第92話 逃亡者、女王の秘密を聞く

僕はエミルを死んだことになっていたことについて1つ心当たりがあった。


犯人の心当たりではなく、死んだことにした方法をだ。


昔に僕もやったことなので、同じことをしたのであれば女王様がエミルが死んだと思い込んでいてもおかしくはない。


もしかしたら他の方法だったのかもしれないけど。


僕が知っているスキルで同じ事が出来るのは、偽装と変装だ。

僕はミハイル様に念話で変装のスキルで出来る事を確認する。

その結果、変装では無理に近い事がわかった。


変装は使用者が思い浮かべた姿に変えるスキルらしい。

偽装のスキルとはスキルの本質が違う。偽装スキルは使用者が思い浮かべた姿に認識させるスキルだ。


結果は同じと思うかもしれないが、実は違う。

例えエミル本人を見ながら、別の何かに変装を施してエミルもどきを作ったとしても何かしらのズレで母親にはエミル本人でない事がバレるだろう。

例えばスキル使用者がホクロを見落とせば、ホクロは再現されないのだ。そう言った細かい認識のズレはエミルをよく知る母親なら無視できない程の違和感となるだろう。


偽装の場合は主観が使用者からそれを見る人へと変わる為、自分の記憶のエミルと同じに見えるのだ。例え使用者がホクロを見落としていようが、そもそもエミルの事をよく知らなくても、これはエミルだと偽装を掛ければエミルを知っている人にはエミル本人に見えてしまうのだ。


ちなみにエミルを知らない人が偽装で作ったエミルを見るとどうなるのか。それはその人が勝手に想像するエミルに見える。

でも見た人は本当のエミルを知らないので違和感は感じない。

そして、本当のエミルを知った後に、偽装したエミルを見た記憶を思い出そうとすると、エミルを見たという記憶だけが思い出される。


まあ、偽装にも欠点はあるので変装より優れているかというとそうでもないんだけどね。


でもこの推測には1つ大きな問題がある。長老の存在である。

僕は長老に確認する


「犯人ではないんですが、エミルフル様を死んだ事にした方法には心当たりがあります。長老は里のエルフの全員に鑑定は使った事がありますか?」

長老のステータスは見かけたエルフに比べて大分高い。


ステータスを偽装していたとしても、ある程度ステータスが高くないと長老の鑑定をごまかす事は出来ないだろう


「全員一度は観た気がするが、最近は観てないな」


「ちなみにエミルフル様の遺体には鑑定しましたか?」


「いや、していない。今となっては後悔しておるが、疑っておらんかったでな」


「そうですか、里のエルフの誰かのスキルで死体に見せかけたなら鑑定で里の全員をもう一度見れば犯人がわかるのではないかと思います」


「それがいいかの。エミルフル様が生きていた以上、何者かが画策したのは間違い無いからな。女王様、全員を集めてもらえますか?」


「集めたらこの里が良くなるのかしら?」

僕は女王様の言葉に驚く


立場的なこともあるのだろうが、犯人を見つけることよりも里のことを優先した


「僕にはわかりません」

僕は答えることが出来ない。それは1つ懸念があったからだ。


「思うところがあるのでしょう。私のことは気にせずに言ってはもらえませんか?」

僕は表情を隠すのが苦手のようだ


「僕はエルフのことをよく知らないので憶測というか、可能性の話ですが犯人が1人ではなくて複数いるのかもしれません。複数というのが何人いるかはわかりません。女王様は里の中では異端者のようですし……」

女王様の言う事を信じるならば、エルフは基本帝国で聞いた通りなのだろう。異端なのが女王様なので最悪の場合、里のほとんどが共犯かもしれない。


「あなたもそう思いますか?」


「あなたもということは女王様もそう思ってるんですね?」


「はい。私は今回の話を聞いて確信しました。この里のエルフ達の大多数は私の思想には共感したくないのだと。皆がエミルの件に関わったとは思いたくはありませんが」


「……女王様は真実を知るのが怖いんですか?」

僕は思ったことを口にする


「そうかもしれません。皆は私が女王だから言う事を聞いているだけだということを信じたくないだけですね」


「女王様はなんで他の種族と交流していきたいんですか?」

僕はそれが気になった。なんで女王様は他のエルフと思想が違うのだろう


「実は他の種族と交流をしたいわけではないのです」


「……え?」

僕はまた驚く。さっき交流をしていくべきって自分で言ってたよね


「本当は外の世界を見てみたいだけなのです。しかし女王は里の外には出る事が出来ないので、他の種族の方々と交流して外の世界に行った気になりたいだけなのです」

なんか聞いてはいけない事を知ってしまった気がする。


「なんで外に出れないんですか?」


「エルフの里の結界の核は女王なのです。私がここを離れると結界は消えてしまいます」


「女王はどうやって決まるんですか?先代がいるって事はずっとあなたってわけではないですよね?」


「女王が死んだ時に、エルフの中から女王が選ばれます。誰が選ばれるのかはわかりません。何か基準があるのか、それとも適当に決められているのか……」

僕は1つ試してみたいことを思いついた。

でもそれをする前にやっぱり問題はスッキリした方がいいと僕は思う。

スッキリした方がいいというか、そこをスッキリしてくれないと試す事が出来ない


「女王様の願望を僕は叶える事が出来るかもしれません。可能性の話ですが……。でもそれを試す前に今回のエミルフル様の件にケリをつけてもらう必要があります」

僕の推測が正しければ、このエルフを死なせずに女王を他の人に移す事が出来るはずだ。

ただ、それを今した場合にエミルの誘拐の件が都合よく利用される可能性がある。それは困る


「それは本当か?」


「可能性の話ですが、僕は出来ると思ってます。女王をやめてでも外の世界に行きたいんですよね?」


「行けるなら行きたい。元々私は女王になんてなりたくなかった」


「あなたが女王をやめた後に女王になったエルフが、人に害を成す可能性があることだけが僕の気がかりです。そうならない為にも皆を集めて犯人を探しましょう」


「わかりました。里の広場に全員を集めます」

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