第33話 逃亡者、獣人を助ける
「あれ、ここは?」
獣人の女の子はキョロキョロと周りを見渡して僕達に気づいて、ビクッと震える
「だ、誰ですか?」
「まずは落ち着いて、はい水飲んで」
僕はコップに水を入れて渡してあげる
獣人の子は困惑しながらも受け取って水を飲む
「落ち着いた?僕はハイト、こっちが妹のミアだよ。君が囮にされて死にそうになってたから助けたんだけど…覚えてない?」
「……!あの騎士は?」
「僕達が倒したよ。だから安心して」
「…他の人たちは?」
「君を置いて逃げたよ。一緒に僕達も殺そうと扉に細工までしてね」
「…わたしのせいですみません」
「君が謝ることはないよ。これからどうするつもり?僕達はそこの転移陣に乗って地上に戻るけど」
魔法陣を鑑定したらやっぱり帰還用の転移陣だった
「わたしは……あの人たちのとこ…」「あいつらの所に戻るなんて言わないよね?」
僕は言葉を遮る
「だって、そうしないと生きていけない…」
獣人の子は泣きそうな顔で小声で呟く
「あいつらのところにいたって今日みたいに使い捨てにされるだけだよ」
「でもそうしないと…」
「何か事情があるなら僕に話して欲しい。もしかしたら助けになれるかもしれない」
「なんで獣人の私に優しくしてくれるんですか?他の人は獣人ってだけで嫌な目を向けてくるのに」
「僕達は獣人だからって気にしないよ。人間にだって悪い奴はいるし。だからそんなことは気にせずに君が助けて欲しいなら話して欲しい。何も知らなければ助けたくても助けれないからね」
獣人の子は泣きだす。
「そんなこと言ってもらったの初めてです…」
この姿を見るだけで今まで周りからろくな扱いをされていなかったのだとわかる。
そして、ぽつりぽつりと話してくれる
「…家に病気の弟がいるんです。お父さんもお母さんも死んじゃって、私がなんとかお金を稼がないとダメなんです。誰も獣人の私とパーティなんて組んでくれないから、あの人達と組むしかないんです。…道具としてしか思われてないのはわかってます」
「事情は大体わかったよ。じゃあ僕達と一緒にいこう、何が出来るかはわからないけど悪いようにはしないって約束するよ」
「え?…いいんですか?」
「もちろん。まずは名前を教えてもらっていいかな?」
「フィルです」
「うん、フィルだね。ここから出たらフィルの家に行こうか。」
「ありがとう」
フィルが泣き止むのを待ってから僕達は転移陣に乗って地上に戻りフィルの家へ行く
フィルの家は予想はしてたけどスラム街にあった
家といっても屋根があるだけでほとんど屋外と変わらないけど…
「フェン帰ったよ」
家に入ると横になった獣人の男の子がいた
この子がフェンか…大分顔色が悪いな
僕はフェンを鑑定してビックリする
「フィル、フェンは病気じゃない。毒に侵されてるよ。弱い毒みたいだけど何か心当たりはない?」
「わからない。お医者さんは病気だって」
「それっていつのこと?」
「2年前くらい」
その時本当に病気かはわからないな
「薬もその医者から買ってるの??」
「お医者さんには最初に診てもらっただけ。その後は薬屋さんで買ってる」
「その薬ってある?」
「これ」
フィルは床下から薬を取り出す。薬は高価だから隠してるのだろう
僕はクスリを鑑定する
雑草を潰した液(微毒)
数種類の草を適当に潰して液状になったもの。
毒草も多少混じっている
これか
「フィル、残念だけどこれに毒が混じってる。それに薬でもないよ。そこらに生えてる雑草を潰して液にしてるだけだね」
「そんな…」
フィルは言葉を失う
「ミア、フェンに治癒魔法を掛けてあげて。体力は回復すると思う」
「うん、わかった」
ミアに治癒魔法を任せて、僕は収納から薬草を取り出す
解毒効果のある薬草だ。僕はすり潰してフェンに飲ませる
顔色も良くなってきたな
「数日したら動けるようになると思うよ」
「…本当ですか?」
