第30話大休止

鉢形城で合戦が始まり、川越城が包囲されたころ、石神井城を出陣し味方に加わる国人衆を糾合しつつ飯能から生越を通り嵐山へて松山城へ兵を進める。


途中敵対姿勢を示す国人領主の蹴散らし館や家臣の屋敷から兵糧や家財を接収した後で火を放ちながら進軍し、日和見をしている国人領主には半ば脅迫し兵を出させている為、飯能に着いた時には兵の数が8000人近くにまでなっていた。


全軍には乱暴狼藉、乱取りを禁止しているので追い散らした国人領主の領地に住む住人への被害は無いので泰経さんを始め諸将からは甘すぎると言われてしまった…。

いや、今回の合戦に勝ったら追い散らした国人の領地は没収するし、乱暴狼藉や乱取りしたら恨み買うじゃん?

川越城の様子を見に行かした人の話だと上杉定正も自分と同じ考えなのか、それとも品川、江戸の両湊から兵糧や酒が届いているからなのか川越城の近隣以外では乱暴狼藉や乱取りを禁止してるみたいだし。


「ここまでは順調に来たね。飯能一帯は景春さんに味方する国人衆しか居ないから一旦飯能で軍を休めよう」

「それでは道灌殿の守る川越城を攻める上杉定正への牽制の為の松山城攻めが後れるのでは?」


泰経さんが不思議そうな顔をし、諸将も一様に1~2日程休息したら出発するべきだと口を揃える。


「う~ん、なんて説明したら良いのか…、ザックリと言えば川越城で戦いが始まって10日以内に落城しなければ多分その後は道灌さんが降伏しない限り落城はしない。 反対に10日以内に落城したら上杉定正はそのまま石神井城へ攻め寄せる。 だから暫くの間はここで様子を見る」

「10日でございますか? しかし10日守りきれば落城しないとは?」


一様に信じられないと言った顔をしている諸将に対し簡単に説明をする。

実際の所、道灌さんには川越城の防衛強化を指示しているし、スリングを始め投石器やバリスタを送り使用方法を教えている。

それらを有効的に活用すれば攻め手に損害を強いる事が出来るうえ、大軍で一気に攻め落とそうとすればどうしても兵が密集する為、小出しに攻め寄せた際よりも甚大な被害が出るはずだ。


確かに6万と言う兵力は驚異ではあるけど実際は国人衆の寄せ集め、更に言うと自分や道灌さん、景春さんに味方したくても所領の関係で旗幟を鮮明に出来ず仕方なく加わっている国人衆も多いはず。

そして江戸、品川湊の商人から兵糧や酒を買える状況で足軽や雑兵を相手をする遊女も送り込む手はずになっている。

恐らく最初は一気に攻め落とそうとするだろうけど、それを凌げばこのまま攻めた際に出る損害を鑑みて包囲し兵糧攻めに方針転換を図るだろうと伝える。


「ではここで川越城の様子を伺い上杉定正が兵糧攻めに切り替えたと判断したら進軍を再開すると?」

「そういう事。 何故関東管領の上杉顕定の兵が少なく、鉢形城の抑えのような事をしているのかが分からないから不気味ではあるんだけど、とりあえず川越城が落城したらすぐに引き返さないといけないからね」


そう伝えると諸将は若干何か言いたそうな感じだったけど納得はしてくれた。

いや、道灌さんを見捨てるとか考えて無いからね!!

自分も道灌さんも景春さんもそれぞれの役割を果たしているだけだからね!!!

それに自分が率いている兵達にも休息は必要だし、景春さんに味方する国人しか居ない飯能はある意味安心して休息が取れる最後の場所だからね。!!

実際こっから先は敵か味方かわからない国人領主が居るし、嵐山からは周囲敵だらけだから。


飯能周辺は主に中山氏、岡部氏、加治氏の三家が治めておりその中でも石神井城に一番近い加治氏の館に間借りをし、他の諸将や国人衆は分散して中山氏、岡部氏の領土で休息を取らせる。


8000人もの兵を駐屯させる事で中山氏、岡部氏、加治氏の3家に若干なりと迷惑をかけるのでこの合戦が終わった後にお礼を約束し、当座として500貫文を迷惑料として渡す。

最初は3人共遠慮していたけど、どんなに軍紀を引き締めていてもトラブルは起きるのでその詫びの先渡しという事で何とか受け取って貰えた。


加治氏の館に間借りし2日目、諸将と今後の方針を話しつつ周囲の情勢を探っていると江戸城の泰明さんから書状が届いた。


どうやら良い知らせと悪い知らせの両方があるみたいだ。

出来れば良い知らせだけが良かったのに…。


そう思いながら書状に目を通す。

まじか…、可能性があるとは思ってたけど、悪い知らせの内容は本当に悪い知らせだった…。

そして良い知らせは良いんだけどこの合戦に影響するものの状況を好転させるものではない。


流石にチョットこれはまずいかも…。


補足----------------------------------------------------------

当時、土地を大小の国人領主が治めており、それを守護代や守護などが管理をすると言った感じの統治をおこなっていました。

その為、守護代や守護に不満があると、不満がある国人領主が手を組んで反乱を起こすなどが良くあったそうです。

また領主同士の合戦(小競り合い)なども良くあり、特に水に関する争いが絶えなかったそうです。

米を作る為の水がある意味国人領主や農民の生命線だったようです。

※諸説あります。

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