第34話 逃亡者、寝床を借りる

ギルドマスターと話をしていると件の冒険者3人がギルド員に連れられて部屋に入ってくる


「なんだよ、こんなところに連れてきて」


「さっきぶりですね、先輩方」

僕は挑発するように声を掛ける


「っ!なんでてめぇが生きてやが…」

ギルドマスターがいることに気づき喋るのをやめる。まあもう遅いが


「ほとんど聞きたいことは先に聞いてしまったが何か他に言いたいことはあるか?」


ギルドマスターが問い詰める


男達は言い訳をするが筋が通っていない


「おい、衛兵を呼べ」

ギルドマスターがギルド員に衛兵を呼ばせる


男達は逃げようとするがギルドマスターがすぐに動けなくする


「お前らの言い分が正しかったようだな。この者達の登録抹消及び以後ギルドに立ち入ることを禁じる。あとは法の裁きに任せるがそれでいいな?」


「はい。ありがとうございます」


「それでさっきの素材だが全部で金貨10枚で売って欲しい」


金貨10枚が高いのか安いのかわからないけど、ミアの顔を見て安くないのはわかった


「査定の詳細を聞いても?」


「簡単にだが、討伐の報酬が金貨2枚、全身鎧と骨で金貨1枚そして魔石が金貨6枚だ。残りの1枚は今回の迷惑料として受け取ってくれ」


魔石って核の事か。


「魔石ってそんなに高いんですか?」


「魔術の触媒として使えるし錬金術の材料にもなる。このサイズならこのくらいが妥当だろう。…足りぬか?」


足りるか聞かれても相場がわからないからなんとも言えない


「ちなみにですが、4人で暮らせる家を借りるなら1月いくらくらいかかりますか?」


「なんだ、家を探してるのか?まあ、場所によるが選ばなければ金貨1枚あればお釣りがくるだろう」


色々揃えたとしても一年は暮らせるな


「はい、獣人は宿に泊まれないと言われたので…。金貨10枚でお願いします」


「ハァ、家なら俺が紹介状を書いてやる、それをここの婆さんのところへ持っていけ。よくしてくれるはずだ。間違っても商業ギルドには行くなよ。あそこのトップは獣人を毛嫌いしている」

ギルドマスターは街の地図の1点を指差しながら忠告してくれる


「わかりました。何から何までありがとうございます」


「おう!そのかわり今後もギルドの繁栄に協力してくれよな」

いい笑顔だ。また何かあったらこの人を頼らせてもらおう


僕達は金貨10枚を受け取り紹介されたお婆さんのところへ向かう


言われた場所に向かうとそこにはとても大きな屋敷があった。まあ地図見せられた時からわかってたけど、ここ領主様の屋敷だ。


僕は門兵の人に冒険者ギルドのマスターから紹介をもらって来たことを伝える。門兵の1人が中に走っていき戻ってくると中に案内される。


「ようこそいらっしゃいました。当主様はお忙しい身の為、私が要件をお聞きします」

屋敷に入ると執事服を着た男性に声を掛けられる。


「僕達、当主様ではなく、ここに住んでいるお婆さんに会うようにギルドマスターから言われてるんですが……」

僕がそう言った瞬間男性に緊張が走ったのがわかった


「ミハイル様ではなくゲルダ様に会いに来たと申されたのですか?」

何をそんなに焦ってるんだ?


