第104話 逃亡者、説得する
僕達はフィルの部屋に戻ってきた。
「クルトには悪い事をしたけど、クルトの本音が聞けてよかったね」
「クルトさんの気持ちが知れたのは良かったですけど……すごい罪悪感があります」
フィルは複雑そうな顔をしている。クルトを騙して申し訳ないって気持ちと、クルトが言ったことへの嬉しさが絡まり合っているのだろう。
「あれは僕がやった事だから、フィルは気にしなくて良いよ。後でクルトにはちゃんと説明して謝っておくから」
「うん…」
「話が逸れてたけど、そう言う事だから、僕はフィルに獣人代表として会議に参加して欲しいんだよ。参加するメンバーの大体は僕の知ってる人だし、堅苦しいものじゃなくて、種族間の交流の場くらいに考えて欲しいんだけど……ダメかな?もちろんフィル1人で行かせたりはしないよ。確認してにはなるけど、クルトにサポートをお願いするつもりだし、もちろん僕も会議には参加するよ」
「ハイトさんは私に参加して欲しいってことですよね?私だと力不足じゃないですか?」
「力不足なんてことはないよ。フィルが1番適任だと僕は思ってるよ。それに獣人の知り合いからも今の獣人の代表はハイトミアのリーダーだって聞いてるから自信をもって参加して欲しいな。でも無理強いするつもりはないから、嫌ならそう言って欲しい。残念だけど、他の人に頼むから」
「……ちなみに私が断ったら誰にお願いするんですか?」
「ファルナ様だよ」
「えっ、あのファルナ様ですか?」
フィルはファルナ様の事を知っているようだ
「ファルナ様のこと知ってるんだね」
「もちろんです。会ったことはありませんけど、名前くらいは獣人ならみんな知ってます。行方がわからないって聞いてますけど、ハイトさんはどこにいるのか知ってるんですか?」
「知ってるよ。本人が行方を隠してるみたいだから、勝手に教えるわけにはいかないけどね」
「そうですか。それなら私よりファルナ様に代表になってもらった方がいいと思います」
「フィルが嫌ならそうするけど、僕はフィルに獣人代表として参加して欲しいんだよ。僕はファルナ様に頼むことが出来るけど、フィルに頼んでいるんだよ。だから断るにしても、ファルナ様の方が適任だからなんて理由はやめてほしいな。どうしてもっていうなら、ファルナ様にも獣人側で参加してもらうけど、クルト同様、フィルのサポート役として頼みたいな」
聞かれたから答えたけど、フィルの気持ちを聞く前にファルナ様の名前を出したのは失敗だったかもしれない。
僕が思っているよりもファルナ様は獣人にとって大きな存在のようだ。
「ハイトさんがそこまで言ってくれるなら、私がんばります!ファルナ様についてはハイトさんにお任せします。私はクルトさんが付いてきてくれれば大丈夫です。安心して話をすることが出来ます」
フィルとクルトはお互いに信頼出来てるようだね。
「よかったよ、ありがとう。それじゃあフィルにはクルトと一緒に参加してもらうね。クルトの説得は任せといてね。多分説得しなくても良い返事をくれると思うけど。また正確な日程とかが決まったら教えるからよろしくね」
いい決断をしてくれてよかった。
嫌々というわけでもなさそうだし、これなら大丈夫そうだ。
「わかりました」
「それじゃあ、僕はクルトに話をしてくるよ」
僕はフィルの部屋を出て、クルトの部屋に向かおうとする
「待ってください。クルトさんには私から頼みます。さっきの事もちゃんと謝りたいです」
「フィルから説明するのは構わないよ。でもさっきも言ったけど、フィルは何も悪いことはしてないからね。僕が説明もせずに連れていっただけだから」
「そうかもしれませんけど、ハイトさんにやらせてしまったのは私ですので……」
「まあ、フィルが謝りたいなら謝ればいいよ。その話とは別にクルトには用があるから、話が終わったら教えてね」
クルトもその辺りは予想がついているだろうし、フィルに怒ることはないだろう。フィルにはね……。
「わかりました」
フィルはクルトの部屋に向かい、僕は自分の部屋へと戻る。
しばらくしてフィルが訪ねてきた。クルトとの話が終わったようだ。
「お待たせしました。クルトさんは一緒に来てくれるそうです」
「うん、よかったよ。やっぱりクルトは了承してくれたね」
「はい。ハイトさん、今日はありがとうございました。おやすみなさい」
フィルはそれだけ言って戻っていった。
やり方はよくなかったかもしれないけど、フィルがさらに一歩前に進めたようでよかった。
さて、僕はクルトに怒られに行こうかな
僕はクルトの部屋に行く
「クルト、さっきはごめんね。フィルの為とはいえやり過ぎたよ」
「はぁ、もういいよ。それで他に話があるんでしょ?」
あれ?怒ってない?