「医者じゃないから絶対じゃないからね。とりあえずここだと良くなるものも良くならないから一緒に宿に行こうか」
「いいんですか?」
「もちろんだよ。さあ行こう」
僕はフェンを背負ってスラム街を出て、泊まってる宿に行く
「泊まる人数が増えたので4人部屋に変えて欲しいんですが…」
僕は宿屋の主人に部屋の変更を申し出る
「…うちは獣人は遠慮している、悪いが他を当たってくれ」
腐ってやがる
「わかりました。こんな宿こちらから願い下げです」
「なっ!」
主人は何か言いたそうだったが無視して外に出る
「わたしのせいですみません」
「フィルは何も悪くないから」
とはいいつつ泊まるところがないのは困るな。
他の宿も同じ感じなのだろうか…
「家ごと借りるか」
僕の発言にみんなビックリする
「お兄ちゃん、お金はとうするの?私そんなには持ってないよ」
「スケルトンナイトの鎧を売ればとりあえず1月くらいは借りれないかな」
「うーん、わからないです」
「とりあえず冒険者ギルドに行こうか、他にも用事はあるし」
「うん」
僕達は冒険者ギルドに入る
「なんか視線を感じるな」
「わたしたちを見てるんです」
フィルが俯いて呟く
「無視して行くよ」
僕は昨日のお姉さんが座ってる受付に行く
「すみません、ダンジョンに行ってきましたので常駐依頼の報告と素材の買取をお願いします」
「……!ではこちらに証明部位と素材をお願いします」
フィルとフェンを見て一瞬止まったけど、普通に対応してくれたな
「証明部位はこれです。素材はたくさんあるので奥で出してもいいですか?」
「……わかりました。では少しお待ち下さい」
お姉さんは察してくれたらしい
数分後お姉さんが戻ってくる
「奥の部屋にお願いします」
「ありがとうございます。あ、よかったらこれどうぞ」
僕はお菓子を渡す。もちろん城から頂戴したやつだ。
「高そうなお菓子ですね。ありがとうございます」
今後ともこのお姉さんにはお世話になりそうだからね。こういうのも大事だ
僕達は奥の部屋にノックをしてから入る
「私がこのギルドのマスターをしている。…素材を売りに来たのではないのだろう?」
「時間をとってもらいありがとうございます。素材も売りに来たんですが本題は別にあります」
「聞こう」
「本日、ある冒険者にボス部屋に閉じ込められて殺されそうになりました。ギルドとしてどう対応してくれるのか相談にきました。」
「双方から話を聞かないと判断は出来んが君からの言い分は聞こうか」
僕は経緯を話す
「それが本当なら処罰の対象だな。ギルドとしてもだが衛兵に引き渡すことになる」
「ただ、」とギルドマスターは続ける
「話の内容に信じがたい部分がある」
「なんですか?」
僕はどこかわかっているけど惚ける
「惚けるな。昨日登録したばかりのひよっこがスケルトンナイトを倒せるわけがないだろう」
「証拠ならあります。まあ、売りたい素材がそれなんですが…」
僕は収納からスケルトンナイトを取り出す
「これがスケルトンナイト…思っていたものより随分と凶悪に見えるんだが……」
「普通のスケルトンナイトを知らないので僕にはわかりませんが、これで信じてはもらえませんか?」
「最初にいった通り双方の言い分を聞いてからだ。だがそのスケルトンナイトは高く買い取ろう」
「素材を売るのはこの件が片付いてからです。それにギルドマスターに聞きたいことがあります。それを聞いてから売るかは決めます」
素材が欲しいと顔に書いてあるからな、交渉材料を簡単に渡す必要はないだろう
「……なんだ?」
ギルドマスターは怪訝な顔をする
「獣人についてどう思いますか?」
「ギルドマスターという立場としては、回答を控えさせてくれ。ただ、俺個人としては獣人とか関係なく、いい奴なら仲良くしたいと思っている」
「その言葉信じてもいいんですよね?」
「ああ」
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