第117話 逃亡者、逃がす
2戦目が始まる。
今度の相手はクラスメイトの竹原だ。
篠塚君から聞いている限りだと、竹原は自らの意思で王国に協力しているらしい。
開戦前に並んでいる時は余裕そうな顔をしていたが、今は真剣な顔をしている。
さっきの戦いをちゃんと見ていたのだろう。
竹原の職業は狩人だ。
スキルは弓を使うのに特化している。
獲物を見つける為のスキルもあるけど、目の前にいるのでそっちは意味はないだろう。
竹原は当然弓を武器としている。
始まってすぐにこちらに向かって矢を放ってくる。
1本だったはずの矢は途中で3本に増えて襲ってくる。
僕は一瞬避けようかと思ったが、持っていた槍で叩き落とすことにした。矢は実際には早いけど、見えないことはない。
1本は空振りしたけど、風圧で落とす。
避けなかったのは、竹原のスキルに[追尾]があったからだ。
避けても、僕の方に向かってくるだろう。
当たった所で痛くないけど、矢が刺さりもしないのは不自然かもしれないと思った。
竹原は僕と出来るだけ距離を取る為に闘技場の端にいる。
矢を落としながら近づくのは面倒だ。
僕は槍を構えて竹原に向かって投擲する。
槍は竹原に向かってビュンと飛んでいく。当てないように気をつけたはずだったのに、槍は竹原の数センチ横に突き刺さった。
危なかった。50センチくらい横を狙ったのに直撃する所だった。
僕は投擲した後、竹原に向かって走っていた。
狙い通りではなかったけど、自分のすぐ横に槍が刺さったことで竹原は足を震わせながら動きが止まっている。
僕は震える竹原の腹を殴る。加減はしていたので、腹に穴が開くことはない。
腹を押さえて横たわる竹原をロープで拘束する。
「さっきの見てただろ?降伏するか?」
僕は竹原に降伏勧告をする
「ひっ、やめて」
「降伏するかを聞いているんだ」
僕は槍を引き抜いて竹原の右肩に刺す
「ぐぎゃあ。痛い!痛い!」
「叫んでるだけだと何度でも味わうぞ。ほらもう片方だ」
今度は左肩に槍を刺す
「ぎぇえあ。降伏する。降伏するからもう許して」
僕は竹原に刺さっている槍を抜く。
これで2勝だ。
国王の顔が面白いほど歪んできている。このまま全てを終わらせる。
3戦目もクラスメイトが出てきた。
王国に協力していたと情報を得ている人だったので、2戦目同様に痛い目を見てもらいつつ降伏してもらった。
そして4戦目、ここでもクラスメイトが出てきたけど、今度は女子の坂原さんだ。篠塚君からの情報では坂原さんは無理矢理参加させられているとのことだ。
僕は坂原さんか、中本君か、長谷部君が出てくるのを待っていた。この3人は王国に逆らえずに無理矢理参加させられているからだ。
城に残っている人と違って、強くなって自衛する為にダンジョンに潜っていた結果、強くなりすぎて参加させられることになってしまったのだろう。
僕は坂原さんとの間に土魔法で壁を作り、隠密で姿を隠す。国王達王国側からも姿を見えないようにしてある。
僕を見失って戸惑う坂原さんに近づき、
「落ち着いて聞いてほしい」
坂原さんはビクッと体を震わせて、周りを見る。
「落ち着いて」
「い、嫌!死にたくない」
落ち着かせようとしたのに、逆にパニックになってしまった。
本当はバレないように話をした上で助けるつもりだったけど、こうなったら仕方ない。
僕は姿を隠したまま土魔法を使い、坂原さんに攻撃する。
攻撃といっても出来るだけ威力を抑えて石柱を当てて、坂原さんがいる場所を動かしただけだ。
それでも大分痛かったとは思うけど、助けるためなので許してほしい。
坂原さんからは目の前に急に石柱が現れたように見えただろう。
僕は土壁を作り坂原さんの逃げ道を限定させて所定の位置まで誘導する。
所定の位置まで坂原さんを誘導することが出来たので、僕は坂原さんの四方に土壁を作り逃げ道を塞いだ。
僕も囲まれた壁の中に入り、坂原さんの口を手で塞ぐ。
接触したことで、坂原さんに認識されて姿が見られるようになる。
「ゔんん」
『静かに。勝ちを譲ることは出来ないけど、助けてあげることは出来るからここから逃げて』
