違和感の正体
「これ、この前チャーが持ってきたワイン。上物みたいだぞ?」
「俺は酒を飲みに来た訳ではないぞ?だいたいこんな昼間から・・・・」
「いいから飲め。」
威圧感さえ感じる海斗に、目の前に置かれたワインを、俺は仕方なく口にした。
たしかに上品な味だった。
・・・・チャミの奴が好みそうな味だ。
2、3杯グラスを重ね、他愛のない雑談の後、海斗がこう切り出した。
「なぁ、朔。お前本当に、これでいいのか?」
「なにが、だ?」
「なにが、って。チャーの事だよ。」
テーブルを挟んで向かいに腰掛け、海斗はじっと俺を見た。
ワインのせいで、多少口が軽くなっていたのだろうか?
俺は思わず、チャミの奴への恨みを口にしてしまっていた。
「仕方が無いだろう?突然連絡も寄越さなくなったのは、あいつの方だぞ?俺に一体何ができるっていうんだ。」
「えっ?」
「一方的に押し掛けてきておいて、自分勝手に引いていきやがって・・・・一体なんなんだ、あいつはっ。」
怒りに任せて、グラスを煽る。
だが、空になったグラスには、ワインは一向に注がれない。
正面を見ると・・・・海斗は驚いたような、呆れたような顔をして、俺を眺めていた。
「・・・・なんだ?」
「なんだも何も・・・・」
はぁ・・・・、と盛大にため息を吐き、海斗はようやく、空になった俺のグラスにワインを注ぐ。
「ほんっとじれったいな、お前ら。」
「何のことだ?」
「お互い、こんなに想いあってるのに。」
「なんだと?」
「まぁ、俺の話も聞けって。」
自分のグラスにもワインを注ぎ足し、海斗はゆっくり話し出す。
「そうだな、もうひと月くらいは経つかな?チャーが、俺にこう言ったんだよ。『今さっき、火宮さんとの関係を終わらせて来ました。』って。」
「なにっ!俺はそんな事は・・・・」
「人の話は最後まで聞く!」
俺を制し、海斗は話を続ける。
「もうだいぶ前から、随分悩んでたんだよ、チャーの奴。お前の心が全く読めない。もしかしたら私は本気で煙たがられてるんだろうか。もしそうだとしたならば、出会ってすぐくらいの、ただ片想いしているだけの知り合いに戻れた方が、ずっと幸せでラクになれるのかな、ってな。だから俺は、『ちゃんと戻れたのか?』って聞いたんだ。そうしたら、『ちゃんと笑顔で戻れたよ』って言ってたんだ。だから、俺はてっきり、お前らは円満に関係を清算できたんだと思ってたのにさ・・・・相変わらずチャーはまだ割り切れてないようだし、お前は最近ずっと辛気くさい顔してるしで、おかしいとは思ってたんだ。てことは、要するにお前らは・・・・」
(『戻る』・・・・だと?)
BGMのように続く海斗の声を聞きながら、俺は、チャミの奴との最後のデートの別れ際を思い出していた。
『じゃあ・・・・そろそろ戻ろっか。』
確かに、チャミはそう言っていた。
いつもならばさしずめ、
『じゃあ、そろそろ帰ろっか・・・・名残惜しいけど。』
とでも言うはずだろう。
(そうか・・・・あの時の違和感はこれだったのか・・・・お前はあの時、そんな事を・・・・)
「そんなの・・・・分かる訳無いだろ、バカ野郎・・・・」
沸き起こったのは、怒り。
チャミへの。
そして、自分への。
「バカ、野郎」
小さく呟き、俺は再び一息にグラスを空けた。
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