第119話 逃亡者、騙す

高村が渋りながらも出てくる。そして

「降ふぶぎゃ」

出てきてすぐに降伏しようとしたので、宣言する前に僕は高村に近づき蹴り飛ばす。


高村は勝ち目がないことを悟っており、どうせ負けるなら痛い思いをしないようにすぐに降伏するつもりのようだが、散々やっておいてそれは許さない。


「ま、待て!降ふぶくはぁ」


僕は言う前に再度高村を蹴飛ばす。


「散々やっておいて、すぐに降伏出来るなんて思うなよ」

ゴロゴロと転がっていく高村に近づき、僕は告げる。


高村は絶望の表情をする。


今までの相手とは違い、僕は高村の口に布を咥えさせて降伏出来ないようにする。


「ほうふふ。ほうふふふす」


「何を言っているのかわからんな」

これで高村が降伏することは無い。


そうはいってもやり過ぎるつもりはない。個人的な恨みはあるけど、殺すつもりはないし、死ぬギリギリまで痛みつけるつもりもない。

ただ、自分が恐怖で操っていた者には無理矢理戦わせて、自分だけ逃げるのは許せなかった。

僕は姫野さんが高村のせいで苦しんでいるのを見ている。

坂原さん達も逆らえずにこの戦いに参加させられている。


自分のやったこと対して、身をもって後悔させないといけない。


僕は高村を殴り、蹴飛ばし、剣を突き刺す。

たまに回復させて、この苦しみが永遠に続くものだと思わせる。

「国王はお前がこんなになっても、代わりに降伏してはくれないんだな。残念だ。いつになったら降伏してくれるかな……」


それからも、高村に苦しみを与え続ける。


このくらいでいいか。それにこれ以上は僕も精神上キツい。

最後に高村の両腕を斬り落とす。これはケジメだ。殺しはしないが、失くなった腕を見てこれから自分の行いを後悔し続けるいい。


僕は高村の口から布を外す。


「降伏させてやる」


「クソ野郎が!降伏―ぶぎゃ」

僕は高村を蹴飛ばす。


「せっかく降伏させてやろうとしたのに、まだ元気だったな」

僕はそう言って、高村の右足を斬り落とす。


「ぐああぁぁぁぁぁ!降伏。降伏する。もうやめてくれ」


「ふぅ」

僕にはまだやることが残っているけど、これで王国の領土は全て奪った。


「皇帝、勝ち鬨です」

僕は皇帝に締めてもらうことにする


「我らの勝利だ。皆よくやってくれた。これで王国に住んでいた者の暮らしもよくなるだろう」


これで終わりだ。ここからは僕のやりたいようにやらせてもらうとしよう。


「認めん!こんなもの認めぐううぅぅぅああああ」

国王が結果を反故しようとして頭を押さえて苦しみ出す。


「早く撤回しないと頭が割れて死ぬぞ」

僕は国王に告げる


「み、認める。はぁはぁはぁ」

ちゃんと効果は出ているようだ。さすがの腕だとしか言いようがない。


「どうなっている」

国王が頭を押さえながら呟く


「始まる前に今回の戦いに関して、最終確認として誓約書にサインしてもらいましたよね?あれは俺の知り合いに作ってもらった魔道具だ。隷属の首輪を参考に作ってもらってある。あそこまでヒドい性能はしていないがな。誓約書の内容を守らない場合は先程のようになります」


