第91話 逃亡者、エルフの女王に会う

「女王様、驚かずに聞いてください」

長老が伏せた女性に話しかける


やっぱりこの人が女王様だよね


「カムハルか…なんだ?今は話す元気はないぞ」

かなり消沈しているようだ。顔をまくらに埋めたまま答える


「エミルフル様が生きていました」


「……何を言っているんですか?死んだものは生き返らないのですよ」

女王様は諦めて見ようとしない


「女王様、本当にエミルフル様が生きていたのです。ここにいますので見てください」


僕はこのやりとりの間ずっとエミルを起こそうとしてるけど、全然起きない。

赤ん坊だし、叩いて起こすのはどうかと思って揺すったりしてるんだけど、逆に眠りが深くなっている気がする


僕がエミルを揺らしていると、女王様がゆっくりとこっちを見た。


「……エミル!」

ガバッと布団を捲って、女王様が近づいてきた


本当は挨拶を先にしたほうがいいのかもしれないけど、僕はまずエミルを渡す


「エミル!間違いなくエミルフルだわ」

女王様はエミルを見つめて、ギュッと抱きしめた


「……ん、んー。くりゅしい」

エミルが起きる


「あ、ああ。ごめんね、エミル」


「ママ、会いたかった。…うぅ」

僕は親子をしばらく見守る


「……あなた達は誰かしら?人族よね?」

落ち着いた女王様に聞かれる。

今まで、僕とミアの姿は目に入っていなかったようだ。


やっと挨拶が出来る


「はじめまして。冒険者のハイトです。こっちはミア。盗賊に拐われていたエルフの子供が保護されましたので、送り届けに来ました」

僕は挨拶して、ここにいる理由を話す


「エメラムル・ルリァ・ルージュベリュです。エミルを連れてきて頂きありがとうございます。盗賊の件を詳しく教えて頂けますか?」


一度で聞き取れる訳がないので、僕は鑑定を使う

里に同族以外が入るのを嫌がるって聞いてたけど、そんな感じはしないな。


「どうやって誘拐したのかはわかりませんが、帝国領にて盗賊を討伐した所、エルフの子供がいたので保護したと聞いています。盗賊は王国に売り飛ばしに行く途中だったそうです。……こちら帝国の皇帝から預かった書状です」

僕は聞いた話を伝えて、皇帝の手紙を渡す


「読ませてもらいます」

女王様は手紙を読む


「やはり、人族の我々エルフに対する認識はこうなのね。あなたは書状の内容は知っていますか?」


「誘拐に関して帝国には非がないって事が書かれていると聞いてますが、詳しくは知りません」


「簡単に言うとそうね。女王として帝国に攻め入るように指示することはないから安心していいわ。私としては死んだと思っていたエミルが帰ってくることになったのだから感謝しかないわ」

想像していたイメージとかなり違う。


「それは良かったです。失礼かもしれませんが、だいぶ聞いていた話とエルフの印象が違うんですけど、本来はこうなんですか?」


「どのように聞かされていましたか?」


「ナワバリ意識が強くて、同族以外が里に入るのを嫌うと聞いてます。後は……今回の件で人間全てに戦争を仕掛けるかもしれないみたいな事ですね」

隠してもいい事はなさそうなので正直に話す


「そうですか…」


「でも、実際はそうではないみたいですね」


「いえ、その認識で合っています」


「え?」

女王様の言葉に僕は驚く


「エルフの大半はそうです。先代の女王の影響でしょうか……。私は人族や獣人族、魔族など他の種族の者とも交流をしていくべきだと思っておりますが、なかなか受け入れられないようです」

女王様がエルフの中では変わり者のようだ


「そうですか。それだと今回の誘拐の件は大丈夫なんですか?」


「私が言うべき事ではないですが、エルフは女王が絶対なのです。私が人族を許すといえば、許されます」

エルフは独裁主義なのか


「……そうなんですか。安心しました」


「ひとつお尋ねしたいのですが、誘拐した盗賊は人族でしたか?」


「ええ。…………あ、そうですね。盗賊は人間です」

人間だと思っていたけど、そういえば聞いてなかったのでミハイル様に念話で聞いたら、やっぱり人間だった


「人間がどうやってエミルを誘拐したのかしら?まだ1人では結界の外になんて行けないし……。そういえばあなた達はどうやって結界の中に入ったの?」


「僕達はスキルを使って結界の中に入りました。すいませんが、スキルについては話せません」

女王様は長老を見る


「私の鑑定では、この者達のスキルはみれませんでした」


「それはどういうことですか?」


「鑑定が妨害されるほど、ステータスがかけ離れているようです。もしくは鑑定を妨害するスキルを保持しているかです」


「そうですか、わかりました。詳しくは聞きませんが、そのスキルで入れるのはあなた達だけですか?」

僕のスキルを探るのは諦めるようだ。


「僕が入れようと思えば誰でも入れますね。もちろん今は入れません」


「そうですか……」


「今回僕達が入る為にスキルを使っただけで、他の人を中に入れるつもりはありませんので安心してください」


「ありがとうございます。お願いします」


「それで、なんでエミルフル様が死んだことになってるんですか?結界があるのに人間の盗賊に誘拐された事も不思議ではありますが、死んだことになっているほうが僕には不思議です」


「私が長老たちと会議をしている時に、エミルが死んだと連絡が来ました。エミルの事は使用人に任せていたのですが、目を離した隙に階段から落ちてしまったと……」

赤ん坊が階段から転げ落ちたと考えれば死んでもおかしくはないか。


「なんで目を離したんですか?普通、赤ん坊を1人にはしませんよね?」

僕はそれが気になった。赤ん坊から目を離すとは思えない。


「人族の感覚ではそうなのでしょうか…。エミルはもう4歳で、なにかあれば呼ぶことも出来ますので付きっきりというわけではなかったのです」

そっか、感覚が狂うけど4歳児と考えれば少しの間なら離れる事はあるか。家の中に1人にするわけではないし。


「そうなんですね。事故で亡くなったのであれば、ご遺体はあったんですよね?ご遺体は今どこにありますか?」


「火葬しました。残った遺骨は埋めました」


「そうですか……。これからどうするつもりですか?気にはなりますが、僕は部外者ですので長老から話が聞ければもうここに用はありませんが」


「可能であればエミルを死んだことにした相手を調べるのを手伝ってもらえませんか?それと話というのはなんですか?差し支えがなければ教えてください」


「時間が許す限りはお手伝いするのは構いません。話というのは魔王城への行き方を教えてもらう約束をしているのです。訳あって行き方を探しているのですが、長老が知っているとのことでしたので」


「そうでしたか。お手数をお掛けします」

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