第121話 逃亡者、王になる
「それでは料理が冷めないうちに好きに召し上がって下さい。食べながらで結構ですので簡単に自己紹介を含め、挨拶をお願いします。まずは自分から……異世界である地球というところから、王国の召喚により無理矢理この世界に連れてこられ、色々あって先程莫大な領土を得ました。影宮 灰人です。この場をお借りして宣言させてもらいます。僕は建国して王となります。皆さんに賛同していただければ幸いです」
パチパチパチ。
フィルが拍手をしてくれる。
それを見て他の人たちも続いて賛同の意を示してくれた。
ただ皇帝だけが静観している。反論するわけでもないので今は無視しておく。
「ありがとうございます。まだ未熟なので皆さんに協力をお願いすることがあると思いますがよろしくお願いします。それでは次の方お願いします」
僕は自分の紹介した後、エルフの長老見る
「エルフ族代表のカムハルだ。名前は省略させてもらう。エルフのトップは女王だが、訳あって里から出ることが叶わぬので、私が代わりに参加させていただく。エルフは他の種族から干渉されずひっそりと暮らしたい。今回はそれを伝えに来させてもらった。排他的な思想をしていることは理解しているが、敵対の意思はないので誤解しないでもらいたい」
女王が里から出られないのを忘れてお願いしてしまったけど、長老だけ参加してくれた。
「妾はミコトなのじゃ。日々、妖を退治している。なんで妾が呼ばれたのかは知らぬが、呼ばれたから来たのじゃ。こっちはサクちゃんなのじゃ。妾の護衛なのじゃ」
サクヤさんはずっと困惑している。
「ミコト様、ご先祖様に代わってもらえますか?」
僕は犬塚さんに代わってもらうようにお願いする。僕が参加して欲しかったのは犬塚さんだからだ。
「それは無理なのじゃ」
「え!?」
「ご先祖様はあの村から出られないのじゃ。代われるのは漂っている霊達だけなのじゃ」
「あ…そうなんですね。わかりました」
知らなかった。そうなるとミコト様に来てもらう必要はなかったな。まあ、せっかく来てくれたのだから料理を食べさせて満足してもらおう。
「フィルです。ハイトミアというクランのリーダーをしています。こちらはクルトさん。日頃から私のサポートをしてくれています。今回は獣人代表として参加させてもらいましたが、ハイトミアは獣人だけでなく不当に差別を受けている方を助ける為に日々動いています。まだ未熟な身ではありますがよろしくお願いします」
フィルが言った後にペコリと頭を下げた。
やっぱりフィルに任せて良かったと思う。
「見えないと思うけど、僕の右の席に妖精の女王がいて、左の席に精霊がいるよ。精霊の中に上下はないから、僕の知り合いの精霊に来てもらったよ。妖精の女王は人族に赤子を死なせるなって言ってる。精霊は今回は話を聞きに来ただけだって」
赤子には妖精さんが見えるんだったね。妖精側も小さい子供が好きなようだ。
「生まれたばかりの子供が死ななくていい国を目指します」
僕は妖精がいるらしい方に向かって言った。
食べ物が十分に行き渡るだけでも、赤子が生きて成長する確率は上がるはずだ。
他にも要因はあるはずだけど、わかるところから変えていくしかない。
「嘘だったら許さないから」
さっきまで見えなかったはずなのに、魔王の隣に妖精が見える。
「僕に出来る限りの努力はします」
「へぇ。ハイト君はもう妖精の女王に認められたようだね。彼女は心の奥深く、深層の気持ちを感じる事が出来るみたいだから、上っ面で自分をよく見せようとしても認めてはくれないんだよ」
魔王はそう言った。それが本当だとすれば、妖精の女王に認められたのいうのは光栄だと思う。
「そうなんですね。それは光栄です」
「そういえば僕の紹介をしていなかったよ。みんなが恐れる魔王だよ。一度はこの腐りきった地上を捨てたけど、ハイト君なら良くしてくれるかもと思ったから今回は参加してあげたよ。基本的には魔族領もエルフと同じく他種族からの干渉は受けないようにしている。エルフと違うのは、干渉されたくないのであって、こちらから干渉するつもりはあることだね」
