第102話 逃亡者、働き方を見直す
フィルの屋敷に戻ってきた僕は夕食後にフィルと話をする為に、フィルの部屋を訪ねる。
フィルはまだ子供なので、実際に種族の代表として参加してもらう場合には、クルト辺りに付き添って欲しいけど、先にフィルの気持ちを確認しておいた方がいいと思い、フィルとまずは2人で話をする為だ。
コンコン!
「はい。あ、ハイトさん。どうしましたか?」
「ちょっとフィルに話しがあってね」
「なんですか?」
「長くなりそうだから入ってもいいかな?部屋じゃなくて、客間とかでもいいけど」
「あ、はい。どうぞ入ってください」
僕は部屋に通される
部屋に入って思う。
フィルの部屋には生活感がほとんどない。
ベッドとタンスの他には小さい机があるだけだ。
「欲しいものとか我慢してない?」
僕はフィルに尋ねる
「え、どうしてですか?」
「いや、部屋の中に物が少なすぎるなって思ってね」
「我慢はしてないですよ。部屋では寝るくらいしかしないので、物が少ないだけです」
「寝る時以外はどこにいるの?」
「書斎にいることが多いです。後は応接室ですね」
「……働きすぎてるでしょ?無理したらダメだよ」
この物の無さは、休みの日も部屋にいないと思われる。
書斎や応接室で遊んでるってことはないと思うので、屋敷にいる時も仕事をしているってことだ。
「そんなことないですよ。ハイトさんに会ってから休んでることが多くなりましたよ」
フィルはなんでもないことのように言った。
僕と会う前というと、フェンが寝込んでいて、粗暴な冒険者の荷物持ちをしていた頃だ。
その頃と比べたらいけない。あの頃はそこまで働かないと生きることが出来なかったから仕方なかっただけだ。
本題の前に、この問題を先にどうにかした方が良さそうだ。
「前に休んだのはいつ?」
「3日前ですよ。それがどうかしましたか?」
「その日はどこにいたの?」
「えーと、書斎と応接室にいましたよ」
やっぱり休みの日も仕事をしているようだ
「フィル、それは休みになってないよ。休む時は仕事のことを忘れないと」
「休んでますよ。ダンジョンにも行ってませんよ?」
これは重症だ。仕事をしている自覚がない。
クルトはその辺りを気にしてくれてはいないのか?
「何してたの?」
「えっと……他の街とか村から訪ねてくる方が増えてますので、その対応が多いです。あとはこのクランにきた依頼を受けるかどうかの判断をしてました」
「それは休みじゃないからね」
「休みですよ?」
フィルは本当に休んでいるつもりのようだ
「あまり口出しするつもりはなかったけど、フィルがダンジョンに行くのは、当分の間禁止します」
「え!なんでですか!?」
「働きすぎているからだよ。屋敷でやっている仕事はフィルがやらないといけないことかもしれないけど、ダンジョンでの仕事はフィルがやらないといけないってことはないでしょ?今は暴れる人もほとんどいないって聞いてるし…」
「屋敷で仕事なんてほとんどしてませんよ」
フィルは不思議そうに言う
「自覚がないみたいだけど、クランを訪ねてきた人の対応も、書類関係も仕事だからね。少なくてもそれがわかるまでは禁止ね」
そもそもクランのリーダーなんだから、外部との対応とか指示を出すことの方が大事な仕事だ。
「わかりました。でもそれだと、暴れる人の対処は誰がするんですか?」
「今は暴れる人もほとんどいないでしょ?」
「いませんけど、万が一の時には私が皆さんの安全を守らないと!」
フィルの良いところではあるけど、少し真面目すぎる。
「フェンがいるでしょ?」
「フェンが毎日いるわけではないですよ?」
「それならフェンがいない時は、エクリプスの人から人を出してもらうようにクルトに言っておくよ」
「わかりました……」
フィルはなんだか残念そうだ。
仕事にやりがいを感じているのだろうけど、ここは心を鬼にしないといつか体を壊してしまう。
後でクルトにはちゃんと話をしておこう。
なんで対処してくれなかったかも聞かないといけない。
「その話をしに来たんですか?」
フィルに言われる
「違うよ。放っておけなかったから話しただけで、別に話があるよ」
「なんですか?」
「フィルには王国との戦の話ってしたっけ?」
「聞いてないです。もうすぐ戦争になるっていうのは知ってますが……」
僕はフィルに戦のことを説明する。
「それは大丈夫なんですか?」
「少なくても表向きは大丈夫だよ。その後に王国がすんなりと領地を渡すとは思えないけど、今回の目的は王国に住んでいるまともな人達を戦に巻き込まないことだからね」
「そうじゃなくて、ハイトさんとミアちゃんだけで戦うんですよね?それって規定違反なんじゃないですか?」
クルトにも言われたね
「バレなければいいんだよ。エクリプスやワルキューレの人達に参加してもらってもいいんだけど、みんなには帝国領の守りをお願いしたいからね」
「いいのかなぁ?私が口を出す事じゃないと思うけど……」
「フィルは真面目すぎるんだよ。それにこれは王国の為でもあるんだよ。他の人に任せたら殺しちゃうでしょ?殺さないのは僕個人の理由でもあるし、そこまでお願い出来ないしね」
「そっか。それならいいのかな」
フィルは自分の中で納得したということにしたようだ。
「それでちょうどいい機会だから、いろんな種族の重鎮に集まってもらって話し合う場にもしたいと思ってるんだ。これは僕が勝手に動いている事だけどね」
「そうなんですね」
「うん、それで獣人の代表としてフィルに参加して欲しいんだ」
「え……」
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