第116話 逃亡者、降伏を促す
1戦目に誰が出てくるかと思ったけど、相手は知らないおじさんだった。
鑑定した所、騎士団長のようだ。
多分クラスメイトを除くと1番の手練れなのだと思う。
僕は帝国の兵士に偽装しており、表向きは騎士団長と一般の兵士との戦いになる。
兵士が勝つのは相当な番狂わせではあるだろうけど、負けてもらうとしようかな。
クラスメイトでも騎士団長でもやることは変わらない。
降伏するまで痛めつけるしかない。
公平を期す為に審判はいないので、時間になったところで勝手に戦いは始まる。
相手の息がかかっているかもしれない審判などどちらも信用出来ないだろう。
僕は同一人物が戦っているとバレるわけにはいかないので、毎回戦い方を変える必要がある。
僕は腰に挿してあった剣を抜く。村正ではない。普通の鉄の剣だ。
腰には剣の他に杖とロープを付けている。
降伏させる為にも、明らかに格上だと思わせる必要がある。勝機が少しでもあると思えば降伏はしないだろう。
僕は騎士団長に向かい走っていく。全力ではない、加減している。
騎士団長は余裕の笑みをしたまま剣を構えているが、狙いは別の可能性が高い。
鑑定した際に土魔法が使えることを知ったからだ。
思った通り、目の前の地面が動き出す。
このままだと目の前に杭とか壁が出来るのだろう。
僕は土魔法で地面を固めて相手の魔法を封じる。
杖を使っていないので、生活魔法の土魔法(微)だけどステータスでゴリ押しする。
騎士団長くらいのステータスであればこれでも十分だった。魔法が発動しないことに動揺している騎士団長の首に剣を突きつけて降伏勧告をする。
「降伏しろ!無駄な殺しをするつもりはない」
口調を変える必要があるのが面倒だ。
「殺せ!どうせ降伏したところで末路は同じだ。殺された方が苦しまなくて良い」
やはり王国はクズのようだ。降伏したら処刑するとでも言っているのだろう。
「俺はあんたを殺しはしない。降伏しないなら、死ぬよりも辛い思いをするぞ?いいんだな?」
「好きにしろ」
騎士団長はそう言いながら、首に剣を突きつけられたまま斬りかかってくる。
「はぁ」
僕はため息を漏らしつつ、突きつけていた剣を相手に刺さないように引っ込めて、相手の剣を避ける。
「ふざけているのか!」
騎士団長が激昂する。
「俺は、皇帝から自分の命が危ない時以外は殺さずに無力化するように言われている。俺がお前に殺されることはない。だから殺さない」
僕は殺さない宣言をして、騎士団長の右肩に剣を突き刺す。
「くっ!」
「降伏しろ!力量差がわからないわけはないだろ?」
「殺せ!降伏したところで拷問されてから死ぬだけだ。情けをかけるなら殺してくれ」
王国はどこまでクズなのだろうか……。騎士団長は頼むが僕は殺す選択はしない。
「皇帝の命は絶対だ。殺しはしない」
僕は都合の良いように皇帝の名を使う。
騎士団長を転ばせて、足と手をロープで縛る。
「何をするつもりだ?」
「降伏するまで痛い思いをしてもらうだけだ」
僕は騎士団長の左肩にも剣を突き刺す
「これくらい、降伏した後に待っている拷問に比べれば軽いものだ」
どれほどの拷問が待っているのだろうか……。
騎士団長は本当に殺して欲しいように見える。
この状態でも国王は降伏はしないので、これからも国王が降伏することは期待できないのだろう。
僕は右足に剣を突き刺す
「くっ!こうやって続けていれば、いつかは血が流れすぎて死ねるな」
僕は騎士団長の願いを拒否する
僕は剣を腰に戻して、代わりに杖を持つ。
そして騎士団長の怪我を治す。
「この杖は誰でも治癒魔法が使えるようになるものです。一生死ねない。痛い思いをし続けるだけだ。王国の拷問がどんなか知らんが、終わりがくる分そっちの方が楽かもな……」
僕は右手に剣を持ち、左手に杖を持つ。
剣で突き刺し、杖で回復する事を繰り返す。
騎士団長には悪いけど、あの王国で騎士団長という地位にいたんだ。今までは甘い思いをしてきたに違いない。
僕はそう思うことにして、降伏するまで繰り返し続ける。
ここで見せしめにすることで、次からの相手も降伏しやすくなるだろう。
王国の拷問よりも、帝国の兵士に痛ぶられる方が怖いと思わせることが出来るかどうかがポイントだと思う。
後は耐えた所で殺されもせずに、永遠に苦しみが続くと分かれば流石に降伏するだろう。耐えた分だけ苦しみが増えるのだから。
出来れば怪しまれてミアに任せる前には、拘束されたら降伏しないとマズイと、これから出てくる相手に思わせたい。
ミアに甘えてしまったが、ミアにこんなことはさせたくない。
騎士団長は相変わらず耐え続けている。
僕の精神上も良くないので早く降伏して欲しいのだけれど、なんで降伏しないのだろう?
「早く降伏しろよ。時間稼ぎか?」
「わざわざ聞いてくるって事はそろそろか?」
ん?何を言っているんだろう……
「なにがだ?」
「こんなに治癒魔法を連発して魔力が持つはずがない。魔力が無くなった時、俺は死ぬことが出来る」
騎士団長は勘違いしているようだ。そんな時は永遠に来ない。
「この杖は魔力を消費しない。だからそんな時は一生来ない」
「う、嘘だ。そんな物があるわけがない」
騎士団長の言う通り僕は嘘を言った。ちゃんと魔力は消費している。
ただ、消費する魔力よりも自然に回復する魔力の方が多いので実際には減っていない。
「そう思いたいなら、勝手に思っていればいい」
それから30分くらい経った頃、ついに騎士団長が折れた。
良くこれだけ持ったと思う。
「ほ、本当に魔力を消費しないのか……」
「やっと理解したか。まだ続けるか?」
「こ、降伏する」
まずは1勝だ。僕は控室に戻り、次の兵士に偽装する。
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