第120話 逃亡者、放逐する

偽装をしたまま皇帝と話していたら、国王が話を聞いて僕が今回の件の首謀者だと喚いてきた。


もう逃げる必要もないので偽装を解いて本来の姿に戻ることにする。


「国王様お久しぶりです。いや、もう領地はないのだから自称国王とでも言いましょうか?」

僕は皮肉たっぷりに国王に挨拶をする。


「……き、貴様何故生きている!?」


「そんなの死んでないからに決まってるじゃないですか」


「ふざけるな!!……いや、今はお前などどうでもいい。今こいつが全て自分で戦ったと自白した。これは不正だ」

国王は激怒した後、少し冷静になり不正だと喚く。


「そうですね。それがどうかしましたか?」


「不正をしていたんだ。それなら全てお前の負けだ。領地を渡さん。帝国が領地を渡せ!ぐうあああああ」

国王が頭を押さえて苦しみだす。

馬鹿だな。どうせ余裕をこいて誓約書の内容なんてちゃんと把握していないのだろう。


「10戦全ての勝敗が決した後に不正が発覚しても、結果は覆らない。これもちゃんと誓約書に書いてありますよ」


「と、取り消す。はぁはぁはぁ。クソ!領地は渡しても王の座は渡さないぞ」


「別にあなたから譲ってもらうつもりはありませんよ」


「そ、そうか」

僕の発言を勘違いしたのか、国王は安堵する。


「なんでゴミのような国王の座をもらわないといけないんですか。領地がこれだけあるんですから、僕はこれから新しく建国します。なので僕のことが気に入らない人は勝手に領地から出て行ってもらって結構です。ちなみにあなたを僕の領地に滞在させるつもりはありません。猶予として1週間与えます。それまでに出て行ってください。それ以降に領内で見つけたら侵入者として捕まえます」


「それだと宝物庫の物を持ち出す時間が足りない」

領地はもらったけど、宝物庫の中身は国王のものだ。持ち出しても構わない。


「無能だという理由で今処刑しないだけ優しい判断をしているんですけどね。それに宝物庫の中に今も何か入っているんですか?」


「どういう意味だ」


「いえ、虫の知らせというんですかね。宝物庫の中身が誰かに持ち出されている気がしただけです。賊でも侵入しているんですかね?僕に被害はなさそうなので放置してましたが……」

戦いの合間に篠塚君とは連絡を取り合っていた。

向こうも無事救出に成功したようだ。

古尾が監視役として隠れて残っていたようだけど、殺さずに制圧したらしい。


逃げる時に、思っていたよりも余裕があるとのことだったので、宝物庫の中身を全て盗んでもらった。食料などもだ。


忍者の職業で覚えるスキルは便利なものが多くて正直羨ましい。

篠塚君は収納のスキルは使えないけど、特殊な風呂敷をどこからか出すことが出来るらしい。

その風呂敷に物を乗せるとサイズが小さくなり、重量も軽くなるらしい。無限に入るわけではないけど、宝物庫の中身くらいなら持ち出すことが可能だと言っていた。

篠塚君は城から逃げ出す時にこのスキルがあればと嘆いていた。


「貴様何をした!ふざけるな、あれは私のものだ」


「僕に言われても知りませんよ。そんな気がすると言っただけです」


「お前が手引きしたんだろ!何惚けてやがる」

国王は喚き続ける。


「うるさい。お前はもう名ばかりの王なんだ。これ以上喚くな。領地もない王と今の僕、どっちが立場が上かわかるだろ?処刑しないだけありがたいと思え」


「ぐぬぬぬぬ」

頭では自分の立場を理解しているようだ。


圧政を敷いていた王が地に落ちればどうなるかは目に見えているが、今まで搾取し続けた分苦しめばいいと思う。


良き王だったのであれば誰かが助けてくれるだろう。


「それでは少し早いですが、僕の方で夕食を用意してありますので頂いて下さい。交流会の方も同時に進めさせてもらいますのでよろしくお願いします」


僕は皇帝と宰相以外の帝国側の人には弁当を配り、皇帝と宰相には会場へと移動してもらう。

皇帝はよくわからぬまま会場へと入る。


魔王様達には事前に話してあるので、各々向かってもらっている。


「王国の方々は解散して頂いて結構です。国王以外の貴族の方には後日城へと来ていただきますので準備しておいて下さい。もちろん、あの王についていっても構いませんが……。帝国の方は皇帝の指示に従ってください」

