第103話 逃亡者、本音を聞き出す

フィルに獣人代表として会議に参加してほしいと言ったところ、驚かれた。

予想通りではある。


「何で私なんですか?」

フィルに聞かれる


「僕がフィルが適任だと思ったからだよ。それにフィル達以外に獣人の知り合いがいて、その人に獣人の代表は誰か聞いたんだ。そしたらファルナって方がいないから、現状だとハイトミアのリーダーと答える獣人が多いだろうって聞いてね」


「私、そんなに偉くなんてないです。このクランだってハイトさんが用意してくれただけで、私の力じゃないです」


「僕は準備をしただけで、その後の実績はフィルによるものだよ。その獣人の人はハイトミアが出来てから獣人の生活が良くなってきてるって言ってた。これはフィルが頑張ったからだよ」


「だけど、それもハイトさんがいたからです。たまたま私がハイトさんに助けてもらったからこのクランのリーダーをやってるだけですし……」

フィルは自己評価がすごく低い。もっと自分に自信を持ってもいいのに…。


でも気持ちはよくわかる。僕もそうだからだ。

いつの間にか強くなっていたけど、実際にこれが僕の力かと言われると即答は出来ない。


城から逃げる事が出来たのは、女神様からもらった偽装のスキルのおかげだし、鑑定のスキルが無ければ毒を飲んでいたし、状態異常耐性がなければそこで死んでいたかもしれない。


委員長達がいなければ前を向く事は出来なかったし、ミアがいなければ……僕の心は壊れていたと思う。


やっぱり僕は弱い人間だと思う。誰かに支えてもらわないとちゃんと生きてはいけない。


だからこそ、フィルにもちゃんと伝えたいと思う。


「フィルに会ったのはたまたまかもしれないけど、このクランのリーダーにしたのはフィルだからだよ。フィルなら今よりも良い環境にしてくれると思ったから。フィルは困っている人がいたら手を差し伸べることが出来るよね。例えそれが獣人じゃなくて、人間だったとしても。人間にずっと蔑まれてきたのに、それが出来るのはすごいと僕は思うよ。そんなフィルだから任せることが出来るんだよ。クルト達もそう思ってるはずだよ。目的が同じだったとしても、普通は年下の女の子の下に付こうなんて思わない。クルトは最初僕にクランに入れてくれと聞いてきたでしょ?それで僕はクランのリーダーはフィルだと伝えた。普通ならそこで離れていくし、一度は入ったとしても抜けていくと思うよ。そうならないのは、フィル自身に魅力があるからだよ。僕はきっかけを作っただけで、実際にこのクランを動かしているのはフィルなんだから自信を持ってよね」

本心をフィルにぶつける


「そう言ってもらえるのはうれしいです。でもやっぱり、このクランに人が集まるのはハイトさんがつくったクランだからだと思うんです。クルトさん達もハイトさんがクランを作るって言ったから入ったんです」

僕の言葉ではフィルの心には届かなかったようだ。

もしかしたら届いてはいるのかもしれないけど、考えを変えるまでには至っていない。


「それは違うよ。証明するから付いてきて」

僕はそう言って、困惑するフィルを連れてクルトの部屋に行く


「クルト、大事な話があるんだけど」


「ハイトにミアちゃんも一緒だね。とりあえず中に入ってよ」

僕とミアに偽装したフィルはクルトの部屋に入る。


「それで大事な話って何かな?」

クルトに聞かれる。


「このクラン、ハイトミアなんだけどフィルには荷が重いと思ってね。今後はクランリーダーは僕がやることにしたから、その報告に来たよ」

クルトには悪いけど、本音を聞くために嘘をつかせてもらう。


「ハイト、本気で言っているのか?理由によってはハイトに代わるというのは構わない。ハイトもフィルちゃんも目指す所は変わらないと思うからね。でも代わる理由が、フィルちゃんには荷が重いというのは聞き捨てならないな」

クルトはかなりお怒りだ。賛成するとは思ってなかったけど、ここまで怒るとは思ってなかった。

クルトがフィルの為に怒ってくれて嬉しく思う。


「うん、本気だよ」


「それでフィルちゃんにはもう言ったのか?」


「言ったよ。フィルはこのクランを抜けるって」


「え……」

クルトは状況が飲み込めていないようだ。


「フィルと話したんだけど、僕とフィルでは目指すところが違ったみたいなんだ。フィルは自分でクランを立ち上げるって言ってたよ」


「そっか……。それなら僕もこのクランは抜けさせてもらう。ハイトがどこに向かおうとしているのか知らないけど、僕はフィルちゃんに付いていくよ。何があったか知らないけど見損なったよ。明日には荷物をまとめるから、もう出ていってくれ」

クルトの怒りはマックスになっている。

嬉しく思いつつもやばいなぁと思う。やり過ぎたと後悔している。


フィルを見ると泣いていた。見た目はミアなのでクルトからしたら意味がわからないだろう。


「……だってさ」

僕は空気に耐えられなくなって、フィルの偽装を解除した


「…………ハイト、どういうことかな?」

クルトには、さっきと違って怒りとは違う怖さがある


「いやぁ、クルトの本音が聞きたくてね。感動したよ、ありがとう。さあフィル、クルトも言ってるから部屋を出て話の続きをしようか」

僕はフィルを連れて部屋を出ようとする


「発言を撤回するよ。もう少しゆっくりしていっていいから、ちゃんと説明してね」

出してはもらえないようだ。


「冗談だよ。ちゃんと説明するからそんなに怒らないで」


「止めなかったら、そのまま出ていったでしょ?」

確かに出ていったかもしれない。


「そんなことないよ」


「はぁ。それでこの茶番は何なの?」


「フィルが自分に自信が無いみたいでね。クルト達は僕が作ったからクランに入ったって言うんだよ。僕がクルト達はフィルの魅力にメロメロだって言っても信じてくれないんだ。だからクルトの本音を聞こうと思ったんだよ」


「そうだとしても、もう少しやり方があったと思うよ。それにその言い方には語弊があるよ」


「ごめんね。でもおかげでフィルにはちゃんと伝わったみたいだよ。ありがとう」


「これっきりにしてよ。それでなんでそんな話になったの?」


「ああ、それはまた後で話をしに来るよ。まずはフィルに確認してからだからね」


「よくわからないけど、待ってるよ」


「後でまた来るよ。他にも話はあるしね」

クルトにはフィルを働かせすぎている事を問い詰めないといけないからね。

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