第43話荒川の戦い

本陣で景春さんを含め主要な諸将を集めて軍議をおこなう。


皆さん、というか松山城城主だった上田さんをはじめ松山、嵐山の国人領主がえらく好戦的で攻めろと言ったら今すぐにでも敵陣に向かって攻めかかりそうな勢いだ。


「本来なら正面から野戦で雌雄を決するのが良いんだろうけど顕定は守りを固めてる以上、正攻法の戦いはしないつもりだから。 とは言え合戦はする」

そう宣言をすると一同、なにか腑に落ちないような顔をしながら作戦の説明に聞き入っている。


「恐れながら…、某がその書状を書いて顕定を欺くのですのですか?」

「そう、上田さんが顕定に内応の書状を書いて信用させる。 丁度今回兵を出さなかった嵐山周辺の国人領主が兵を挙げて自分達に反旗を翻したみたいだし、意外とあっさり信用してくれるでしょ」


不安そうな顔をしている上田さん達国人領主に今回の作戦がうまくいけば転封はあるかもしれないけど同等かそれ以上の領地を与える事を伝えると皆さんやる気になったみたいで、上田さんに至っては軍議の後、顕定に届ける書状の文面の詳細までお伺いを立てるように自分の所に何度もやって来た。

やっぱり目の前に餌をぶら下げるのは有効だ!


そして深夜、何度も書き直した書状を持って上田さんの家臣が密かに荒川を渡り敵陣に向かい、翌日の深夜に帰って来た。

予想通り嵐山周辺の国人領主が自分に対し反旗を翻した事で上田さん達も反旗を翻すつもりで自分に従っているふりをしていると思ってくれたみたいだった。


上田さんの家臣が顕定からの書状を持って帰って来た翌日、軍議を開き、合戦を明日行う旨を伝え詳細を詰める。

明日の合戦に備えて諸将が議論を繰り返し、軍議が終わった頃には日が傾きだしていた…。

我先にと意見を出し合うし、少数の兵を率いている国人領主のまとめ役を決めるのも大変だし、根本的な軍制改革が必要だと今日の軍議でそう思った。

今回の合戦が終わったらその辺も改革しないとな~、そうなると戦国大名化が必須になるけど…。

仕事が山積みだ。

のんびりできる日は来るのかな…。


翌日、日が昇り出すと同時に上田さん達、松山、嵐山の国人領主の軍が顕定軍に突撃を開始した事で始まった。


水しぶきをあげながら川へ入り、腰の辺りまで水に浸かりながら渡河をし顕定軍の先陣と斬り結ぶ。

真冬の川に腰まで浸かった事で寒さで全力が出せないのか、一旦川辺まで押し戻されるも続々と国人領主の兵が渡河を終えると勢いを取り戻し顕定軍の中に突撃をしていく。


上田さん達、松山、嵐山の国人領主軍が顕定軍を分断するかのように突き進んでいるのを確認し、坂戸の国人領主軍、そして景春さんの軍に豊嶋軍が突撃を開始した。


荒川に沿って横に広がり陣を敷く顕定軍は真ん中を上田さん達の兵に分断される形で左右に分かれている。

今回の作戦はその分断された顕定軍の左側を景春さん、右側を豊嶋軍、そして中央を坂戸の国人領主軍、が攻撃をするよう事前に取り決めておいた。


本来なら上田さん達の兵だけで数に勝る顕定軍を分断する事は到底出来ないはずなのに、分断が出来ているのは上田さんが送った書状で顕定が内応して来た事を疑っていない証拠だ。

