第8話出陣
打ちあわびをつまんで口に入れると、泰経さんが盃に三度に分けて注いでくれた酒を三度に分けて飲み干す。
次にかち栗をつまんで口に入れ、二の酒を同じよう注いでもらい三度に分けて飲み干す。
その後、昆布を口に入れ、同じく注いで貰った酒を三度に分けて飲み干す。
それにしても出陣前の三献の儀も自分の居た世界で伝わってるのと同じとは…。
そう思いつつも頑張って声を張り上げ言葉を続ける。
「今回は江戸城攻略と共に城に居る太田道灌及び上杉朝昌、三浦高救、吉良成高、大森実頼、千葉自胤を生け捕る事が重要です!! とは言え吉良成高と大森実頼だけは討ち取ってもいいですけど、道灌、朝昌、高救の3名は確実に捕えるように!!」
なんか、ドスの効いた声で言うと迫力ありそうだけど、自分が言うとなんか締まらない…。
再度今回の目的を伝えた後、教えられた通り盃を持ち二歩ほど前にでて盃を頭上に振りかぶり地面に叩きつける。
パリーン!!
乾いた音がし盃が砕け散りると、泰経さんが捧げ持つ弓を受け取り、事前に渡されていた軍扇を広げて今度は場が締まるように気合を入れて大声を出す。
「エイエイ!」
「「「「オォ~~~!!」」」」
「エイエイ!」
「「「「オォ~~~!!」」」」
その場に居る30人ぐらいの人が声を揃えて叫ぶと部屋の中で声が反響し腹に響く感じがし身が引き締まった感じがする。
それにしても昨晩、出陣の儀をするように言われて付け焼刃で作法を教えて貰ったけど間違ってなかったよな…。
なんか出陣前は凄く縁起を担ぐ事に力を入れているから間違えてたら凄くヤバい気がするんだけど…。
そう思っていると、泰経さんが小声で声をかけて来たので、昨晩伝えられた通りの口上を口にする。
「皆の者、此度の合戦、豊嶋泰経が嫡男、豊嶋宗泰が初陣である!! 各々、次期豊嶋家当主の戦振りとくとご覧あれ!!!!」
「豊嶋泰経が嫡男、豊嶋宗泰にございます。 なにとぞお引き回しの程よろしくお願い申し上げます」
宗泰君が挨拶をすると、その場に集まった人達は初々しい若武者に凄く優しい目を向けている。
流石豊嶋家当主の嫡男ともなると一門衆や家臣から好意的な目で見られるもんなんだね…。
しかも、昨日までと名前が変わっているのに誰も突っ込まない!
泰経さんが昨晩か出陣の儀の前に皆に伝えたのかな…。
そう、実は昨日までは宗泰君の名前は泰盛だったんだよ。
昨夜、泰経さんと打ち合わせをしてる時に名前の一字を貰って改名させたいと頼まれて気軽に「良いですよ」と言ったらその場に泰宗君を呼び出して改名させたんだった。
確かに戦国武将もコロコロ名前変えている人居るもんね…。
宗泰君が張り切って挨拶した後、自分が広間から出て外に向かうと皆さんが続々と続いて来る。
「ところで泰経さん、江戸城の動向とかって調べてるんですか? まさかとは思いますけど調べてないなんてことは無いですよね?」
「もちろんです。 物見ではございませんが足の達者な者を20名程向かわせて動きを探っております」
「なら良いんですけど、それで何か情報はあるんですか?」
「いえ、今の所はまだ何もございません、向かわせた者にはどの程度の兵力が集まったか、または道灌の動きが分かった時、打って出た際は何処に陣を敷いたかなどを伝えるように指示をだしていますので」
良かった…。
流石それなりの勢力を持つ豪族だけあって情報の重要性は理解してるみたいだ。
これが我が家は名門だから敵の動きなど関係ない! 正面から打ち破るのみ! とか言う人だったら情報の大切さを教える所から始めないといけないとこだった…。
補足---------------
※補足
三献の儀
出陣前に行う儀式で「一に打ち鮑、二に勝栗、三に昆布」と言われ、「敵に打ち、勝ち、よろこぶ!!」と言う言葉で縁起を担いだと言われています。
また、他にも連歌会を催したり、まじない、祈祷などをおこないゲンを担いだとも言われています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます