第134話 交渉する②
「今向かってるプロテ男爵ってどんな人?なんでこちらに付いてもらえないの?」
会う前にクルトに確認しておく。
「プロテ男爵はAランク冒険者で、功績を上げて男爵の地位を与えられたんだよ」
「武闘派貴族だね」
「そうだね。プロテ男爵がまだこちらについていない理由だけど、一言で言うなら脳筋なんだよ。だからメリットやデメリットを話しても響かない。それから、皇帝には何か恩義を感じているみたいなんだ。だから、何を言っても皇帝を裏切るって考えにはならないみたいだよ」
「そうなんだ。とりあえず、会ってみてだね」
しばらく走り、プロテ男爵が治める村に到着した。
プロテ男爵の屋敷に行き、応接間でプロテ男爵と面会する。
脳筋というのがしっくり来るムキムキの男だ。
「他の者から話は聞いていると思いますが、この村に住む人達を無理矢理徴兵するのはやめてもらいたいです」
まずは説得から始める。
「くどい。何度言われても考えは変わらん!」
「勝ち目はありませんよ。戦に参加するのは、命をゴミ箱に捨てるのと同じです。自身の命ならそれでもいいですけど、村人まで巻き込むのは違うとは思いませんか?」
「戦わずに逃げるなんて恥だ!勝ち目がなかろうと、帝国の為に最後の1人となっても死力を尽くして戦う。それが男というものだ」
「それを無駄死にだと言っているんです。男爵の言っていることは崖の上から飛び降りるのと変わらない」
「何を言っても考えを変えるつもりはない。もう帰ってくれ」
「どうするんだい?前回もこんな感じだったみたいだよ」
クルトに言われ、それを聞いていたプロテ男爵からは早く帰れという視線を向けられる。
「村人を無理矢理徴兵させないなら、戦が終わった後も貴族として生きるチャンスは与えますが、いいんですね?」
最後の確認をする。
「構わん」
個人的にこういう人は嫌いではないけど、自分の上には立ってほしくないなと思う。
「では、男爵には戦が終わるまで大人しくしていてもらいます」
僕が言ったことにプロテ男爵が警戒するが、元Aランク冒険者だとしても、僕の動きにはついて来れなかった。
プロテ男爵を縄で拘束する。
「戦が終わるまではここで大人しくしててください」
杖を取り出し、応接間に土魔法(微)で牢を作り、男爵を閉じ込める。
土の牢には偽装を掛けているので、頑丈な牢に見えるだろう。
魔力を込めているので、実際に頑丈ではある。
「出せ!」
男爵が叫ぶ。
「これがハイトの考えてた案なの?」
クルトに聞かれる。
「そうだよ。時間がないからね。物理的に戦に行かせないようにする。男爵個人が戦に行く分には構わないんだけど、このままだと村人も巻き込むからね。そうならないように、戦が終わるまで何もできなくなってもらう」
「失礼します!!…………え?」
男爵の叫び声を聞き使用人の男が部屋に入ってきて、言葉を失う。
「男爵との交渉は決裂しました。戦が終わるまで男爵にはそこで生活してもらいます。村の総意として男爵を助けて戦に参加するなら、男爵を牢から出しても構いません」
部屋の外から覗いている人達にも聞こえるように話し合いの結末を伝える。
「は、はい。え?」
使用人の男が話の経緯を聞いていたわけではないので、当然理解はされない。
「男爵は断固として村人を徴兵するつもりでしたけど、あなた達はどうですか?」
「主人に仕える以上、主人の意思に従います」
部屋の中にいる男はこう答えるが、外から覗いている人達の答えは違うようにも見える。
「帝国が戦に負ければ、プロテ男爵は平民のプロテさんになり、この地からも離れてもらいます。もし戦が終わるまで僕の代わりに男爵を拘束し続けてくれるなら、あなた達が戦が終わった後にこの地を治める人の下で働けるように考えてもいいです。もちろん確約は出来ませんが、男爵を逃せば今の職を失うのは確定します。もちろん、帝国が戦に勝てばこの限りではありませんが……。また明日伺いますので、その時に答えを聞かせてください。それから、戦に行きたい人を止めるつもりはありません。任意であれば兵を集めても構いませんし、男爵が戦場に来ても構いません。村人を無理矢理徴兵しないのであれば、男爵を牢から出してもいいです。但し、男爵を牢から出した結果、村人に被害が出た場合、その責任はあなた達にとってもらいます。もし、故意ではない理由で男爵に逃げられてしまったのであれば、速やかに冒険者ギルドに知らせてください。それと、今回の件は皇帝には内緒でお願いします」
「あ、あの、あなた様が私達の仕事を保証してくれるんですか?」
隠れて見ていた1人のメイド姿の女性に聞かれる。
「先程も言いましたけど、確約は出来ません。僕はあなた達のことを何も知らないので。ただ、罪を犯しているなどの理由がなければ、悪いようにはしないと約束します」
「失礼を承知の上でお聞きします。それだけの権力があなた様にあるのでしょうか?」
当然だけど、僕のことを知らないんだ。
名前は知ってるかもしれないけど、会ったことはないからね。
よく知らない人に保証されたところで、安心は出来ないのも当然だ。
「名乗っていませんでしたが、僕はハイトといいます。先日、王国の領土を全て得て、今後、帝国の領土も得る者です。もっとわかりやすく言うなら、敵国の大将首です」
「あわわわわ。ご無礼を失礼致しました」
女性はわかりやすく動揺した後、深く頭を下げた。
「気にしていないので、頭を上げてください。他に何か聞きたいことがある方がいれば遠慮なく言ってください」
少しの間待つが、口を開く人はいなかったので、他に聞きたい人はいないという判断をして屋敷を出ることにする。
「先に確認してなかった僕も悪いけど、かなり強引なやり方だったね。残りも同じようにやるつもり?」
屋敷を出たところでクルトに聞かれる。
「最終的にはそうだね」
「さっきみたいな場合はああするとして、もう一方の方はどうするんだい?」
悪事を働いているが故に反抗している領主のことを聞かれる。
「とりあえず逃げ道を提示しようと思ってるよ。今すぐこちらに身柄を預けるなら、最悪の刑には処さないと」
「相変わらず随分と甘いね。死んだ方が世の為になるような人物だっている。それを許すって言うのかい?そいつらは、こちらが折れて罪が軽くなるのを待っているとも見てとれるんだけど」
「許すとは言ってないよ」
「けど、処刑しないと約束するんだろ?王が約束を違えるのは今後のことを考えてもよくない」
「別に処刑しないとは言ってないよ。死んだ方がマシだと思える地獄を、永遠とも思える時間与えられてから惨めに死ぬという最悪の結末には、今ならやらないであげると言うだけだよ。王国との戦いで、騎士団長にやったことは多くの人に知られているからね。今なら最悪でも普通の処刑になると言うだけ。もちろん、処刑するほどの罪を犯してないなら処刑しないよ。ただ、軽い罪だとしても、徴兵させたなら最悪の結末に向かってもらう」
「甘いと言ったのは撤回させてもらうよ。でも、少し意外だね」
「実際には、さっきみたいに徴兵したくても出来ないようにするけど、答え次第で対応を変えるつもりではいるよ。出来るだけ手荒な真似はしたくないからね。それじゃあ、次に行こうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます