第42話 逃亡者、妹を騙す
翌日、僕はミア、フィル、フェンと4人で冒険者ギルドを訪れていた。
いつものお姉さんがいるカウンターに行き、マスターに家の件で僕がお礼を言っていたと伝えてもらうようにお願いする。
「なにかあればこちらに住んでまますので」
一緒に家の場所を書いたメモとお姉さんにお菓子も渡す。
「ありがとうございます。先日頂いたお菓子も美味しかったです。メモはマスターに渡しておきます。本日の要件は以上になりますか?」
お姉さんの顔がほころぶ。砂糖が貴重だからお菓子もほとんど高級なんだよな…
「あと、この子達の登録をお願いします」
僕はフィルとフェンを指差す
フィルは荷物持ちをしていたけど登録はしていなかった。登録の為の費用がなかったらしい。少ないお金をほとんどフェンの治療代に充てていたのだから仕方ない
「えーと、フィルさんは以前から荷物持ちとしてお見かけはしていますけど、こちらの男の子はまだ大分幼いと思うんですが……」
お姉さんの言う事は正しい。規則として年齢の制限はないけれど子供が登録するのは稀だろう
「身分証が欲しいってのが理由になりますのでお願いします。もちろん冒険者としての活動も無理のない範囲でさせるつもりですが…」
フィルとフェンに限らずにスラムで暮らしている人のほとんどは身分を証明するものを持っていないようだ。
街に税を取られないと言う意味では持ってない方がいいとも言えるが…
「…かしこまりました。試験はすぐに行いますか?」
「いえ、3日後でお願いします。明後日にこの子達の装備が完成する予定ですので」
「それでは、3日後にお待ちしております」
試験の予約をしてギルドを後にする。
獣人のフィルとフェンを連れてたけど特に絡まれることもなかったな。どっちかっていうと面倒事には関わらないように距離を置いている感じだった。
実際に害をなそうとしてるのは一部なのだろう
ギルドマスターもいい人そうだし、何か対策は必要だけどフィルとフェンの働き口としては良さそうだな。
他に用事も無いし僕達はそのまま屋敷に帰る。
昼食を食べている感じだとフェンの体調も大分良くなったようだ。普通の食事も食べれている。
「フェンも元気になったし今日の夕食は僕が作るよ。豪華にする予定だからお腹を空かせとくように。それまでは自由に過ごしててね。ただし外には出ないように。」
「うん」
「わかりました」
「はーい」
「サラさんは悪いけど料理を手伝ってもらえますか?」
僕が作ると言ったけども料理の腕は大した事ないからね…
「かしこまりました」
僕とサラさんは厨房へ移動する
さて何を作ろうかな…
豪華にとは言ったけどもフルコースを作る気はない。凝ったものを作るよりはガッツリと量がある方がいいな。
主食はパンだね。本当は米がいいけどないんだよな
おかずはまずは肉だな。この世界の料理って基本焼くか茹でるだから、変わったものが作りたいな。
「サラさん、揚げ物って出来ますか?」
「出来ますが、あまりお勧めはしないですよ。油が貴重なのもありますが、揚げてしまうとコテコテするのであまり好んで使う人はいませんね」
コテコテする?
「油の原料ってわかりますか?」
「牛や猪、豚、鳥などの肉の処理をした時に出た脂ですね」
動物油なのか。
「植物油ってわかりますか?」
「……?わかりません」
植物油はないのか……残念だ
ラードで唐揚げとか聞いた事はあるけど使ったことないんだよな…今回は諦めるか
そうなると結局焼くしかないか
「猪の肉でステーキを作りますので、合いそうなソースを作ってもらえませんか?」
「かしこまりました」
メインはステーキでいいか。でかい肉はインパクトあるし喜ぶだろう。
サラダは適当に盛り付けるとして、スープは昼食の時点でサラさんが夕食の分まで用意してくれている。
……あれ、終わった
足りないとするとデザートだけどデザートは全く作った事ないからなぁ。なにか簡単に作れて美味しいやつあったかな…
僕は食材をガサゴソと探していいものを発見した
「サラさん、これって寒天ですか?」
「寒天がわかりませんが、水で溶かすと固まる不思議な粉です」
寒天みたいなものだろう。鑑定でも寒天とは出てこないけど…。植物の粉末らしい
「果物と一緒に固めましょう。多分美味しいです」
僕は果物を取り出して、果汁を絞り寒天もどきに混ぜる。カットした果物も入れて固めればゼリーみたいになって美味しいだろう。
「サラさん、これで豪華な夕食になったと思いますか?」
「十分豪華だと思います。肉がある時点で豪華です」
僕も豪華だとは思うけど、ほとんど手間が掛かってないから、作った感がないんだよな…
ステーキ焼くしアレも作るか
僕はメインを1品追加する事にした。アレなら手間も多少掛かるし僕も作った感じがするからね
料理が全部出来たのでみんなをダイニングに集める。
机の上にはパンとサラダとスープが並んでいる。
みんなが席に着いたところで鉄板をみんなの前に置く。
鉄板の上にはステーキとハンバーグが乗っている。
フィルとフェンは目を輝かせている。
見た目からボリュームバツグンだな。
僕は出来に満足する。
まあ作ったのはほとんどサラさんだけど…僕が焼いたハンバーグは焦げてしまったので自分用にした。
よだれを垂らして[待て]状態のフェンに僕は追い討ちをかける
「サラさん、お願いします」
サラさんがハンバーグに溶かしたチーズをかける
じゅわーっと音と共にチーズの焦げたいい匂いがする
これ以上は酷だな
「熱いから気をつけてね。おかわりもあるからどんどん食べてね。デザートもあるからその分はお腹空けといてね。それじゃあフェンの回復を祝って食べようか!」
フェンは肉に齧り付く。幸せそうだ
「お兄ちゃん、料理も作れたんだね。すごい!」
ミアに褒められるがほとんど作ったのはサラさんなんだよな……
「…僕だって、頑張れば出来るんだよ」
僕は見栄を張ってしまう
本当の事を知っているサラさんには優しい目で見られた。
「それじゃあ、また作ってね」
ミアに頼まれる
「もちろんだよ…。でもサラさんの方が料理の腕は上だから基本はサラさんに任せようかな」
後には引けなくなってしまった。
僕はサラさんに念話で僕が作る事になった時には手伝ってもらえるようにお願いする
サラさんから呆れた顔をしながら了承の返事が来たので僕はひとまずホッとする。
その後は結局食べ過ぎたみんなにデザートを出して夕食はお開きとなった。
「ハイトさん、弟のためにありがとうございました。とても美味しかったです」
「気にしないで、元気になって本当によかったよ」
「ハイトにいちゃん、美味しかった。ありがとう」
ミアがフェンにミアねえちゃんと呼ばせている影響か僕のことをにいちゃんと呼ぶようになった。
そういえば、ミアはルイにもミアお姉ちゃんと呼ばせていたな……まあいいか。
「満足したか?」
「うん!」
僕も笑顔になった
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