「騙したのか!」

国王が叫ぶ


「何も騙してはいませんよ。ちゃんと守ってもらえれば何の問題もない。取り決め通り領地を全て明け渡せばいいだけだ」


「その者の言う通りだ。早く領土を我に明け渡せ」

皇帝が言う。少し申し訳なるな。


「皇帝、何言ってるんですか?領地は全て僕のものですよ?」

僕は皇帝に真実を告げる。

僕が隠れてやることは終わったので、口調を変える必要はもうないだろう。


「何を言っている。これは帝国のものだ。渡すわけがなかろう。ぐうううあああああ」

皇帝が頭を押さえて苦しむ


「言ってませんでしたが、皇帝の誓約書もちゃんと魔道具ですよ。早く撤回しないと頭が割れますよ?」


「い、一旦取り消す。はぁはぁ。くっ!」

皇帝は僕を睨みつける


「何故だ?我は取り決めを反故にしてなどいない」

皇帝は納得のいっていない様子だ。


「騙すようなことをしたのは謝ります。しかし、帝国が良い国だとは僕は思っていません。王国が悪すぎたので今回は協力していただけです。悪い国とは言いませんが、手放しで王国に住む人を任せられるかと言われれば、答えはノーです。誓約書をもう一度ちゃんと読んでください。皇帝がなんと言おうと既に王国は僕の領土です。まあ、サインしたのは皇帝だけなので、反故にして苦しむのは皇帝だけですが……」

帝国は王国に比べるといい国だ。だけど信用出来ない理由がある。帝国がというよりもこの世界がかもしれないけど……。


まずはミハイル様の街であれだけ獣人が差別されているのに放置されていた件だ。

商業ギルドが幅を利かせていたとしても、国としてちゃんと対応していればあそこまでになるとは到底思えない。

ミハイル様は本気でどうにかしようとしていた。

でもミハイル様は行動に移せなかった。それは上が支援しなかったからだ。

商業ギルドは他の街にも支店がある、帝国とは別の組織だ。

帝国に属した貴族であるミハイル様は、自分の領地以外にも影響があることを勝手に行動に移すことは出来ない。


それからドラキンの件だ。

国のためとはいえ、権力者のご機嫌を取る為に、冤罪を是とする国が信用出来るはずがない。

あの時も相手が僕でなければ、ご機嫌を取る為に冤罪で処刑したんだろう。


なので僕は奪った領地を帝国の物としないことにした。


宰相とかが、皇帝の指示を無視して抗議してくるとかなら可能だが、そこに皇帝の意思が少しでも入れば皇帝は苦しむことになる。

すなわちこの領土を帝国のものとする為には皇帝を犠牲にするしかない。


まあ、なんと言おうと既に僕の領地だ。不当に奪おうと言うのであれば帝国は敵として対処させてもらう。


「何故だ。どこにも領地をお主の物とするとは書かれていない」

そんな直接的に書いてはいない。

誓約書には【勝者は敗者の属する国から分割された領地の1つを奪うことが出来る】と書いてある。

勝者とは何か……それは実際に戦った人間、つまり僕だ。

これが勝者の属する国は――――と書いてあれば帝国の領地となっただろう。

その為にわざわざ敗者の方には、“敗者の属する国”と書いたのだ。これがなければどちらの意味にもとれただろう。


皇帝は僕を利用する気満々だった。自分が利用されているとも知らずに……。

だから僕が裏で画策していても気づかないのだ。


僕が領地を得る為に、全て僕かミアが戦うことに最初から決めていた。ミアが戦っていれば僕に領地を譲渡してくれることになっていたので結果は変わらない。


ちなみに、途中で追加された王国側が降伏した場合に捕虜にする件についても、捕虜は勝者が得ることなっている。

なので捕虜をどうするかの権利も僕にある。


帝国が今回の戦で得られたものは実は何もない。

ただ、皇帝は王国の現状をどうにかしたいから協力するように言ってきたのだから、別に構わないだろう。領地を広げるのが目的ではないとも言っていたし。

今はそんな顔はしていないけど……


「領地を得るのは勝者です。勝者の属する国ではありません。敗者の方にはちゃんと敗者の属する国からと書いてあるでしょう?」


「ぐぬぬぬ。我を騙したのか?」


「僕は皇帝が王国の現状をどうにかしたいから、戦をすると聞きましたよ。ちゃんと皇帝の願いは叶いますから安心してください」

僕は悪びれることもなく告げる


「我を利用したのか?」

皇帝が怖い顔で言う


「皇帝は僕を利用しようとしていましたよね?逆に自分が利用されたからって怒らないで下さいよ」


「お前が今回の首謀者か!黙って聞いていれば全てお前が戦っていたようだな。これは不正だ!」

皇帝と話していたら国王が怒鳴ってきた。


もう隠れる必要はないので、僕は偽装を解いた。

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