第20話 逃亡者、旅立つ

僕は急いで部屋に向かい、偽装を解いてから部屋に入る。


部屋の中に入ると泣きながらミアが抱きついてきた


「お兄ちゃんが死んでしまったと思いました…」


「心配かけてゴメンね。ミアの時と同じであれは僕じゃないから」

僕はミアの頭を撫でながら落ち着かせる。

…あれが生きてる人間だったことは内緒にしておこう。


「僕はこのまま国を出ようと思うんだけど、ミアはどうする?出来ればついて来てほしいんだけど…」


偽装を使えばこのまま城に居続けることも出来るだろうが、ロンドになりすまし続けるにはいずれ無理が出てくるし、他の顔にするとロンドがいなくなったことがバレる。


このまま国を出たとしてもロンド失踪の件は不審がられるだろうが僕が生きてるとは思わないだろう。


「ついていく」

ミアが一緒に来てくれる。この世界の事をほとんど知らない状態で一人で生活するのは正直怖い。ミアが一緒に来てくれて僕は嬉しく思う。


「ありがとう。僕のせいで色々とゴメンね」


「いいんです。私が一緒に行きたいんです。すぐに出るんですか?」


「昨日少し話をした委員長達に会って、準備をしてから出る予定だよ。委員長には昨日のミアの偽装の件も話してあるし、僕が死んでない可能性もあると思ってくれてると思う。夜に小山って人の部屋に集まってるはずだから寄ってから出ることにするよ。心配してるだろうし。…夜になる前に準備を済ませようか」


「わかりました」


「とりあえずこの部屋から出よう。死んだはずの人間の部屋から物音がしたらおかしいからね。」


「うん」


僕は部屋から出て倉庫へ移動する。

もちろん僕とミアの顔をスキルで偽装してからだ。


「国の外ってどんな感じ?」


「オーラス国の隣にブルンド帝国があります。オーラス国とは現在休戦中です」


「ブルンド帝国か…。どんな所か知ってる?」


「行った事はありませんので詳しくはわかりませんが、帝国の主要都市はここからかなり離れてます。オーラス国の領土を出て一番近い街では国交もあるそうです」


「そうか。とりあえずその街に行ってみようか。どのくらいかかるかな?」


「乗り合いの馬車を使えば早くて3日くらいです。」


「結構早く着くね。余裕を持って5日分くらいの物資を持ってくか。ミアの家族は王都に住んでるの?ミアは死んでることになってることを説明しないといけないし、当分会えなくなるから挨拶もしたいよね」


「2人とも事故で亡くなってますので、大丈夫です」


「…ごめん」


「灰人さんが謝ることはないです。私がもっと成長した姿を見て欲しかったですけど、十分に愛してもらいました」

そう言うミアの目は少し寂しめだった。


僕は食糧庫へ行って少しずつ食材を収納へ入れていく。

思ったより豊富に食材があったので1ヶ月分くらい盗んでしまった。まあいいか、2人で1ヶ月分なんてこの量からしたらたかが知れてる。


そうこうしていると、いい時間になって来たのでミアを連れて小山君の部屋へ向かう。


コン、コンコン、コン!


僕は部屋をノックする。昨日決めておいた叩き方だ。

部屋のドアが勢いよく開く。


委員長が出てきて僕の顔を見て困惑する

「えっ、誰?なんで?だって、でも…」


「僕だよ、委員長。とりあえず中に入れて」

僕は困惑した委員長を押して中に入る。


「驚かせてごめんね。これも僕のスキルだよ。戻るね」

僕は偽装スキルを解く


「良かった。死んでなかった…」

委員長の目から涙が溢れる


「心配かけてゴメン」

僕は謝る。


「本当によかったわ。影宮君は生きてるかもしれないって委員長が言うけど、首が無くなったのを目の前で見せられて信じられなかったの。ほんとうによかった」

桜先生も泣いている。


時間もないので僕はこれからの事をみんなに伝える。


「……と、いうわけで僕はこれから国を出てブルンド帝国領に行くことにするよ。まずは近くの街だけどね。みんなはこれからどうする?」


委員長が真剣な顔で答える

「実は影宮君が来る前にこれからの方針は決めてたの。私たちはこのまま城に残るわ。昨日話した通り、他のみんなと話をして希望者を集めてから脱出する。期限は3ヶ月、桜先生にもそれで納得してもらった。だからミアちゃん、影宮君をよろしくね」


いきなり話を振られてミアはビックリする

「っ、はい。お兄ちゃんの事は任せてください。」


「「「お兄ちゃん…?」」」


みんなに白い目で見られる。


「違うよ、僕は影宮って呼ぶように言ってるんだよ。ね、ミア?」

僕は動揺しながら否定する


「私が呼びたいだけです。わかりました、灰人さん」

ミアはム〜としながら肯定する

地雷を投下しないでほしい


「じゃあそろそろ行くよ。くれぐれも無茶しないように。これ、もしもの時にうまく使って」


僕は委員長達にあるものを渡して出発することにした。

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