どうかしました?

(ん?・・・・あれは。)

他部署へ書類を届けた帰り、オフィス内で偶然、俺は久しぶりにチャミの姿を見つけた。

ここ最近、俺のフロアには他のSEばかりがやってきていた。

「よぉ。」

思わず、声を掛ける。

突然、何の連絡も寄越さなくなった事を、責めてやるつもりでいた。

だが。

「あぁ、火宮さん。どうされました?何かシステムトラブルでも?」

(・・・・チャミ?)

振り返ったチャミの顔に、言葉が喉の奥に吸い込まれた。

チャミの奴が俺に向けた笑顔。

それは、いつもの弾けるような笑顔ではなく、『ビジネススマイル』だった。

「あ・・・・悪いな、仕事中だったのか。」

「嫌ですね、火宮さん。私がここへ来るのは、仕事の用しかありませんよ。」

「えっ・・・・。」

チャミの言葉に、俺は辺りを見回す。

こいつがそんな取り繕った言葉を言う時は、大抵周りに誰か居る時。

誰もいなければ、やれ次の休みはどこに行きたいだの、今日のランチ一緒に行こうだの、実に積極的に俺を誘ってくるはずだ。

しかし、周りに人影は見あたらない。

「どうかしました?火宮さん。どなたかお探しですか?」

「・・・・いや。」

「それで、何か私にご用ですか?」

チャミの姿勢はあくまで、仕事姿勢。

俺はまるで、狐にでもつままれたような気分だった。

「・・・・お前、最近はその、忙しいのか?」

「そうですね、お陰様で忙しくさせていただいています。」

「そうか。じゃあ、ここへはちょくちょく来ているのか?」

「えぇ。今日も夢野さんのところで、トラブル対応がありましたので。」

(俺は、夢を見ているのか?)

そんな思いすら、頭を掠めた。

(こいつは本当に、チャミなのか・・・・?)

目の前にいるチャミの顔が、仮面を被った顔にさえ見える。

俺は、目眩を感じて、チャミの奴から目を逸らした。

「そうか。悪いな、呼び止めて。」

「いえ。何かご用がございましたら、いつでもご連絡ください。では。」

満面の笑顔を貼り付け、チャミの奴は俺の前から去って行った。

俺はただ、何を言う事もできずに、その背中を見送った。

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