第42話対陣

松山城から鉢形城へはほぼ直線で20キロぐらいの為、現代だったら徒歩で5~6時間で到着するんだけど、この時代は当然のごとく道は舗装されて無いし道幅も狭い。

しかも造成されてないから道もクネクネとしてアップダウンも激しい。


予定では早朝出発したら昼頃には到着するかと思ってたけど、泰経さんを始め一門衆の皆さんにも無理だと言われてしまった。

強行軍で行けば昼過ぎには到着するかもしれないけど、それだと兵馬が疲れて合戦が出来ないどころか、攻撃を受けたら不利になるとの事だ。


確かに強行軍をして無駄に兵馬を疲れさせても意味無いし、自分自身敵味方をはっきりとさせたいので、今日の所は余裕を持って行軍し、鉢形城まで4~5キロぐらいの所まで移動し野営をし、翌日鉢形城へ向かう事にする。


それにしても鉢形城を攻める関東管領、上杉顕定の軍は自分達が進軍して来ている事を知っているであろうはずなのに夜襲をしかけて来る訳でも無く、風間さんの配下の情報では包囲を継続しているとの事だったんだけど、このままだと鉢形城の長尾景春さんと自分に挟撃されるのが分かってない?

それとも何か作戦でもあるのか?


本陣で軍議を開き明日の陣立て、先陣などを決めてた。

軍議に時間がかかったけど、予定通り先陣は松山、嵐山の国人領主の軍、その後ろに出番が無く戦意旺盛な坂戸周辺の国人領主の軍、そして豊嶋軍と言う形で話が決着した。

坂戸周辺の国人領主の皆さん景春さんから戦いに加わらず自分のサポートをするように厳命されてたみたいで、ここで戦功を挙げないと戦後の褒賞が少なくなるんじゃないかと心配してるみたいで、降伏した国人領主を押しのけてでも先陣を務めたいと言って聞かないんだもん!!

降伏した人達も武功を立てないと所領削減されるから必死だから話がまとまらず陣立てに時間がかかった。


結局の所、坂戸周辺の国人領主さんには、既に景春さんの指示に従ってサポートしてくれた事、そして今回兵を出してくれた事だけでも十分な功績であることを説明し、何とか納得してもらったけど、抜け駆けとかしそうで怖い。

まあ抜け駆けしてでも武功を立てて勝利に貢献してくれれば良いんだけど。

って、ダメだ!!

抜け駆けでの武功を認めたら今後も抜け駆けが常態化する恐れがあるから、明日の出発前に泰経さんに釘を刺しておいて貰おう。


そして翌日、空が白み始め出す頃に朝食を済ませ、辺りが明るくなり始めたので進軍を開始する。

泰経さんが説得して回ってくれたおかげか、抜け駆けをしそうな雰囲気は無くなり先陣を受け持つ国人領主の軍以外は殺伐とした雰囲気が無くなってる。

泰経さん、なんて言って説得したんだろうと思って聞いてみたら、「先陣で兵をすり減らして武功を立てるより、その後に攻めかかった方が武功が挙げやすく兵の損害も少ない」と言って説得したらしい。

確かにその通りだよね。

実際、先陣の国人領主の兵はすり減らす事を前提としてるしね…。


泰経さんと話をしながら進軍をしていると、なにやら前方が騒がしくなり、進軍が止まったと思ったら伝令がやって来た。

何があったのかと思い伝令の話を聞くとどうやら上杉顕定の軍が昨晩のうちに荒川を渡り、現代の寄居駅近くに陣を敷いて迎え撃つ準備をしているとの事だ。


「う~ん、荒川を渡ったんだ…、だとしたらこっちが渡河して攻めないといけないから不利だよね…」

「左様でございますな…、景春殿の兵と我らの兵を合わせても数で負けてますので厄介かと」


泰経さんも同意見のようでどうしたものかと言う顔をしてる。

「とりあえず鉢形城に行って景春さんと合流しよう。 上杉顕定が荒川を渡ったって事は今日合戦にはならないだろうし」


泰経さんは自分の言葉に同意し進軍を続けるように伝令を走らせると暫くして進軍が再開される。

その後3時間程進軍を続けると、鉢形城が見えて来た。


既に景春さんは軍を率い荒川を挟んで上杉顕定と対峙しているけど、家臣の河田長親さんが出迎えに来てくれた。


「お初にお目にかかります、長尾景春が家臣、河田長親と申します。 主人である景春は現在上杉顕定と対陣しておりますので替わりにご挨拶に伺いました」

「お出迎えありがとうございます。 とりあえず景春さんが陣を張っている所まで進軍するので案内をお願いできますか?」


「はっ、かしこまりました!!」

河田さんの案内で上杉顕定の軍と川を挟んで対陣する景春さんの陣へと向かう。

やっぱり景色が全く違うな~、電車に乗って寄居駅まで行って鉢形城の城址に行ったこともあるけど、城の形もなんか違うし、周辺の地形も違うような気がするし、やっぱり川の水量も違う。

そもそもまだこの時代の城郭は本丸や二の丸、三の丸に加え山城特有の出丸とかすらがあるほうが珍しいぐらいだったんだよな…。


「宗麟様、先の合戦での大勝利おめでとうございます。 これで顕定の首を獲ればこの関東で宗麟様に逆らうものは古河公方のみ、関東の統一が近づきますな!!」

陣に到着すると出迎えてくれた景春さんが片膝を付いて川越の戦勝祝いをくちにする。


「いやいや、まだ顕定の首を獲ってませんし、古河公方以外にもまだ敵対する人は沢山居ますから。 それより向こうの動きは?」

「昨晩のうちに荒川を渡り陣を張ってから動きはございません。 恐らく宗麟様が向かっていることに気付き、我らとの挟撃を恐れたのでしょう」


景春さんの案内で顕定軍が一望できる高台に向かい陣容を確認する。

見る限り守りに徹してこちらの消耗を強いる感じだ。

「積極的に攻める気はないみたいだね…」

「左様でございます、見る限り暫く対陣し折を見て和議を結んで合戦を終わらせるつもりと思われます」


「和議ね…、それはそれで面倒だから野戦でかたをつけよう。 夜本陣に来てもらえます? 軍議をしますんで」

その後、景春さんから鉢形城へ援軍に来ていた国人領主などからの挨拶を受けた後、自陣に戻り地図を眺めながら作戦を考える。

正面からだと損害が出るな…。

かと言って一部を迂回させて側面攻撃するにしても敵陣を見る限りその辺も対策立てているみたいだし。

はぁ~、損害少なくしたいからな~、まだ相模には大森家が居るし、三浦家も去就が定かじゃ無いし、何より古河公方にも備えないといけないからな~。


長く戦場で過ごしたうえ毎日のように男に囲まれてたから正月までには石神井城に帰ってのんびりしたい。

まあ合戦が終わって帰たら論功行賞とかで忙しそうだけど…。


補足--------------------------------------------------

古代から渡河途中の敵を攻撃する事で有利に合戦を進めようとする方法はよく見られていました。

合戦前に時間に余裕がある場合、渡河がしやすい浅瀬に縄を張った杭を打ったり、壺を埋めたりし渡河途中に敵兵が足を取られるような工夫もされていたそうです。

確かに川を渡ると来ているものが水を吸い重たくなるのでそれだけでも渡河する側は不利になりますね。しかも冬場なら衣服が濡れる事で体温まで奪われますので渡河する側は相当不利だったと思われます。

ただ膝下ぐらいの水量の川だとあまり意味をなさなかったようです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る