第27話風雲急を告げる急報

突然の急報は道灌さんの居る川越城、景春さんの居る鉢形城の2箇所からもたらされていた。

どうやら両上杉家が夏場の農閑期に静かだったのは上野や下野の国、そして常陸や越後の国人達にまで手を伸ばしていた為みたいだ。


それにしても鉢形城には関東管領上杉顕定が率いる3万の兵が、そして川越城には扇谷上杉家当主、上杉定正が率いる6万の兵が向かっているとの事だった。


ただ疑問なのは本来なら関東管領である上杉顕定の率いる兵が少なく、扇谷上杉家当主、上杉定正の兵の方が多いという事だ。

恐らく何らかの取り決めが両上杉家内で行われたものとは思うけど、鉢形城攻めは景春さんの動きを封じるのが目的で、今回は確実に川越城と道灌さんを叩き潰す気満々と言う事だけは分かる。


もしかしたら古河公方である足利成氏と上杉家が一時的に和議を結んだ可能性もあると泰経さんが言っていたけど、だとしたら相模の国の情勢次第で完全に四面楚歌状態に陥ってしまうんだよね…。

現在の所、古河公方に動きは無いらしいけど、戦況によっては漁夫の利を狙って動き出す可能性もあるとの事で要注意状態だ。


「泰経さん、因みに豊嶋家としてはどうする予定なんですか?」

「豊嶋家としてでございますか? 豊嶋家は宗麟様の家臣でございますので宗麟様の方針に従います」


「じゃあ合戦に参加すると言ったら?」

「もちろん従わせて頂きます」


そう言い泰経さんは平伏した。

ただ検地の結果支配地域の石高は約68000石、専業の足軽を雇用し始めたとはいえ、豊嶋家が兵士を最大動員しても4000人ぐらいだけど、領地の防衛戦力も残さないといけないから、傘下に加わった近隣の国人領主の兵を合わせても実際に動かせるのは良くて5000人程度。

援軍に行っても焼け石に水の状態な気もする。


一応、道灌さんと景春さんには籠城戦にも攻城戦にも使える試作固定式投石器を6基、試作大型の弩であるバリスタを8基送って使用方法を教えてるから防衛の役に立つとは思うけど、数に任せて連日力攻めされたらどうなるかわからない。

持久戦に持ち込んで貰えば勝機はあるんだけど。


道灌さんと景春さんからの書状には籠城の支度は出来ていて兵糧も十分だし近隣の国人領主も加勢に来てくれているので数か月は大丈夫との事だけど、流石に川越城の道灌さんは6万を相手にする以上かなり厳しいと思う。

景春さんの鉢形城は恐らく大丈夫だろうけど…、ってか景春さんは反対に打って出て野戦をしないかが心配だ。

周辺の味方に声かけて兵を集結させたら1万人以上は集められそうだし。


「宗麟様、如何なされますか? 景春殿はに援軍を送れば関東管領家と敵対する事になり、道灌殿に援軍を送れば6万人を相手にしないといけない事になりますが…」

「う~ん、相模の情勢も気になるし、古河公方の考えも分からないからな~、ただ今回の合戦は確実に両上杉家が連動して自分の家臣になった二人を標的にしてるから前に送った書状の欺瞞がばれたって気がするんだよね。 だとしたら既に関東管領である上杉顕定とは敵対状態にあると判断して行動する方が良い気がする」


「では景春殿を救援した後で景春殿の軍と一緒に川越城を?」

「う~ん、何というか、まだ両城とも敵が押し寄せてないだろうから、今のうちに書状を送って貰えます? 後は成田家にも…。 内容は…」


泰経さんに景春さんと道灌さんに宛てて書いた書状を急ぎで送って貰い、豊嶋領と自分の傘下に加わった国人領主へ陣触れを出して貰う。


そして江戸城に居る木戸さんにも書状を送り、江戸、品川湊の商人に相模から大量の米や酒を仕入れ入間川の水運を利用し両上杉家へ売りつけるように依頼をする

川越城を攻める上杉定正には米や酒を売る以外にも相模から遊女を送り込むよう手配してもらう。


「恐れながら、敵に兵糧を売るように命じるのは如何なものかと、敵は大軍故に大量の兵糧が必要になります。 商人共には売らないよう厳命すれば長陣できなくなるのでは?」

「そうなんだけどね…、兵糧が不足すると近隣で乱取りが起きるだろうし、短期間で城を落とさないといけなくなるから、敵の兵糧が潤沢にあった方が助かるんだよね。 それに江戸、品川湊の商人も儲かるし、相模から大量に兵糧を仕入れれば相模で合戦は起きにくくなるだろうし」


「なるほど、長期戦を望む宗麟様に都合が良くなるうえ兵糧や酒を買えば買う程商人が利を得てひいては宗麟様へ収める税が増えると」

「そんなとこだね。 それと陣触れの際は、川越城救援では無く鉢形城と川越城の間にある、松山城を攻め落とし両上杉家を分断すると大々的に伝えて」


「それも何か狙いが?」

「うん、自分が何処を攻める為に何処に居るかを両上杉家に把握していてもらいたいし。 進軍ルートは飯能から日高、越生、ときがわを抜けて松山城へ向かうって事も伝えといてね」


「かしこまりました。 ではそのように手配致します」

そう言い泰経さんは陣触れを出す為に主殿を後にする。


留守居は農政改革の責任者でもある白子さんに任せるとして、江戸城の泰明さんも古河公方が動いた際の抑えとして待機をして貰おう。


景春さんと道灌さんに送った書状には自分の行動予定を記載しておいたので多分齟齬は起きないとは思うけど、川越城がどの程度耐えきれるかだよな…。

道灌さんが江戸城から川越城へ行くときに城の防衛能力を強化するようには伝えたけどどの程度増強されてるか…。


それに川越城が取られるだけなら良いんだけど道灌さんを失うのは痛いから何とか2ヵ月は耐えて貰いたい。

軍用犬を育成しとけばよかった。

野犬はそれなりに居るから訓練すれば軍用犬になりそうだからこの合戦が終わったら育成しよう。


補足-----------------------------------------------

日本で初めて犬に訓練を施して軍用犬として使用されたと言われているのは1500年代中頃に居た太田資正(道灌の甥の孫?)だったと言われています。


弩・クロスボウ

実は日本には弥生時代には伝来していたという説がありますが、西暦1000年代以降になると連射が出来る弓が主流となったみたいです。

原因としては武士の世になると武芸を極めると言う武士の風潮に合わなかった、また馬上での使い勝手などが悪まったなどが理由と言われています。

※諸説あります

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る