第31話鉢形城防衛戦

「長親!! 見よ! あそこに居る足軽の腹に当たったぞ!!」

自分からスリングの作り方と使い方を教えられ制作したスリングを使い籠城する足軽や雑兵が城に攻め寄せる上杉顕定の兵に向け城内から石を投げつける。

本来ならスリングを使用している事以外は普通の光景。

ただ大手門近くの櫓の上に登り足軽、雑兵のようにスリングで敵兵に石を投げつけている長尾景春が居ること以外は…。


大手門の守将である長親と呼ばれた景春の家臣、河田長親と景春の側近はスリングを使用して櫓から石を投げ無邪気にはしゃぐ景春をどう諫めようか頭を悩ませている。


「長親!! 見たか? そこの武者の顔を! 顔面に石が当たりその場で大の字になって倒れおった。 お主もやって見よ!」

「殿、恐れながら石を投げるなど足軽雑兵のすることでございます。 主殿にて指揮を…」


「指揮を執る必要もあるまい、見よ、本気で攻める気が無いから腰が引けておるわ! それよりもこのスリングと言うものよ、これなら力の弱い物でも石を遠くまで飛ばせられる。 投石機と言いスリングと言い流石宗麟様よ」

「確かに投石器もスリングも我らには考え付かぬような物でございますが…」


無邪気にスリングで石を投げ続ける景春の言葉に困った顔をしながら答えるも、一向に辞める気配を見せない主人を見て側近達も説得を諦めかけている。


「それはそうと長親、宗麟様より届けられたあの大きな弓、バリスタと言ったか、あれはどうなった?」

「それにつきましては仰せの通り名のある武者に使用する為に準備はしておりますが名のありそうな武者が城に近づかぬためまだ使用しておりません」


「そうか、あのバリスタと言うものは連射は出来ぬが一撃の威力が大きいと言うから名のある武者のどてっ腹に大穴を開けてやろうと思ってたんだがな…」

「恐らく殿の見立て通り本気で攻め落とす気がなさそうなので此度の合戦で出番は無いかと…」


河田長親の言葉を聞きつまらなさそうな顔をしながら逃げていく敵兵を一瞥し景春は櫓を降りていく。

「つまらん! せっかく宗麟様より送って頂いた物の威力をこの目で見れると思ったんだがな」


主殿に向かいつつ城の各所からもたらされる報告を聞き、どこも損害が無い事を確認し満足そうにうなずく。


「それにしてもここまで腑抜けた合戦をするとは、俺をここに釘付けにし、その隙に川越城を落として宗麟様が居る石神井を余程攻め落としたいらしいな…」


補足------------------------------------------

当時の城攻めは基本的にまず使者を送り降伏勧告をした後で城を攻めると言った感じでこれは概ね戦国時代を通して共通していたそうです。

この頃は国人領主同士の婚姻関係が複雑に絡み合っていたので城が落とされる前に和議を結び、領地の割譲や金銭の受け渡し、場合によっては城の破却などで終わり、戦国後期のように城主が自害して降伏するという事は少なかったと言われています。

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