみませんか?」
「それは魔王様に頼めばなんとかしてくれるよ」
「そんなことを魔王様に頼んでいいんですか?」
「魔王様主催で僕達を労ってくれてもいいと思うくらいだよ。皇帝の本性に気付けなかった僕も悪かったけど、あの時に僕の知り得た知識だけなら、帝国をすぐにでも潰さないといけないとは思えなかったからね。魔王と帝国とで過去に何があったかも知らないし」
「わかりました。それじゃあ、えっと3日後で準備しますね」
サラさんに前祝いの準備で力を貸してほしいと頼んだ後、魔王城の門の前へと転移する。
「あ、サトナさん。お久しぶりです。魔王様に会いに来たんですけど、会えますか?」
念話で呼ぼうかと思っていたけど、ちょうどサトナさんを見つけたので、確認してもらうことにする。
「確認してまいります。どうぞ中にお入りください」
サトナさんに城内の一室に通され少しの間待ち、魔王の部屋へと通される。
「準備は終わったのでその報告と、お願いをしにきました」
「終わったのはこき使われていたから知ってるよ。フィルちゃんにクルトくん、優秀な配下を持ってて君は幸せだね」
「2人は配下じゃないです。友人であり、仲間です」
「そっか。やっぱり君は幸せ者だ。それでお願いっていうのは?」
「戦の準備も終わったので、後は開戦を待つだけになりました。慰労会の意味も込めて前祝いをすることにしたんです」
「うん、いいんじゃない?僕から見ても結果は概ね確定したと思うよ」
「それでですね、3日後に前祝いをするので魔王様のスキルで送迎をお願いしたいんです」
「それは構わないけど、あのスキルは魔力を大量に消費するから、大人数は無理だよ」
「数人です。多くても5人くらいで、多分3人です」
頼むことになるのは、ミアとミコト様とサクヤさんの3人だ。
後は間に合うかどうか次第になる。
「それなら、問題ないよ。いつ喚べばいい?」
「確認するので、少し待ってください」
僕はミア達に念話で説明して、どうするか確認する。
「ミアは今日、ミコト様とサクヤさんは前日にフィルの屋敷にお願いします」
「わかったよ。召喚!…………転送!」
魔王がミアを召喚して、フィルの所へと転送する。
僕と違って、魔王はスキルを組み合わせることで誰でも好きな所に転移させることが出来る。
これを使って、魔王にはみんなを各地に移動してもらい、移動時間を大幅に短縮してもらっていた。
「ありがとうございます。魔王様も参加されますよね?」
「遠慮しておくよ。僕が行くとみんな気を使うからね」
「そうですか。今回集まる人は気にしないと思いますけど、欠席と伝えておきます。では失礼します」
「ちょっと待って。今回僕の計画に巻き込んだお詫びに、君の知りたい情報を教えてあげる。教えてもすぐに君は行動に移さないと思うからね」
「なんですか?」
「ミアちゃんを連れて元の世界に帰る方法だよ。実は前から思いついてはいたんだけど、君には今回のことをやってほしかったから黙っていたんだ。簡単な方法じゃないし、可能性があるってだけだけどね」
「教えて下さい!」
魔王から僕の1番知りたかった情報を教えてもらう。
「それはそれで、無理難題な気がしませんか?」
「簡単な方法ではないって先に言ったはずだよ。可能性があるだけだって」
「そうですね。教えてくれてありがとうございます。とりあえずうまくいくようにステータスを上げることにします」
前に魔王がステータスを上げるように言っていた理由がわかった。
「とりあえず僕に勝てるようになってよね。それで、僕を楽しませてよ」
「そうですね。時々手合わせをお願いします」
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