1-11 ある記事の抜粋

『ポートレイ博士死亡、強盗殺人か』

二〇日午前四時ごろ、セントポール州イーストベリーでアダム=ポートレイ博士の死亡が確認された。市警察が地域住民から「銃声がした」との通報をうけ、周辺の捜査を行ったところ、自宅にて死亡しているポートレイ博士が発見された。警察の侵入時、自宅内が荒らされた形跡があったことから、強盗殺人の可能性が高いとして今後捜査を行う。ポートレイ博士はベルンハルド物理学賞を受賞後、生理学分野においても論文を執筆しており、合衆国が誇る知の巨人の突然の訃報に驚きや悲しみの声が多く寄せられている。

(文・ジョン=マッキンリー/合衆国中央新聞より抜粋)


『故人を想う 第十六回 偉人の喪失』

 ポートレイ博士は間違いなく人類史上最も偉大な学者のひとりであった。宙鉄に特有な現象の原理解明により今日の宙鉄物理学の基礎を確立し、中でも宙鉄を用いた強磁性環境下におけるエネルギー再生則——いわゆるポートレイの法則はかつて人類を悩ませていたエネルギー問題を解決に導いた救世主的発明だった。一方で私の知るポートレイ博士はいつも目を輝かせている好青年でもあった。大学の課題レポートはいつもこちらを唸らせる深い理解と斬新な着眼点で書かれており、物理学に限らず幅広い分野で交友関係を築いていた。私などは彼の活躍を後ろから応援し、時には見守る立場だったのだが、彼は結婚するときや娘が生まれた時など事あるごとに研究室のドアを叩いて「先生」と声をかけてくれるので、長い間仲良くさせてもらっていたものだ。彼の最も優れているところはまさにそこで、学者にも人脈が大事であることを体現した素晴らしい学者だった。

 さて、本年はポートレイ博士の強盗殺人事件から五年の節目である。しかし私には彼の死が未だ信じがたく、今も研究室のドアを叩いて「先生」と呼んでくれそうな気がしてならない。当時、彼の死によって科学技術の進歩は数十年歩みを止めることになると言われていた。これからの技術を担う研究開発者諸君には、この言説を馬鹿げた予言だと笑い飛ばせるような新技術を次々と発表してくれることを祈る。

(文・ディーオット大学教授アレクセイ=フォードランド 編集・パトリシア=ウィーゼルトン/The Centpore Timesより抜粋)


『アリシア=ポートレイ、GDCの新キャスターに就任。ポートレイ博士の魂を継ぐ』

CNC社は十一日、同社の朝の情報番組GDCの新キャスターにアリシア=ポートレイを起用すると発表した。アリシアはベルンハルド賞受賞学者である故アダム=ポートレイ博士の娘であり、CNC社には昨年度入社。「メディアとしての責任を持って、誠実に報道したい」と意気込みを語った。ポートレイ博士から受け継いだ明るく誠実な人柄は、インタビュアーとして、またセントポールの朝の顔として素晴らしい効果をもたらすことを期待されている。

(文・リサ=ハワード/CNC Webより抜粋)

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