第26話栄え始める豊嶋領

収穫期も終わり、冬が近づいて来るころ、やっと秩父にあるはずの鉱山視察に行く余裕が出来た。

もっと早くに行こうと思えば行けたんだけど、日常生活で必要な物とか便利な道具などの制作を冬になる前に行たりしていたら視察が後れてしまったと感じだ。


だってこの時代の風呂ってサウナみたいな物で湯船に浸かる物では無いし、井戸水を汲むにもいちいちロープの付いた桶を落として主導で引き上げると言った感じだし、全てにおいて不便だったから視察よりも生活環境改善を優先してしまった結果ともいえる。


一応、長尾景春さんにお願いして比較的分かりやすい石灰石を採掘して送って貰いはしたものの、金・銀・銅・鉛・鉄などは手つかずのままだ。

そして秩父鉱山の視察を先延ばしにして出来た物は、井戸水を汲み上げる手押しポンプ、お風呂のお湯を沸かす為のボイラー、道具類としてはツルハシ、水車の動力を使用して物を切ったりする為の円形の刃物等々、鍛冶職人さんが過労死しないか心配になるぐらいだ。

だって、他にも通常通り刀剣類やら農具やらも作ってたからね。

まあこれも楽市楽座で人の動きが活発になったおかげか、鍛冶職人の仕事が豊富にあると聞きつけて移り住んで来る職人さんもかなり居たから何とか冬までに間に合ったと言った感じだけど。

それでも鍛冶職人さんはフル稼働状態なんだけどね。

なんせ井戸水を汲み上げる手押しポンプなんかはいくら作っても不足状態だし農具類もまだ領内全てには行き渡ってないのでエンドレスで作り続けている感じだ。

しかも腕の良い職人さんには鉄砲の生産の話もして試作を始めて貰ってるし…。


因みに忙しいと言えば木を扱う職人さんも絶賛大忙し。

水車の動力を使った水力工具を導入してとは言え通常の揚水水車に加え足踏み式揚水水車、そして水を流す木製の水路作りとこちらもいくら作っても先が見えない状態だ。

ただこの時代、未開拓部分の多くは木々が生い茂っているので木材には事欠かないので農閑期に仕事を求めて他国からやって来た人などを雇い開拓に適した土地で木を切る仕事をして貰ってるので今の所木材には余剰在庫状態だ。

ただ現在は生木の状態で加工してるので従来通り半年~1年程乾燥させる分が確保できているのでむしろ早期に開拓が進み乾燥済みの木材も確保できるので実は都合が良かったりもする。


とはいえ人が多く集まると言う事は間者も多く紛れ込んでいる可能性が高いけど、現時点では阻止するすべもないので放置状態だ。

まあ豊嶋領が栄えだしたら日和見や敵対姿勢の国人領主考え方が変わる可能性もあるので良しとしてる。

どうせ阻止できないならどのぐらい栄えているか見せつけた方が良いし。


そして冬に必須な羽毛布団!!!

掛布団、敷布団合わせて10セットは用意出来た。

本音を言うと敷布団は羽毛じゃなくて綿を使いたかったんだけど、交易で手に入れるのは高級品らしく、国内でも栽培されていない様だったので羽毛で敷布団も作ったりもした。


後は自分の住む場所だけど、石神井城だと狭すぎて、今後多くの国人領主などが集まった場合、主殿に人が入りきらないという事もあり、新たに城を築く事になってその場所の選定、どのような城にするかなどで意外と時間がかかった。

因みに新たな城は、以前道灌さんと合戦をした江古田原沼袋、江古田川と妙正寺川の流れを少し変えて両河川の合流地点辺りに城を作る事になり、現在は河川工事と並行して盛り土などをおこなっている最中だ。

泰経さんの話では、特に防御に重点を置かないなら来年の秋までには完成するとの事、ただ石垣を導入するにあたり職人が居ないので石垣の完成はそれよりも遅れるとの事。

まあ石垣が本格的に導入されたのってまだ先の時代からだから、職人が居ないのは仕方ないよね…。

今はもっぱら石材を集めている最中らしい。


そんな事で遅れる事数か月、明後日にも秩父の鉱山視察に出発しようとしていた矢先、石神井城に急報が飛び込んで来た。


何故に!!!

って収穫が終われば農閑期だからこの時代では合戦の季節だからだよね…。


はぁ~、来年の冬以降にして欲しかったのに。

そう思いながら泰経さんに詳細を聞くと一気に血の気が引いて行く。

まさか農閑期だからってここまでの事態は予想してなかった。


補足---------------------------------------------------

この時代の風呂は主に、現在のように浴槽にお湯を入れて湯に浸かるのではなくサウナみたいな形で部屋に蒸気を充満させて蒸し、汚れや垢を落としていたそうで庶民には縁が無かったようです。

蒸し風呂状態だったとか現在使われていますが、この時代の風呂と呼ばれたものから取った言葉なのでしょうか…。

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