第133話 交渉する

国の方はまだ落ち着いたとは言えないけど、帝国との開戦日が近づいているので、そちらを優先しないといけない。


僕はフィルに念話を飛ばしてから、ハイトミアの拠点であるフィルの屋敷へと転移する。


「久しぶり。定期連絡を聞いている限りだと順調そうだけど、何か困ってることはない?」

応接室でサラさんに出してもらったお茶を飲みつつ、フィルに状況を改めて確認する。


「エクリプスとワルキューレの名前も使わせてもらって、冒険者ギルドの助けも得られてますので、今のところは順調です」

僕が念話の中継役になってるので、大体の状況は理解しているけど、念話を使ってない情報のやりとりもあるかもしれないし、すり合わせの為にも話を聞く。


「言うことを聞いてくれない人はいない?」


「不安を感じている人はもちろんいますが、戦に行って死にたい人はいません。帝国が勝つ未来がないことを理解してもらって、徴兵を無視することに納得してもらえています。騎士や兵士の方も抵抗はあるみたいですが、死にたいわけではありませんので、少しずつこちらに流れてきています」


「徴兵する領主側はどう?」


「こちらに協力すれば、帝国が潰れた後も貴族を続けることが出来る可能性があると言えば、思っていたよりも苦労なくこちら側に寝返ったみたいです」

それはそれで今後が心配になるが、今は結果として良しとしておくか。


「ただ、全ての領主がそうだというわけではないです」


「それじゃあ、そっちは予定通り僕が動くよ」


「これがリストです。それと、地図に領主の名前を書いておきました」


「ありがとう。助かるよ。少しの間、クルトを借りたいんだけど、いいかな?」


「はい。その予定でクルトさんには動いてもらってますので大丈夫です」


「それじゃあ、またキリのいいところで連絡するね。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってね」


「わかりました」


『今、どこにいる?』

応接室を出てから、クルトにどこにいるのか念話で確認する。


『今はヒルドラー子爵と話しているところだよ』

さっきフィルにもらった地図で場所を確認する。


『そこは行ったことがないから転移出来ないね。向かうから、その辺りで待ってて』


『わかったよ。近くになったら、また教えて』

行ったことのあるところまで転移した後、ヒルドラー子爵領に走って向かう。


数時間後、ヒルドラー子爵領に入った所でクルトに念和を飛ばして合流する。


「お待たせ。クルトがよければ、何か食べながら話そうか」

適当な店に入り、早めの夕食をとりながらクルトと情報を共有する。


「フィルちゃんから聞いてると思うけど、大体の領主はこちらに寝返ったよ」


「少し心配になるけど、順調そうで安心したよ。徴兵を無視して戦にいかなかった場合、領主が徴兵させる気まんまんだったら、戦が終わった後にその地に住みにくくなるからね」


「ハイトが王国相手に圧倒的な勝利を収めたのがきいてるね。その矛先が自身に向くのと、国を裏切るのを天秤に掛けさせると、大体の者は心が折れるようだ。さっき話してたヒルドラー子爵はまだ悩んでいるよ。後残っているのは、ヒルドラー子爵のように忠義心が強い人物と、悪事を働きすぎていて帝国と心中するしか道が残されていない人物だけだね」


「どちらも対応は考えてあるから大丈夫だよ。とりあえず、明日はヒルドラー子爵の元に僕も一緒に行くよ」


「任せたよ」


「もらったリストを見る限りだと、やっぱり王国に比べると大分まともな貴族が多いね。比較対象が王国だと、なんでも良く見えそうだけど」


「帝国は良くも悪くも皇帝の国だからね。力で権力を得た領主が多いから、才覚に優れた人が多いよ。王国みたいに血筋に重きを置いてないから、貴族の子供も親の跡を継ぐ為に努力はするみたい。出来が悪いと養子をとるなんて、珍しい話ではないよ」


「なるほどね。そういう背景があったんだ」


「話しが戻るけど、だからこそハイトに力で負けている皇帝から離れていくわけだね」


「将来的に考えると、その考えはあんまり良くはないね」


「そうかな?力ある者に付き従うのは人間の本能に近いものだと思うけど」


「そうなんだけど、それだと1番力のある人が下の者を道具のように扱おうとしても、誰も止めないよね」


「今ハイトがやっていることも同じだよね?」


「そうだね。だから、力の使い方を間違えてたら、間違った道から戻れなくなる前に引っ張り出してね」


「大丈夫だよ。ハイトにはミアちゃんがついてるから」


「……そうだね。よし、それじゃああまり時間も残されてないから、ヒルドラー子爵から説得を頑張ろう!大変だと思うけど、付き合ってね」


「覚悟はとっくに出来てるから大丈夫だよ」


翌日、クルトとヒルドラー子爵家に出向く。


「ヒルドラー子爵ですね。ご存じかもしれませんが、先日王国の領土を全て頂いたハイトです。お見知りおきを」

応接間で白髭のおじさんと対面し、話を始める。


「王自ら来られるとは、寝返らない私を処分に来ましたか?」


「そんなことはありませんよ。ちょっとしたお願いがあるだけです」


「お願いですか……」

ヒルドラー子爵はこちらをずっと警戒している。


「ええ。こちらに寝返ってくれなんて言いませんので、ヒルドラー子爵領に住む領民を無理矢理徴兵しないで頂きたいんです。志願する人を戦に連れて行くのは構いませんけど、嫌がっている人まで連れていくのはやめてもらいたいです」