「名前は聞いていないのでわかりませんが、他にこの屋敷にお婆さんはいますか?」


「この屋敷に住んでるのはゲルダ様だけだ」


「ではそのゲルダ様に会わせてもらえませんか?」


「私の一存では判断出来ません。ご用件は至急を要するものですか?」

野宿は困るけどこの様子を見ると言いにくいな


「至急ではありませんがこのままだと僕達は野宿になってしまいます」


「それでしたら本日はこの屋敷の客間を使って下さい。ゲルダ様の件は当主様の予定が空き次第確認致します。」

え、いいのかな。ラッキーだけどなにか面倒な事に巻き込まれてる気がする


「それは助かります。一晩お世話になります」


僕達は客間に通される


僕はベットにフェンを寝かせてからミアとフィルに風呂に入ってくるように進める。


「お兄ちゃんのおかげで汚れてないよ」

実はスケルトンナイトを倒した事で生活魔法のレベルが上がっており洗浄魔法が使えるようになった。

僕は全員に洗浄魔法を掛けたので確かに汚れていない。

ダンジョンに行ってきたとは到底思えないくらいに


「汚れとか関係なく気持ちいいから行っておいで」


「うん、お兄ちゃんがそういうなら行ってくるよ」

ミアとフィルは納得いかないような顔をしながら風呂に入りに行く。


「さて、ミハイル様。良ければ話をしませんか?」


「……いつから気づいていたのかい?」


「会った時からあなたがミハイル様だってことは気づいていましたよ。なんで変装してたのかはわかりませんでしたが…」


「どうしてバレたのかは…教えてくれないみたいだね。いいよ話をするなら本当の顔でするつもりだったし」


執事の顔が青年の顔へと変わる。


「冒険者のマスターはゲルダ様のことを知ってる数少ない人間の1人だからね。私に会いにきたって言ってればそのまま客間に通した後に変装を解いてすぐに会うつもりだったよ」


「では今は違うと?」


「その通りだ。ゲルダ様に会わせるならば君がどんな人物か見極める必要がある」


「なるほど、では僕があなたの正体に気づいてしまったのは良くなかったですね」

僕は苦笑いをしながら答える


「笑い事ではないんだけどね。まあバレてしまったものはしょうがない。直接聞こうとしようか。獣人についてどう思う?」


僕は自然に笑みが溢れる


「何がおかしい?」

ミハイル様を少しイラつかせてしまったようだ


「失礼しました。ギルドマスターがなんで僕をここに連れてきたのかがわかって笑ってしまっただけです。」

僕は一拍おいて


「その質問さっき僕がギルドマスターにした質問と一緒ですよ。僕はギルドマスターの答えを聞いて信用に値する人だと思いました。」


「なるほど、そうであったか。答えを聞くまでも無さそうだが一応聞こうか。どう思う?」


「獣人には獣人の人間には人間の良さがあります。またその逆もです。本質を見ないで表面しか見てない今の人達には吐き気を覚える」

僕は真面目な顔で答える


「それは君の仲間も同じ認識かい?」


「妹のミアは獣人だからと迫害するような子じゃありません。フィルは今まで人間にひどい扱いを受け続けてましたので人間に対して怖がってる節があります。悪い子ではないことは断言できます。フェンは騙されて毒を飲み続けた結果長い間寝たままです。起きた時にどう思うかはわかりません」

僕は正直に答える


「そうか、明日ゲルダ様と会えるように段取りをしておこう。一応他の者たちに私の正体は隠しておいてくれ。」

そう言ってミハイル様はさっきの執事の顔に変装する。


なんか大事になってきたな。当初の目的ならミハイル様の方が適任な気がするし言っておいた方がいいよな


「あの…大変言いにくいのですが、僕の要件はその…ゲルダ様よりもミハイル様の方が適任な気がするんですが…」


「そういえば要件を聞いていなかったな。獣人を連れてるしアレ関係だと勝手に思っていたよ」

アレってなんだよ。かなり面倒そうだ


「アレっていうのがすごく気になりますが聞いてしまったら後には引けなさそうなので言わないで下さい」


「ハッハッハ。言うつもりはないから安心したまえ」

ポロッと言いそうで怖いんだけどな


「それならいいですが…僕達の要件は家を借りにきただけですよ。ここにいるお婆さんが家を斡旋してくれるって事で来ただけです。領主のミハイル様の方が適任ですよね?」


「…そうだな。実際ゲルダ様に家を斡旋することは出来ない」


出来ないのかよ

「出来ないのかよ……すいません」

しまった、思ったことが口からも出てた


「マスターはゲルダ様に合わせたかっただけだね。家は私がなんとかしておくよ」


「ですよね…。お願いします。ちなみにこのまま家だけお願いして帰ることは…………出来ませんよね」

ミハイル様の顔がNOと言っている


「まあ会うだけ会ってよ、悪いようにはしないって約束するから」


会ったら後戻りできないと思うんだけどな

「……わかりました」


「ちなみに家は借りなくてもずっとこの客間を使ってもらってもいいからね」


取り込む気満々だな

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