「怒ってないの?色々と言われる覚悟はしてきたよ?」
「フィルちゃんから経緯は聞いたからね。あのやり方はないと思うけど、怒る気は失せたよ」
クルトはやれやれといったご様子だ。
「僕も怒られたいわけではないから、それならそれで助かるけど、もう一度ちゃんと謝らせてね。もう少しやり方は考えるべきだったよ。ごめんなさい」
「もういいよ。それで話って?」
「ああ、うん。さっきフィルがダンジョンに行くのを禁止したんだよ」
「よくわからないんだけど、今度は本当の話かな?本当なんだとしたら、なんでそんなことするの?」
仕方ないけど、疑われている
「今度は本当だよ。フィルが働きすぎてると思うんだけど、どうなってるの?」
「フィルちゃんは3日働いたら1日くらいのペースで休んでるよ。そこまで働きすぎてるかな?」
「休みの日でも働いてるよね?屋敷にいる時は書斎か応接室にいるって言ってたよ」
「そうだね」
クルトは何言ってるの?って感じでこっちを見る
「え、休んでないよね?」
「ダンジョンには行ってないし、休んでるでしょ?」
「書斎でやってる書類関係も、応接室でやってる来客の対応も仕事だよね?」
「仕事ではあるけど、休みの合間にやってることでしょ?ハイトは何をそんなに気にしてるの?」
「クルトは休みの日は何してるの?」
「ダンジョンで使うものの買い出しだったり、ギルドに行って情報を集めたりかな」
これはダメだ。クルトも休んでない。だから気づかないのか。
そもそもそれがこの世界の常識なのかな?
「それは休んでるの?」
「休みだよ。休みの日に準備しておかないと、ダンジョンに潜る時に困るでしょ?」
「それって他の冒険者も同じことしてるの?」
「してないのは新人くらいじゃないかな。その結果ダンジョンで困るのも勉強だよ」
「仕事の事を忘れるような休みはないの?」
「怪我した時とかはそうなるね」
これは本格的にテコ入れが必要なようだ。
僕はクルトに休みとは何かを説明した。そして……
「お金のことは気にせずに僕のお金を使っていいから、人を増やすなりしてみんなの仕事量を減らすように。そして休みの日は仕事をすることを禁止します。どうしても仕事をしないといけないなら、元々仕事だった日に休むように。これは決定だからね。この事はクルトを責任者にするから、ちゃんとみんなに説明して、クルト自身が見本になるように休む事。わかった?」
「いや、急にそんなこと言われてもね。ハイトには働き過ぎているように見えるかもしれないけど、これが普通なんだよ」
わかってもらえなかった。なのでさらにこんこんと休みとは何か、なんで休まないといけないのか言い聞かせることにした。
「わかった?」
「ああ、もうわかったよ。試しにだからね。試しにやってみて、それでまわらなくなったらやめるからね」
クルトはわかったというより、僕の圧に負けたようだ。
でも試しにでも定期的に休むようになれば、休みの大切さがわかるだろう。
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