「それは出来ません。帝国に住む者として、帝国の繁栄の為に、戦に赴く義務があります」


「あなたは自領の民が大事ではないのですか?」


「もちろん大事です。当然戦場に行かせれば犠牲も出るでしょう。しかし、今の帝国の繁栄は、過去に犠牲になった方達の上に成り立っています。自分達の番の時だけ逃げるわけにはいきません」


「そこを否定するつもりはありませんが、1つ言わせてください。今までは犠牲を出しつつも戦に勝ったり、領土を守っていたから礎になれたんです。今回参加する人はただ死ぬだけです。無駄死にです。それとも、ヒルドラー子爵は万に一つでも勝ち目があるとお思いですか?」


「戦力に大きな開きがあることは理解しています。しかし、勝負は時の運。やってみなければわかりません」

時の運でどうにかなると思っている時点で、戦力差を正しく理解出来ていない。


「ちなみにですが、既に8割強の帝国貴族の方はこちらにつかれています。帝国で1番の武闘派であるルード伯爵もこちら側です。今は断固拒否している少数派と話をしているんです」


「その情報が正しいとは限らない」


「真実ですよ。しかし、敵からの情報を鵜呑みにできないのは仕方ないでしょう。少し話を変えて、帝国が僕達との戦に勝利したとして、その後はどうするんですか?魔王にも勝てるとお思いですか?」


「何故魔王が出てくるのですか?これはあなた方新生王国と私達帝国との戦のはず」


「……戦になった経緯を皇帝から聞いていないんですか?」


「王国の領土を手に入れたあなたが、次は帝国の領土を、手に入れようと宣戦布告したのですよね?」


「皇帝は保身の為に真実は言ってないみたいだよ」

クルトから補足の説明を受ける。


ヒルドラー子爵に僕が宣戦布告するに至った経緯を説明する。


「そんな……それではまるで恩人と戦をしようとしているみたいではないではないか」


「それでも、皇帝からしたら相手が魔王から僕に変わったくらいにしか思ってないみたいですね。実際にやり方が違うだけで帝国を潰そうとしているのに変わりはないので仕方ないですけど」


「少しお時間を頂けますか?」


「開戦日まで時間がありません。この場で決めてください。それから、こうして子爵の元に足を運べている時点で、帝国に万に1つの勝ち目がないことは理解してもらいたいです。正直、子爵をこの場で処分することは容易いです。でも、出来ればやりたくない。それは、戦が終わった後も子爵にはこの地を治めてもらいたいからです」


「……わかりました。従います」


「いい答えが聞けて良かったよ。手荒な真似をせずに済んだ。約束を違えて徴兵を続けたら、今後は忠告なく潰すからね」


「承知しました」

ヒルドラー子爵の理解を得られたので、次の領主の元へと向かう。


「ヒルドラー子爵は、戦の経緯を説明すれば昨日の時点で納得してくれたんじゃないかな?なんで言わなかったの?」

走りながらクルトに気になったことを聞く。


「あの話をすると魔族と人族との溝がさらに広がると思ったからだよ」


「そっか。それなら、僕も話さない方がよかったね」


「時間も迫ってきているし、判断は間違ってなかったと思うよ。それで、さっきの交渉がハイトの考えてた対応なの?」


「違うよ。まずは話をしようと思っていただけ」



◆◇◆◇◆◇◆◇


ご愛読頂いている皆さんに一つアンケートを取らせてください。


4作品も完結させずに執筆中としている作者に原因があるのですが、全てをハイペースで執筆することは、今の生活では難しいと痛感しています。


最新話のPVの数字を見て、現在は『クラス転移したひきこもり・・・』の作品を多めに投稿出来るように、書き溜めるストックを調整していますが、投稿ペースが早い作品がPVが多くなる傾向でもあるので、実際にどの作品を皆さんがもっと読みたいと思っているのかを知りたいです。


全体の執筆ペースを上げることはなかなか難しいですが、「この作品の投稿ペースをあげてくれ!」という要望が多い作品を多く投稿したいと思っています。


①『クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される』


②『イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・』


③『クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです』


④『天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる』


⑤その他(新作が読みたい。投稿ペースを揃えて欲しいなど)


数字だけで結構ですので、コメントで教えて下さい。

作者のモチベーションにも繋がりますのでよろしくお願いします。

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