魔王の中で地上は腐りきっているようだ。
否定出来ないところも多々あるのが残念だけど、そうではないところもたくさんある。
魔王の期待を裏切らないようにしたい。
「私はファルナといいます。昔は獣人の街を治めていました。今は訳あって、魔王様の配下をしております。今回は獣人としてではなく、魔王様の補佐として参加させてもらっています。獣人の事を忘れているのではありません。私よりも適任がいるので、私が獣人として参加する必要がないとの判断です」
ゲルダ様は獣人の姿のまま、ファルナとして参加している。
フィルがずっと獣人がいる事を気にしていたけど、それがファルナ様だと知って驚いている。
僕も会場に入った時、変装していない事に驚いた。
「我が帝国を治めている皇帝だ。我が国に対して思うところがある者もいるだろうが、それは国の為にやってきたことだ。恨むなとも、理解しろとも言うつもりはない」
よくわからないけど、王としてはこれが正しいのかもしれない。威厳を示さないといけないのかもしれないし、へりくだるわけにはいかないのかもしれない。でも明らかに皇帝に対してヘイトが集まっている。
特に魔王がイラついている。過去に何があって魔王が地上を捨てたかは知らないけど、僕には魔王を止めることなんて出来ないので、もう少し考えて話して欲しい。
「え、えっと……桜です。この場にいるのは場違いな気がしていますが、参加するからには責務を果たしたいと思っています。私も影宮君と同じく地球から召喚されてきました。地球では教育機関で教師をしておりました。まずは私の力が及ばず、生徒達がご迷惑をかけた事を謝罪させてください。申し訳ありませんでした。今後の身の振り方については、この場が終わってから、内容を聞いた上で考えたいと思っております」
桜先生が頭を下げた。
異世界に来て、もう先生という立場を捨てても誰も文句は言わないはずだ。それでも先生で居続けているのは本当に立派だと思う。
「そうだ。帝国は其方ら異世界人により被害を受けた。賠償について後ほ「黙れ!」」
僕は皇帝を黙らせる。
「助けるのは今回だけです。もう少し考えて話をしてください」
僕が止めなければ魔王が一線を越えそうだった。
「損害を受けたのは事実だ。なぜ我が黙らなければならない」
せっかく助けてあげたのに皇帝はわかっていないようだ。
魔王の機嫌がどんどん悪くなっているのがわからないのだろうか……。
いや、顔は笑っている。ある程度気配を感じ取れないと本当にわからないのだろう。
僕にはあの笑顔がとてつもなく怖い。
「ハイト君、どうして王国の領土しか奪わなかったのかい?」
僕が皇帝をどうしようか迷っていたら、クルトに聞かれる。
多分クルトも魔王の機嫌が悪くなっている事に気づいているはずだ。
「それはどう言う意味かな?」
僕はクルトに聞き返す。クルトの言っていることはわかるけど、僕は気づいていなかった程で対応する。
「誓約書の内容を僕も見させてもらったけど、書き方を変えるだけで帝国の領土も全て得られたよね?互いの領地を賭けの場に先に提示した上で勝者が頂くようにする。それだけで帝国の領土もハイト君のものになったはずだよ。あれだけ用意周到に準備して気づいていないとは思えないんだけど……」
クルトの言う通りだ。
誓約書の内容に関して、実は錬金術師さんに協力してもらって作ってある。僕だけでは不備が出る可能性が高いからだ。
錬金術師さんは元々王国に仕えていたこともあって、書類面も詳しかった。
その時にクルトが言った話はされていた。王国の領土を奪うだけでいいのかと。
「そうだね。それは知っていたよ。クルトの言う通りにすることは出来た。でも王国と違って帝国は改善される余地があると思ったからやらなかったんだよ」
僕はクルトに説明する。
「…………。」
皇帝は何も言わない。
「その甘さが今回の件を招いたんだよ」
魔王が僕に言った。
何を言っているのかわからなかったけど、少しして理由がわかった。
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