渡河を終えた各軍が左右に分断された顕定軍と激突し死闘を繰り広げる。


流石に真冬に渡河をした事で味方の動きが悪く押され気味ではあるけど、味方の兵馬は身体から湯気をあげながらも奮戦をしている。

自分も黒帝に乗って荒川を渡河し敵軍に突撃して大太刀を振り回し敵兵を薙ぎ払い味方を援護する。


両軍とも総力戦の様相を呈して来た時、顕定軍の本陣に上田さん達が攻めかかった事で敵兵が浮き足立ち始めだす。


実は上田さんに書かせた書状には顕定に内応し戦いたい旨、そして先陣の国人領主軍、をすり潰すつもりの作戦を立てているのでそれを逆手にとって突撃をしたら左右に分断されたように見せかけ本陣への道を開きそこに攻込んで来た敵を3方向から攻撃をすると言う提案も記載していた。

それを鵜呑みにした顕定は本陣に向かう兵を3方向から攻撃しようとするも、内応を約束していた上田さん達が反転せずそのまま本陣に殺到し、その後坂戸の国人領主軍までもが本陣に攻めかかった事で顕定は本陣を捨てて逃亡をしたらしい。

それにしても意外とあっさりと…。


あっさりと本陣の守りが崩壊した事に疑問を覚えるも、本陣の兵が逃げ出した事に兵が動揺しだし徐々に味方が優勢になり顕定軍を押しはじめ、ついには本陣の兵が逃げ出した事に気が付いた兵が叫び声をあげた事で、瞬く間に動揺が広がり、雪崩をうたかのように壊走を始めた。


逃げる兵にそれを追いかける兵。

追う側は、武功を挙げようと必死になっている上田さん達に加え、籠城戦で鬱憤が溜まっていたであろう景春さんの兵、そしてここで手柄を挙げて更なる褒賞を目論む坂戸の国人領達が逃げ惑う羊を狩る狼のごとく我先にと顕定の兵に襲い掛かっている。


なんかしっくりこない。

道灌さんと戦った時は我先にと兵が逃げ出していたけど、今回は整然と逃げている?

逃げてはいるけど一部の部隊は交互に踏みとどまってお互いに援護しあってるような…。

顕定は元々本格的に戦う気は無かった?

だとしたら上田さんの内応を認めるのも変だし…。

まさか上田さん達を囮にして元から逃げるつもりだったとか?


しまった!!

追撃は何処までとか取り決めて無かった!!

豊嶋軍はそんなに武功を欲して無いし、鬱憤も溜まってないからそこそこ追撃したら帰って来るだろうけど、他の諸将は何処まで追撃するか分からない!!


いや、追撃をするのは良いんだけど、深入りしすぎて反対に逆襲されると顕定軍が盛り返す可能性があるからあまり深入りはして欲しくない。

本陣で顕定を討ち取ったって情報は入って無いし、武蔵から上野に入ったら顕定の勢力圏だから思わぬ反撃にあわなければ良いけど。

万が一最初から上田さん達を囮にして逃げるつもりだったら何処かで反転して攻勢に出る可能性もある。


慌てて近くに居た武石さんに指示を出して追撃戦に移行している人達に追撃を中止して戻って来るように伝令を送る。


杞憂であってくれればいいんだけど。

そう思いつつも鎧を脱ぎ身軽になって馬を駆る伝令の背を見送る。

多分、間に合うとは思うけど最悪の場合は進軍してもう一戦だな…。


補足-------------------------------------------------

※一度書いたか書いてないかが分からなくなってきました…。

合戦で死傷者が大勢出るのは合戦中では無く追撃戦の際だったといわれています。

これは主に集団戦闘が当然の時代になってくると顕著に表れたと言われていますが、合戦中も死者は出ましたが一方が逃げ出すとその後ろをから攻撃を加える事で逃げる側の死者が増えたと言われています。

しかし、追撃の際に討ち取り得た首は「追い首」と言われ通常の合戦中に討ち取った首よりも価値の低い首とされていたそうです。

ただ追い首でも名のある武将の首は相応に価値があったそうです。

この時代でも簡単に得られる首に対して通常の褒美を与えていると主君が破産してしまいそうなので経費削減の一環だったのでしょうか…。

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