僕は坂原さんの前に、隠していた抜け道の穴を出現させてから、念話を送る。
抜け道ではあるけど、闘技場の外に出るだけの簡易なものだ。
この闘技場には全部で4つ抜け道を用意していて、穴の上を土魔法で蓋をしてから偽装で隠している。
坂原さんが落ち着いた所で塞いでいた手をどかす。
『しゃべらないように。まっすぐ進んだら外に出られるから。外に出たら1番近いテントに入って。そこにいる人が助けてくれるから』
坂原さんが何か言おうとするので、まずはしゃべらないように言ってから、どうしたらいいのか説明する。
困惑したまま坂原さんは軽くお辞儀をして抜け道へと入っていった。
僕は穴にまた土魔法で蓋をした後、偽装で隠す。
収納から、委員長達に返してもらった坂原さんに偽装した人形を取り出して寝転ばせる。
さらに死体に偽装する。
僕は囲んでいた土壁の上に飛び乗り、隠密を解く。
姿を隠したまま勝利して、後からイチャモンをつけられないようにしただけだ。
「今から蓋をする。直に空気がなくなるだろう。死にたくないならその前に降伏しろ」
僕は降伏勧告の演技をしながら、四方を囲んだ空間の上部に蓋をして偽装した人形を閉じ込める。
坂原さんが脱出しようとしているのを演出するために、中で適当に魔法を使い音を出す。
空気がなくなって窒息死するまではどのくらいだろうか……?僕は考えながら、少しずつ音を鳴らす頻度を少なくしていく。
そろそろかなと思い、完全に音を鳴らすのをやめる。
「降伏するか?」
僕は問いかける
当然だけど返事はない
さらにしばらくしてから蓋を外して、中から偽装で作った坂原さんを取り出す。
「皇帝、申し訳ありません。やりすぎてしまいました」
僕は皇帝に殺してしまったと報告する。
「………。」
皇帝は無言で頷いた。
僕は相手を殺したことで勝利したと、控室に戻ろうとする。
「ちょっと待て。本当に死んでるのか?」
高村が待ったを掛けた。
「疑うのか?」
僕は機嫌を損ねた感じで聞き返す。内心はチャンスだと思った。
「ああ、当然だ。今まで散々殺さないようにしておいてこんなにあっさり殺すとは考えられない」
僕は皇帝に念話を飛ばして、そのまま言わせる。
「我の配下を疑うというのか?」
「ああ、当然だ。確認させろ」
「無礼だな。確認したければすればいい。これで生きているならばそちらの勝ちでいい。不正に勝ちを得ようとしたのだからな。但し本当に死んでいた場合はどう落とし前をつけるつもりだ?」
「謝罪でもなんでもしてやる」
「お主には聞いていない。それとも王はお主に代わったのか?」
高村が屈辱そうな顔をする。
「なにが望みだ?」
国王が聞く
「そちらで降伏した者は、勝者の捕虜とさせてもらう。今までに降伏した者もだ。当然、帝国側が降伏しても捕虜にはさせない。こちらは領土を賭けるのだ。この条件が飲めないなら黙れ。今なら、先程そちらの配下が働いた無礼は許してやる」
僕は皇帝に賭けさせるものを伝え、皇帝に代わりに言ってもらう。
賭けの対象としては、王国側が有利だ。
勝てば領地が手に入る。しかも負けが勝ちに変わるのだから2勝分の価値があるようなものだ。
一方で負けた所で失うものは配下であり、国王の中では処刑するつもりの人間だけ。
王国が賭けに勝つ為には僕の偽装を見破ることが必須である。
出会った中で僕の偽装が見破れる恐れがあるのは神を除けば魔王だけだ。
レベル1の状態でも全くバレる様子がなかった。
相当ステータスに開きがないとバレないと思う。
「間違い無いんだな」
国王が高村を睨みながら確認する
「絶対なんてものはない。それに、その問いに答えて俺にメリットがあるのか?リスクだけ負うのは御免だ」
「責任のなすりつけ合いとは見苦しい。国王ともあろう者が自分で決めることも出来ぬとは情けない」
皇帝が国王を煽る。
「くっ!高村、何か根拠はあるんだろうな?」
「もちろんだ」
まんまと乗ってきた。これで後からの事を考える必要が無くなったな。
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