僕は交流会に参加しない人向けに声を発する。


帝国の人に僕が指示することはない。

王国の人には、僕のものになった領地から出ていかないのであれば、僕に従ってもらうしかないので、後日呼びつける旨だけ伝えておく。


「我はどうしたらいいのだ……」

国王が小さな声で聞いてくる。嘆いただけかもしれない


「さっきも言ったでしょう。僕の領地からは追放です。出て行く前にこれにサインして下さい」

僕は国王に誓約書を渡す

内容は他者に危害を加える行為を禁止するものだ。

直接的な攻撃だけでなく、窃盗などの略奪行為も禁止する。


「嫌なら隷属の首輪でもいいですよ。それか悪さが出来ないように腕を切り落としますか?」


「か、書けばいいんだろ!」

国王は誓約書にサインした。


「さっきまでは自分の言ったことで苦しんでいたので、撤回するだけで苦しみから逃れることが出来ましたけど、暴行でもしようものなら、相手が許すまでは苦しみからは逃れられませんので注意してくださいね」

暴行した相手が許すまでは苦しみ続ける。窃盗なら物を返すか相手が許すまでだ。

出来るとは思っていないが、更生してまともに生きるのであればなにも問題はない内容になっている。

これで国王を放逐しても悪いことは出来ない。


食べる物も満足に得られない、今の王国の村の人のような生活を体験して自身の行いを後悔してほしい。


僕は絶望する国王を放置して、ミアに声を掛けてから会場に入る。


ミアは交流会には参加しない。緊張するから嫌だと言ったからだ。

なので坂原さん達と一緒に待機していてもらっている。

坂原さん達に向かってもらったテントにはミアの他に委員長も中にいてもらっている。

坂原さん達への説明は委員長に丸投げした形になる。


会場…といっても土壁に囲まれた広いだけの部屋だけど、多分全員揃っていた。


土魔法で作った大きい丸テーブルを囲むように椅子を並べてある。椅子は良さそうなやつを買って並べておいた。


「誰がどこに座るとかはないので適当に座ってください。魔王様、妖精族と精霊族の方もいらっしゃるんですか?」

見えないのでいるのかどうかがわからない


「いるよ」

魔王が答える。いるらしい


「姿を現してくれることは出来ないですか?」


「……嫌だってさ。君が信用に値するとわかれば見せてもいいとも言っているよ。2人は僕が呼んだわけだから、何かあれば僕が通訳するよ」


「わかりました。お願いします。それでは妖精族の方と精霊族の方は魔王様の隣の席でお願いします」

そこだけ席を指定させてもらって、後は好きな所に座ってもらった。


僕は残った席に座る


「お忙しい中集まって頂きありがとうございます。この世界をより良くしたいという思いから皆さんに集まってもらいました。今後の事を話し合う大事な会議の場ではありますが、あまり堅苦しく捉えずに、親交の為の交流会くらいにお考え頂いて結構です。その為に料理を食べながらとさせてもらいました。色々と思うところはあるかもしれませんがどうか最後までお付き合いください」


「これはなんだ?」

皇帝が僕に聞く


「この世界は種族間で仲があまり良くないと思ったんです。皇帝のよく知るところであれば獣人族は今でも差別を受けています。そういったものを無くすきっかけの場だとお考え下さい。皇帝には伝えていませんでしたが、僕の伝手で各種族の代表の方に集まってもらいました。皇帝にも参加してもらった方がいいかと思い来てもらいましたが、必要ないのであれば強制はしません。代わりに僕が人族の代表として話をしておきます」


「……いや、参加させろ」

皇帝の参加が正式に決まった。

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